睡眠薬を飲み続けると効かなくなる? 認知症のリスクが上がる? 新薬は大丈夫? 医師が解説する「睡眠薬の正しい知識」
集英社オンライン / 2024年10月11日 11時0分
日本では5人に1人が不眠症に悩まされていると言われていて、睡眠薬を一度は使ったことがある人も多いだろう。ただし、睡眠薬は依存しやすい、認知症のリスクを高める、寿命が縮めるなどさまざまな情報が流れている。睡眠薬のリスクや自分に合った睡眠薬の選び方についてウチカラクリニックの院長・森勇磨先生にきいた。
睡眠薬には耐性と依存のリスクがある
慢性でなく一過性でも、なかなか寝付けない、寝付きが悪い、寝ても途中で目が覚めてしまう、寝た気がしないなど眠りについて悩んでいる人が案外多く、睡眠薬を使う場合がある。
「『医師から何年もの間同じ睡眠薬が処方され続けている。時には量や種類が増えることもある』『やめるとなかなか眠れなくなってしまうので、結局ずっと飲み続けている』
こういった内容について心配をされる人がいらっしゃいます。回答としては、一部の睡眠薬では、あまりよくない結果になってしまうこともあります。
睡眠薬にはさまざまな種類がありますが、気をつけたい2つの特徴があります。それが耐性と依存です」(森勇磨先生、以下同)
『耐性』は睡眠薬を飲み続けていると、脳がだんだんその薬の刺激に慣れていってしまい、今までは効いていた薬がだんだん効かなくなってしまう状態のこと。
例えば、最初は1錠でぐっすり眠れていたのに、だんだん1錠では効かなくなり、2錠、3錠と量を増やさないと同じ効果が得られなくなるということだ。
もう1つの「依存」は薬にすがりついてしまうような状態のこと。薬がないと不安になったり、薬がないことでより眠れなくなったりしてしまう。
睡眠薬に限らず、コーヒーやお酒など飲んでいないと不安や落ち着きがなくなる状態になるのと同じと言える。
「眠れない症状でクリニックを受診し、とある睡眠薬が出されたとします。睡眠薬を飲みだして、最初はスッキリと眠れていたけれど、だんだんと『耐性』がついてくることで2錠、3錠と量が増えてしまったり、他の種類が処方されたりする。
こんなに飲んでいて大丈夫かと心配になり、いざやめようと思っても、長い間飲んでしまっているので、『依存』によってなかなかやめることができない。耐性や依存性のある睡眠薬が長期で出されている患者さんではこういうことが起きることがあります。
これはもちろんその人の病気や症状による部分はありますし、長期で薬を処方しなければならない場合もあるので、長期がダメということではありません。
薬には『耐性』と『依存』という特徴があることを理解し、できるだけ短期間で使用し、『耐性』と『依存』がつく前にやめられるといいでしょう。
こういった睡眠薬の副作用も踏まえて、具体的にどういった薬がおすすめなのか、副作用はどんな種類と特徴があるのかを把握することが大切です」
短時間型睡眠薬にはさまざまな副作用がある
睡眠薬には大きく分けて「ベンゾジアゼピン系」と「非ベンゾジアゼピン系」の2つがある。
「ベンゾジアゼピン系」とは脳の中に、「ベンゾジアゼピン系受容体」という所があり、ここのスイッチを押されると脳の興奮が抑えられ眠気が出現する。
ベンゾジアゼピン系はここのスイッチを押してくれる薬なのだ。ここのスイッチを押すことで、「GABA」という眠くなる神経伝達物質が分泌され、人は眠くなるという仕組みになっている。
「なぜ、『ベンゾジアゼピン系』と『非ベンゾジアゼピン系』の2つに分かれているかというと、『ベンゾジアゼピン系』こそ、耐性と依存がつきやすい薬だからです」
具体的なベンゾジアゼピン系は
・デパス(エチゾラム)
・ハルシオン(トリアゾラム)
・サイレース(フルニトラゼパム) といった薬だ。
特にデパスは「短時間型睡眠薬」と呼ばれ、要するに即効性のある薬ということ。
使ってみると最初はすっと寝られるが、耐性や依存性が問題になってくることが多い。
「デパスにはもう一つ特徴があります。それが筋弛緩作用です。筋肉を緩める作用のため、実は肩こりにデパスが使われることもあります。
これだけきくと『一石二鳥のいい薬じゃないか』と思われるかもしれませんが、この筋肉を緩める作用と、そもそもの強い作用があいまって、ふらつきや転倒が起きやすくなることも。
