島田珠代がくりぃむしちゅーの上田にされて気持ちよくなること「イジられないと満足できない身体になってしまった」
集英社オンライン / 2024年10月13日 12時0分
唯一無二の持ちギャグで吉本新喜劇を長きにわたり支えている、お笑い芸人の島田珠代さん。そんな彼女が仕事への哲学や自分らしさ、女として生きることを赤裸々につづったエッセイ『悲しみは笑い飛ばせ! 島田珠代の幸福論』から一部を抜粋・再構成し、島田珠代のプロの「返し」のテクニックを披露する。
カワイイって言わないで
2丁目劇場で舞台に立っていた頃から、今でもずっと変わらないことがあります。それは、「かわいいですね」とか「いい匂いですね」っていうポジティブな反応をされたくないということです。
女性として容姿イジリは傷つくでしょ?と思う人がいるかもしれませんが、仕事の場面でかわいいとか言われたら、一番しんどい。強がっているわけでもなく本心でそう思っています。たぶん、こういうマインドが一般の方と大きく異なる点なんでしょうね。
私は見た目をイジられるプロなので、どんなことを言われても構いません。みなさん、忘れてしまっているかもしれませんけど、私は容姿をイジられてお金をもらっているんですよ。そりゃ、並大抵の耐性ではありません。
今では、イジられないと満足できない身体になってしまったんですから。むしろ、今までに言われたことのないテンションでイジられたら、それをどうやって笑いに持っていけるかと燃えてしまうタイプです。
ちなみに、私が好きなツッコミをしてくれる芸人さんを挙げるとしたら『くりぃむしちゅー』の上田さん。ちょっと雑な感じで「お前、バケモノだろ」とか「お前のことなんか誰も見てねえよ!」と言われると、気持ちよくて身体がゾワゾワするんです。もうおかしいでしょ?
そんな雑な扱いをした後に、撮影が終わると「またよろしくお願いしますね」って優しく挨拶してくれて……はぁ、もう思い出すだけで最高。定期的に罵られたくなる。
一昔前なら、先輩にツッコむなんてやってはいけないことだったのかもしれないけど、私はどれだけイジられてもいいと思っているから、先輩も後輩も関係なくガンガン来てほしいと思っています。
容姿イジリを差別的と捉えられて、なかなか塩梅が難しい世の中になってはきていますけど、それでも私たちはプロなので「どうぞ安心して笑ってください」という気持ちで舞台に立っています。
プロの駆け引き
笑いのプロと言っても、やりとりの中でヒートアップしてイジリすぎてしまうこともあります。会場が盛り上がって「もっとやったれ!」みたいな雰囲気のときには全然問題ないですが、いきすぎてしまうとお客さんは「それは珠代ちゃんがかわいそう」って感じてしまうことがあります。
見ている人が「かわいそう」と思ってしまったらもうお笑いにはならないと思います。
舞台に上がっているときに、そういう空気を感じ取ったときには、イジリに負けないボケで上書きしていくしかないんです。「一瞬かわいそうだと思ったけど、やっぱり珠代ちゃんはこれくらい言われないと分からんよな」って見ている人が思ってくれるくらいにボケないと。
そんな気遣いをしているうちにツッコミの人も冷静にまわりを見られるようになって、全体としては丸く収まるということもあります。
ただ、難しいことにツッコミの人が最後までなかなかお客さんの反応に気づいてくれないこともあります。というのも、舞台はリアルタイムで進むから自分のことで一生懸命だったり、まわりを見る余裕がなかったりすることもあるんです。
空気は悪くしちゃいけないし、お客さんにも気を遣っているのがバレてしまうとしらけてしまう。だから、あまりにエスカレートしてしまったら、「ちょっと、それは言いすぎちゃう?」みたいなことを舞台上でわざと話して、エンタメとして昇華することもあります。
どれだけ長くお笑いの世界にいても、舞台を降りれば後悔の連続です。よく言われることですが、芸人が笑いを取れなかったときのダメージは、一般の人の1000倍。これは本当にそうだと思います。
想像になってしまいますけど、会社員の人が飲み会で笑いが取れなかったとしても、何日もどんよりとした気分を引きずって過ごす人は少ないと思います。
でも、芸人は笑いがすべて。笑いが取れないというのが一番しんどいことです。人の1000倍傷ついたとしても、舞台に立てばまた目の前の人を笑わせたいと思ってしまう。それが芸人の性(さが)なんだと思います。
文/島田珠代
写真/松木宏祐
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