<吉本新喜劇・島田珠代>知られざる「容姿いじり」への葛藤「『バケモノ』はいいけど“あの言葉”だけは…」
集英社オンライン / 2024年10月13日 12時0分
吉本新喜劇の看板女優のひとりで、「パンティーテックス」「おばちゃんダンス」といったギャグを駆使し、再ブレイクを果たした島田珠代さん。自身初のエッセイ『悲しみは笑い飛ばせ! 島田珠代の幸福論」では二度の離婚、娘との別離といった壮絶な人生が綴られている。現在の芸風に行き着いた経緯や、容姿イジリに対する考え方について聞いた。
「かわいい」と言われたら芸人として終わり
これまでテレビでも前夫との死別や、娘との別居について語ってきた島田珠代さん。それらをさらに仔細に記したエッセイ『悲しみは笑い飛ばせ! 島田珠代の幸福論」の中でも、ハイテンション芸を披露する姿からはかけ離れた、“容姿イジリ”に対する葛藤が赤裸々に綴られていたのが衝撃だった。
――そもそもどのような経緯で芸人になられたのでしょう?
高校2年生のとき、バラエティ番組『4時ですよーだ』の素人参加コーナーに出演、それを見ていた吉本興業の社員さんに声をかけられたことをきっかけに、事務所に所属しました。
高校3年生のころには「心斎橋筋2丁目劇場」に立たせてもらっていたのですが、当時の劇場のお客さまのほとんどは若い女の子で、一緒に舞台に立っていたダウンタウンさん、今田耕司さん、東野幸治さんのファンたちはとにかく熱狂的だったんです。
そんなある日トイレで、ある女性芸人が20人くらいのファンの女の子に囲まれながら、「あんた今田さんとしゃべりたいから、この世界入ったんちゃうん」と詰め寄られているのを目撃したことがありまして…。
そのときに女性から嫌われたら生きていけない、女性でも男性でもない“島田珠代”にならないと笑ってもらえないと感じたのを覚えています。トラウマがあるのか、今でも「かわいくなったね」などと褒められたら、芸人として終わりだと感じてしまいます。
――その後新喜劇に出演するようになり、壁にぶつけられたり、容姿を笑いに変える「三枚目女優」の道に進んでいったのですね。
新喜劇での立ち回りに悩んでいたときに、先輩から「三の線を狙っているなら、あえてかわいこぶった演技をしたほうがいい」と言われて、アドバイスを信じて演じたら、かつてない笑いが起こったんです。
そのときに舞台上で言われた「気持ち悪いわぁ~!!」という言葉は最高に気持ちいいものでした。
「容姿をイジられて辛くないですか?」と聞かれることもありますが、テレビや舞台上で容姿をいじってもらえるのは、本当にありがたいんです。私は三枚目の芸でご飯が食べられているわけですから。
心が痛むこともあるが、救われている人もいる
――エッセイの中で容姿イジリに対する葛藤が語られていたことが印象的でした。
私に言っていることを、実の娘にも言ってもいいと勘違いさせてしまったり、学校でのイジメを助長して子どもたちを追い詰めているのではないか、と心配になることはあります。
一方で、私の芸で救われている人がいることも励みになっています。「自殺をやめました」といったファンレターをいただく機会も多いんです。
――人を傷つけてしまう容姿イジリと、芸人の世界で行なわれる容姿イジリの違いはどこにあると思いますか?
あくまで私の考えですが、プロの世界の容姿イジリは、本当に思ったことを言っているわけではありません。プロの技術を駆使して、観客や視聴者を楽しませようという意図をもち、笑いを生み出しています。
芸人はイジリを芸に昇華することで生計を立てているので、人を傷つけるような「イジリ」とは別物だと思います。それに、芸人のみなさんは覚悟をもって舞台に立っていますし。
一般社会では、言われた側が少しでも「嫌だ」と思った時点でアウトですよね。ひと昔前よりは容姿イジリに厳しい社会になっているとは思うのですが、それでもイジメとしての容姿イジリは無くならないのではと思っています。
本当に難しい問題ですよね…。
――珠代さんが容姿をイジられても気にしなくなったのは、プロの芸人としてデビューしてからですか?
実は私自身は、この世界に入る前から容姿をイジられても気にするタイプではありませんでした。幼稚園か小学校の頃に、自分がブサイクだということを受け入れてからは、何とも思わなくなりましたね(笑)。
でも容姿を気にしている人に伝えたいのが、容姿の美しさだけが人間の魅力ではありませんし、心が美しい人も素敵なんです。自分のどの面を磨くかを考えてもらいたいなと。
容姿がダメと分かっても落ち込んで立ち止まるのではなく、それは一旦受け入れて、例えば好きな人がいるのであれば、その上でどうすれば振り向いてもらえるんだろうと考えを切り替える強さを持ってほしいなと思っています。
私の場合はそれが「笑いを取ること」だったんです。
「おばちゃん」と呼ばれることは受け入れられなかった
――新しいパートナーにめぐり会えたりといったポジティブな結果は、珠代さんの受け入れる姿勢から生まれているんですね。
そうなんですよ。でもそんな私でも最近まで「おばちゃん」と呼ばれることを受け入れられなかったんです。バケモノと呼ばれてもいいけど、おばちゃんはイラッと来るという(笑)。
つまり誰しも受け入れられない一線があるということですよね。
でも、それも現在のパートナーのひろしさんと生活するようになってから変わっていったんです。
――パートナーがどう関係を?
どんなに美しい人でも見た目は劣化していく訳じゃないですか? でも、魂は磨けば磨くほど美しくなれるんです。魂を磨き合える人と一緒になれたら、現実世界のつらい出来事も受け入れやすくなると思うんです。
私はひろしさんと生活していくうちに、おばちゃんでもめちゃめちゃ楽しい、おばちゃんが一番ええやん! って思えるようになりました。「おばちゃんダンス」という新しいギャグも生まれましたしね。
――おばちゃんダンスは「パンティーテックス」に続く大ヒットギャグですよね。珠代さんは今後、どのような芸人さんになっていきたいと考えていますか?
どうなりたいとかはないですね。とにかく一生懸命舞台に立ち続けたい。
劇場には親御さんに連れられて、2、3歳のお子さんもいらっしゃるのですが、じっとしていられないんですよ。でもこっちが熱を込めて一生懸命やると、子どもたちがハッとこっちを見る瞬間があるんです。そんなとき、「やった」と思うんですよね。これが、手抜きしていると本当に響かないんです。
容姿に悩んでいる方が私の芸を見たときに「私も自分を受け入れて頑張ろう」と思ってもらえるよう、今後も一生懸命、芸に取り組んでいきたいです。
取材・文/福永太郎
写真/松木宏祐
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