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崩壊する「英会話教室」のビジネスモデル…背景に「コンサルティング型」と「オンライン型」の台頭も

集英社オンライン / 2024年10月15日 7時0分

リコーが国内1000人に「セカンドキャリア支援」という名の人員削減を断行…名門企業を苦しませるモノ言う株主の影〉から続く

英会話教室が過渡期を迎えている。受講者集めに苦心する教室が目立つようになり、ダイナミックな業界再編が行われるようになった。その背景の一つには、英会話や英語力を習得する新たなサービスの台頭がある。旧来型の英会話教室は、将来的な大量閉鎖、大再編という未来も見えてくる…。

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成果型とオンライン型の二極化が進む語学学習

英語のコーチングサービスで、著しく業績を伸ばしているのがプログリット(PROGRIT)だ。

2024年8月期の売上高は前期比47.3%増の44億5300万円、営業利益は同65.8%増の8億2400万円だった。売上高、営業利益ともに予想を上回って着地している。

2021年8月期の売上高は20億円に届いておらず、営業赤字を計上していたにも関わらず、売上高はわずか3年ほどで2倍以上に拡大し、営業利益率が19%近い高収益サービスとなった。

プログリットの最大の特徴は、レッスンを行わずに学習のコーチングを行なう点だ。

コンサルタントと呼ばれる選任の学習サポート担当者が個人の実力や目的、目標に見合ったカリキュラムの作成、学習の進捗状況の確認、英語レベルのチェックなどを行なう。面談は週に一度行なわれるが、LINEで随時相談もできる。

学習意識や出世意欲の高いビジネスパーソンからの支持が厚く、受講料は半年で120万円前後と高額だが、2024年7月末に累計受講者数が2万人を突破し、好調をキープしている。

通常の英会話教室だと、週4回のレッスンの受講で1万円、マンツーマンレッスンで2万円前後が一般的な料金だが、この紋切型ともいえるやり方が時代に合わなくなっている。

中小企業基盤整備機構は英会話教室に関する消費者の意識調査を実施している(「英会話教室(2024年版)」)。

英会話教室に通わない人が、利用しない理由として挙げるのは「コストが高い」(21.6%)からだ。そして、「効果に疑問がある」(13.3%)も多くを占める。

英会話教室の集客は大々的なテレビCMや電車広告を使っていたように、一般大衆を丸ごとターゲットにしてきた。そのため、さほど学習意欲が高くない人にまで訴求する結果となり、コストが高く、効果に疑問を持つ人を多く生むこととなった。

一方、プログリットは極限まで成果にコミットするという形態のため、その評判が広がって英語学習に対する意識が高い層だけを取り込むことに成功している。

そして、手軽に英語学習するのであれば、オンラインツールで十分な時代にもなったこともあり、英会話教室は二極化する市場の空白地帯に取り残されようとしているのだ。

受講生数は減少の一途を辿る

英会話教室離れはすでに始まっている。

経済産業省の「外国語会話教室の動向」によると、2022年12月の受講生数は33万9000人。前年同月比8.0%の減少であり、コロナ禍が収束に向かうなかで1割も縮小しているのだ。しかも、35か月連続での減少だった。

一方、語学ビジネスの市場そのものは堅調であり、規模も大きい。

矢野経済研究所によると、2023年度の語学ビジネスの市場規模は前年度比0.2%増の7841億円だった。

そのうち、外国語教室全体の市場は3000億円程度と大きいものの、オンライン語学学習市場が320億円まで成長している。その規模は、書籍教材市場の390億円と近いところまで達した。

映画やドラマを使って英語が習得できるAI英語教材のabceed(エービーシード)は、2024年5月末に累計ユーザー数が440万人を突破。有料会員数は10.1万人となり、この数字は前年同月末比で32%も増加している。

abceedは2024年3月にProプランに対して2割の値上げを行ったにもかかわらず、それでもユーザー数は堅調に推移しているのだ。

このサービスは、ソニーとパラマウントから獲得した映画やドラマ100作品以上に対応しており、映画『トップガン マーヴェリック』や『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』などの人気作で楽しみながら学習が行える。

これらからわかるように、現在は多くの人にとって英会話教室に通うメリットがなくなっているのだ。

ベルリッツの債権178億円を放棄したベネッセ

英会話教室を巡るダイナミックな動きはコロナ前から始まっていた。

2007年に経営破綻したNOVAは、投資会社である、いなよしキャピタルパートナーズの傘下となり、2013年にNOVAホールディングスとして生まれ変わった。

この会社は現在、Gaba(ガバ)、GEOS(ジオス)を傘下に収めたほか、2021年にはZenken(旧:全研本社)の「英会話リンゲージ」事業を取得している。

これは典型的なロールアップだ。

ロールアップとは投資ファンドがよく使う手法で、業界内でのシェア拡大や経営の効率化を図る目的で、同業他社を複数買収して企業価値を高めようというものだ。

また、NOVAホールディングスは、プロバスケットボールクラブ「広島ドラゴンフライズ」を買収。そして、親会社であるいなよしキャピタルパートナーズを通して、パーソナルトレーニングジムを運営するトゥエンティーフォーセブンをTOB(公開買付)で子会社化した。

NOVAホールディングスのロールアップと事業の多角化は、ジリ貧になる業界での生き残り策を示しているかのようだ。

俳優の伊勢谷友介を起用したテレビCMで一躍脚光を浴びたCOCO塾は、経営不振で大人向けレッスンをGabaに、子供向けを「COCO塾ジュニア」に再編する大改革を実施。

しかし、業績を上向かせることができずに、運営するニチイ学館は、2019年に「COCO塾ジュニア」の直営店173教室の閉鎖を決定した。しかも、これはコロナ禍に入る前の出来事である。

非上場化したベネッセを苦しませたのも、英会話教室だった。1993年に連結子会社化したベルリッツは、2018年度に47億円、2019年度に31億円の営業赤字を出していた。

さらにコロナ禍で赤字額は70億円近くまで膨らんでしまったのだ。切り捨てるように、2022年にカナダの特別目的会社に売却。ベネッセは、ベルリッツに対する債権178億円を放棄した。

ニチイ学館、ベネッセにとって英会話教室事業は、鬼門になっていたのである。

円安が外国人講師の働くモチベーションを吸い取る

英会話教室は、講師が集まりづらくなっているという別の懸念材料もある。

近年、日本は急速に円安が進行したため、外国人にとって働くモチベーションが高まらない国の一つになっている。2009年から2014年に入る前は、ドル円が100円を下回ることが多かった。2024年は150円近辺で推移している。

よほど日本が好きでもないかぎり、わざわざ為替レートが低い国で稼ごうと考える外国人講師は少ないだろう。

さらに、日本人講師にとっても英会話教室の魅力は低下する可能性がある。

プログリットは、2023年9月から英語コンサルタントやカウンセラーなど、120名を対象に一律年50万円の給与引き上げを実施した。

コンサルタント職は2024年8月期に133人となり、前年から1.3倍に拡大している。コンサルタントの質がプログリットのビジネスモデルの要であり、優秀な人材を確保する有効手段であるため、今後も給与水準が高値圏で推移する可能性が高い。

プログリットのように、講師にとっても魅力的なサービスになりえないかぎり、語学教室の未来は明るくならないだろう。

取材・文/不破聡 サムネイル/Shutterstock

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