全国の自治体への開示請求のうち約半分が「黒塗り・非開示」!? どれだけ隠されていても、その判定が覆る可能性はゼロになる場合も…
集英社オンライン / 2024年10月17日 8時0分
〈なぜ国や自治体の情報公開制度は“全面黒塗り”ができるのか…現場の裁量で開示拒否できるデタラメ行政の実態〉から続く
図書館の民間委託の実態を知るために、情報公開制度にのっとり、全国各地の自治体に情報開示請求を数多く行なってきたジャーナリストの日向咲嗣氏が暴く黒塗り公文書の闇とは…今回は、どうして自治体の現場では、情報公開制度が市民本位に機能しない事態に陥っているのかについて、あらゆる角度から迫る。
【図表】全国の自治体が「開示」または「非開示」とした件数と割合
『「黒塗り公文書」の闇を暴く』 (朝日新書)より、一部抜粋、再構成してお届けする。
自治体職員の制度に対する理解不足が黒塗りを増やしている
市民の参加による持続可能な市民社会づくりを推進しているNPO法人・まちぽっとの理事を務める伊藤久雄氏は、自治体の情報開示に黒塗りが多い理由として、自治体職員の制度に対する理解不足を挙げる。
「情報公開を直接担当する課の職員は、制度について精通していますが、実際に開示する部分を決めるのは、開示請求の対象となった事業の担当課です。その各部署の職員が制度についての知識が十分でないままに、文書を開示すると、制度の趣旨から外れた不開示が多くなってしまうんだろうと思います。
とりわけ開示可否の判断が難しいのは、裁判のように、こういうケースではこうなるという過去の事例が数多く積み重なって〝判例〞として定着していかないことがあります。
自治体によっては、情報開示請求の件数自体が少ないうえ、開示決定に対して不服を申し立てる審査請求をする例もめずらしかったりしますと、職員が場あたり的に対応するだけで、各組織内に判断基準が蓄積されていかないのが、ひとつの大きな原因になっていると思います」
逆にいえば、担当課の職員の情報公開制度についての理解が深まれば、結果は大きく変わってくるとして、伊藤氏は、2021年に自ら開示請求を行った東京都府中市の市民会館・中央図書館複合施設・ルミエール府中のPFI事業における情報開示の例を挙げる。
PFI(Private Finance Initiative)とは、施設の設計・建設から、維持管理・運営までを、特定の専門家集団(コンソーシアム)に一貫して任せる公共事業の新しい手法で、自治体が直接行うより安くて質の高い公共サービスが提供される利点があるとされる。
「2022年9月に15年の満期を迎えるルミエール府中のPFI事業は、2021年4月から2期目を担う事業者の公募がスタートする予定であることから、現事業の検証や導入可能性調査、運営支援業務委託者の選定など、その件にかかわる文書を一括して2020年11月に開示請求しました。
翌月、出てきた約700枚の文書の大半が一部非開示、つまり黒塗りになっていましたので、2021年1月に審査請求を行いましたところ、1カ月後、まだ審査会に諮る前に、市が一部開示決定の変更を通知してきまして、これまで黒塗りだった部分が一部開示となりました」
一部非開示となっても、そこで諦めずに、審査請求をして市の職員と一緒になって情報公開を拓いていくスタンスが必要なのだろう。
黒塗りで開示されたとしても、審査会に不服を申し立てることで、判定が覆ることは決してめずらしくないという。
伊藤氏は、開示結果に対する審査請求は、自治体の違法・不適切な支出に対して申し立てる住民監査請求よりもハードルが低く、市民に有利な結果が出やすいと指摘する。
「住民監査請求を審査する監査委員は、その半数は議員がなり、残り半数も役所のOBがなることが多いため、なかなか市長に不利な結論は出にくいのが実情です。その点、情報公開の審査請求のほうは、請求の内容を審議する審査会の委員は、弁護士などの有識者が何人か入っていますので、市長に忖度しておかしな結論が出るようなことはなく、わりと制度の趣旨に沿った結論が出やすい傾向があります」
ただし、和歌山市では、この審査請求ができるのは、市内在住・在勤者などに限定されている。そのため、筆者のケース(※2018年4月に筆者が行った「来年開業予定の市民図書館について、南海電鉄と話し合ったすべての文書」との開示申出)では、その〝本番〞にたどりつく門前でブロックされていて、それ以上は、どうあがいても前に進めなくなっていた。