そのため、高齢になってデパスを飲んでいると転倒して足の骨を折るなどというリスクもあり、医者の間では気軽に処方する薬ではないと言われています。
もちろん、絶対に使ってはいけないということではないですが、そういったリスクを理解しておいたほうがいいでしょう」
また、ハルシオンやサイレースは青色の錠剤が特徴。
「青色なのは、悪用を防ぐためなんです。例えば飲み会でわざと飲み物に睡眠薬を入れるといったような悪質な行為を防ぐために、水に溶けたときに青色になる仕組みになっているんです」
「ベンゾジアゼピン系」の中にもデパスのように即効性のある薬だけでなく、中時間型、長時間型と呼ばれるマイルドに効いてくれる薬もある。
具体的には
・コンスタン(アルプラゾラム)
・ワイパックス(ロラゼパム)
・メイラックス(ロフラゼプ酸エチル)
などだ。
「令和の時代には『ベンゾジアゼピン系』より耐性・依存性が改良された薬がありますから、ベンゾジアゼピン系ではない薬に変えられるのなら変えたほうがよいです。
ですが、どうしても実際の現場では効果のしっかりと出るベンゾジアゼピン系を使うこともある、ということも知っておいてください」
また、睡眠薬の副作用として疑われている認知症のリスクについては、一部の研究でベンゾジアゼピン系の睡眠薬が認知症のリスクを上げるかもしれないという報告はあるものの、まだはっきりとはしていないようだ。
「ただ、睡眠不足というのは健康に明らかによくなく、死亡率を上げるというデータもあるので、もし普段から眠れない状態が続いていて、いろいろ工夫をしても改善しない場合は、リスクを理解したうえで薬に頼るという選択肢は決して悪いことではないでしょう」
最近はロゼレム、とデエビゴ、ベルソムラが主流
「非ベンゾジアゼピン系の薬には
・マイスリー(ゾルピデム)
・アモバン(ゾピクロン)
などがあります。
これらも実は、耐性や依存性が出ることがあり、ベンゾジアゼピン系に近い薬の特徴を持っています。
なので、最近処方されている薬は、耐性や依存性が少なく、従来の薬に比べて安全に使いやすいと言われている『新薬』です」
具体的には
・ロゼレム(ラメルテオン)
・デエビゴ(レンボレキサント)
・ベルソムラ(スボレキサント)
である。
ロゼレムは、メラトニンと似たような物質だ。メラトニンとは脳の「松果体」という部分から分泌されるホルモンで、体内時計として睡眠のコントロールをしてくれる。
ロゼレムはメラトニンと同じような効果を発揮して体内時計のリズムを正常に近づけていってくれる薬だ。
「メラトニンは朝に少なく、夜にかけて多く分泌されるものなのですが、ロゼレムもその特徴に合わせてくれます。
寝入りをよくする効果や即効性は強くないのですが、徐々に徐々に体内時計を正常に戻し、眠くなる時間がだんだん早まっていくような薬です」
デエビゴ(レンボレキサント)とベルソムラ(スボレキサント)の効果には「オレキシン」というホルモンが関係している。
オレキシンというのは、メラトニンの真逆で、覚醒させるようなホルモンだ。
「デエビゴやベルソムラは『オレキシン受容体拮抗薬』と呼ばれていて、要するに体を覚醒させるホルモンであるオレキシンのスイッチを切ってくれるお薬で、非常に優秀なんです。
一部悪夢を見る副作用が起きることもありますが、依存性や耐性が少ないので、まずはこの薬を最初に使うのが今は主流です。
現代ではこのように依存性の少なくて、しっかりと効果が出るような薬がどんどん出てきていますから、眠れない症状がある場合は、お薬に頼るのは悪いことではありません。
ですが、まず薬に頼る前に、眠れないときは
・熱いお風呂に入る
・寝る前にスマホを見ないために充電場所をリビングにする
・寝る前はあかりを暗くして過ごす
といった、睡眠薬を使わずにできる対策をしてみましょう。
それでも眠れなくてつらい場合はデエビゴ、ベルソムラ、ロゼレムといった新薬を最初に使い、それでもダメならベンゾジアゼピン系などを使用し、あまり長期的に毎日飲まないように工夫するのが重要です」
引用:https://uchikara-clinic.com/media/heart/sleep/
取材・文/百田なつき
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