市外在住者からの〝開示申出〞は受け付けるものの、それはあくまでも、条例に定めのない任意的な行為だ。そのため恩恵的な開示には応じるけれども、もし開示内容に不服があったとしても、審査請求はできないという建付けになっているわけだ。
つまり、和歌山市における筆者の開示申出は、担当した市の職員にとっては、最初から、審査請求によって不服を申し立ててくるリスクがまったくなかったことになる。
どれだけ黒塗りしても、あとからその判定が覆る可能性はゼロ。そのため、担当者は、思う存分、文書を黒塗りにできたのではないのかというのは、私の邪推にすぎないのだろうか。
全国で開示請求されたもののうち、およそ半数が「黒塗り・非開示」
和歌山市以外の自治体ではどうなのか。調べてみると、実に、興味深いことが判明した。
総務省が2018年3月に発表した「情報公開条例等の制定・運用状況に関する調査結果」によると、情報公開の請求権者として認めている者の範囲について「制限なし」、つまり「なんぴとも開示請求できる」としている市区町村は、全体の52.6%であることが判明。
逆からみれば、残り47.4%の市区町村は、和歌山市と同じく、在住・在勤者などに限定していることになる。
そうしてみると、意外に在住・在勤者などに対象を限定している自治体が多いと思われたかもしれないが、これが政令指定都市だけに限定すると「制限なし」が100%となり、すべての政令指定都市は「なんぴとでも開示請求できる」となっている。
また、都道府県単位でみても「制限なし」は95.7%となっていて、人口の多い都市部および都道府県単位では、国籍、住所などの属性に関係なく「なんぴとでも開示請求できる」ようになっていることがわかる。
ところが、和歌山市のように政令指定都市ではない県庁所在地になると、とたんに開示請求者を在住・在勤者などに限定する自治体がゾロゾロと出てくるのが不思議だ。
実施状況はどうなっているのだろうか。情報公開についての総務省の調査をさらに詳しくみていくと、全国の市区町村で情報公開請求された14万5604件中、14万1010件が開示されている(【図表1】)。
そのうち、「全部開示」は8万2802件で、単純な構成比でみると、開示全体の6割弱が問題なく開示されていることになる。黒塗りが含まれると思われる「一部開示」は5万7444件と開示数の4割もある。
いわゆる「黒塗り」は「一部開示」に該当するため、それが約4割に該当する件数もあるとすれば、情報公開が円滑に機能しているとは言い難いだろう。
政令指定都市の調査結果をみると、情報公開請求されたのが4万3217件であるのに対し、開示が4万8080件(1件の情報公開請求につき複数の開示が行われることがあるため、請求件数よりも開示件数が多くなっている)。
開示された4万8080件のうち、「全部開示」は2万9372件と、こちらは6割強。「一部開示」は1万8168件の4割弱となっていて、市区町村よりも全部開示される率はやや高い傾向がみてとれる。
また、情報公開請求全体に対する「非開示」の件数をみていくと、市区町村は、14万5604件中2793件と、2%程度。
それに対して、政令指定都市では、4万3217件の情報公開請求に対して「非開示」は2322件と、5%強である。
そうしたなかで、いちばんの驚きなのが、不服の申し立てを行う審査請求の少なさだ。市区町村では、審査請求までに至るケースは、747件しかない。情報公開請求全体(14万5604件)の1%にも満たない。
政令指定都市でも、情報公開請求4万3217件のうち、審査請求は1100件と少し多くなるものの、それでも2.5%程度しかなく、ほとんどの請求者は、不服を申し立てることなく、一度の開示だけで完結している実態が浮かび上がってくる。
なお、1件の情報公開請求につき複数の開示が行われることがあるため、この調査結果をもってして、単純に、開示率が9割以上あるとはいえない。
また、開示件数に占める「全部開示」と「一部開示」の割合についてはある程度実態に即したものであるといえるものの、こちらも回答した自治体が「開示件数」のみ回答し、その内訳については回答していないケースがあるなど、それぞれを足しても構成比が100%にはならない。これらのことから、おおまかな傾向をつかむ程度のデータであることは理解しておきたい。
文/日向咲嗣 サムネイル/Shutterstock
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