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「入居金は最高4億円超え」成功者の“終の棲家”超高級老人ホームの実態 行列店の職人が寿司を握り、専門スタッフが御用聞き…その「お値段以上の価値」とは?

集英社オンライン / 2024年10月20日 8時0分

全国屈指の超高級老人ホームとして知られる「サクラビア成城」。東京都・世田谷区の一等地にある同施設には、レストラン、美容室、舞台を備えたホールや娯楽室などが完備され、24時間体制で医療スタッフのサポートを受けることもできるという。あらゆる贅を尽くした富裕層の“終の棲家”…庶民にはうかがい知ることのできない“扉の向こう側”の生活とは?

〈画像でみる〉「サクラビア成城」で住人から大人気の娯楽施設とは

『ルポ 超高級老人ホーム』(ダイヤモンド社)より、一部抜粋、再構成してお届けする。

(前・後編の前編)

贅を尽くした施設はまるで「豪華客船」

約35年前に建てられたサクラビア成城だが、当初は高級マンションのディベロッパーが設立し運営していた。

「これまで自宅にお住まいになってきた富裕層の方が、いよいよ人生の最終ステージに入り介護が必要になったときに、今までの生活の質を担保するようなところがないということで、高級マンションを手掛ける経営を始めたと聞いております」

そう話すのはサクラビア成城の運営会社で取締役を務める松平健介氏(仮名)だ。

当時、老人ホームの開業にあたり、世界一周の船旅で知られる豪華客船「飛鳥」の常連客などを見学会に招いて営業活動を行っていたようだ。

「そのお客様が施設を見て『丘の上の客船ね』とおっしゃったそうです。建物の中にクリニック、カルチャー教室、フィットネス、レストランから、シアターなどのエンターテインメントまであって、全てがパッケージになっているから、まるで豪華客船のようだと。当時ご入居された方々は、介護が目的ではなくて、自分の最期のステージを輝かしく過ごしたいという思いがあったと聞いています」(同前)

確かに当時は、老人ホーム自体が珍しかったこともあり、顧客の多くは介護を目的として購入してはいなかったのだろう。

「今はこれだけ贅を尽くしたものは、なかなか建てられないと思います。もちろんハード面だけではなく、ソフト面でも、今までの生活水準を保ち、さらには人生の最終ステージをもっと豊かに過ごしていただこうと、いろんな工夫が当時から凝らされていました」

ちなみに、サクラビア成城の「サクラビア」というのは、ラテン語で「聖なる道」を意味する言葉に由来するという。古代ローマ市の中心部で、宗教上の重要拠点を結んだメインストリートの名だ。

まさに人生の勝者たる居住者が、メインストリートを凱旋(がいせん)しながら、サクラビア成城に帰城するというイメージを喚起させる。

“御用聞き”専門スタッフが生活をサポート

そんな老人ホームは、当時も今も施設そのものにはさほど変化はないという。

そこで、実際にサクラビアの内部を見学させてもらうことにした。案内してくれたのは、お客様相談室の主任、石塚幸一氏(仮名)だ。サクラビア成城に勤務してから16年経つという石塚氏もまた老人ホームの職員という雰囲気はなく、若くて爽やかなホテルマンといった印象である。

お客様相談室とは、いわゆる営業部署のことだ。石塚氏は一昨年から同部署に配属されたそうだが、それまでは居住者と直接対面し、日々の生活をサポートする「ハウスキーパー」という部署にいたという。

「お住まいの方の御用聞きというか、困ったことがあったらお手伝いする部署にいました。細かいことで言えば、瓶の蓋が開かなくなったから開けてほしいとか、高い所のものに手が届かないから取ってほしいとか。衣替えをしたいから手伝ってほしいとか」

雑用をするための専門部署があることに驚いた。入居者の困りごとは所属部署に関係なく、頼まれたスタッフや気付いたスタッフが快く応じてくれるものだと思っていたからだ。

石塚氏に館内を案内してもらう途中、居室の前で女性の清掃スタッフから、「こんにちは!」と明るく声をかけられた。エレベーターでの移動中も、途中階で居住者が乗り込んでくる際は、石塚氏は素早くエレベーターを降りて「お先にどうぞ」と対応する。その様子が一流ホテルにありそうな光景だった。

代わりにエレベーターに乗り込んだ居住者の男性は仕立てのよいスーツを纏(まと)い愛想よくお辞儀を返してきたが、その家族と思われる若い女性が私たちと目を合わせようとしなかったのが気になった。

まずは、標準的な居室である約68平米のモデルルームに案内された。入居一時金が約1億5000万円以上の室内は、リビングに加えベッドルームがあり、二人で暮らしても十分な広さがある。

キッチンはコンパクトな設計だ。館内にレストランがあるため、室内で頻繁に料理を作ることを想定していないからである。また、一定時間人が通らないと異常を知らせてくれる生活リズムセンサーも標準で装備されている。独居の居住者が室内で倒れていても、すぐに発見できるというわけだ。清掃は月に2回で、管理費に含まれているという。

新規入居時はフルリフォームが基本

サクラビア成城の部屋は全室南向きである。モデルルームの室内から窓の外を見ると、すぐ目の前には東急不動産ホールディングスが手掛ける住宅型有料高級老人ホーム「グランクレール成城」が建っていた。

サクラビア成城の競合相手ともいえる同施設は、ホームページを見ると約41平米の部屋で入居一時金が約5000万円と、やや安い。安いといっても、一般的な老人ホームと比べれば、かなり高額だ。さらにグランクレール成城は、常時介護が必要になると、同一建物内の介護住宅へ住み替えが必要になるようだ。

「入居一時金はお一人ですと約1億4700万円、お二人で暮らすと約1億6000万円です。入居一時金は15年かけて償却しますので、仮に一名でご入居の場合、5年で退去されると、約8340万円を返金します。また15年以上が経過した場合は、入居一時金のお返しはありませんが、月次の費用だけで生活ができます」(石塚氏)

ただし、途中で亡くなった者を除いて、15年未満で退去する者はほとんどいないという。

この施設に不満がないという意味か、それとも高齢になると生活の変化を避け現状を変えようとしないからなのか。どちらの理由もあるだろうと思った。

続いて石塚氏が案内したのは約92平米の居室だ。ここもモデルルームである。

トイレは2つあるが、これは意外と便利だ。介護が必要になったときはトイレ介助に時間がかかる。そのため1つを介護専用にしたり、ゲスト用にしたりすれば使い勝手がよさそうだ。

さらに石塚氏のこんな一言に驚かされた。

「お部屋は前の方がお出になったら、原則、フルリフォームを行っています。壁も水回りも全部取り外して、スケルトンにしてから再び作り直しています。間取りの変更もご要望があればオプション対応させていただいています」

フルリフォームをするとなると相当なコストがかかるはず。ハード面でのこうした手間も、入居一時金が高額な理由の一つなのだろう。

音楽ホールに麻雀室…娯楽設備も充実

3階は全て娯楽のエリアとなっている。いろいろなジャンルの本を取り揃えたライブラリーは定期的に新刊も入れているという。同じ階には美容室もある。週に4日営業しており、ホテルなどにも入っている美容家・遠藤波津子(はつこ)の美容室だ。その奥には、工作などができるアトリエを備えており、取材時はネイル教室が催されていた。

廊下を歩くと、大人が両手を広げたくらい大きな地球儀が飾られている。「飛鳥」や「にっぽん丸」といった、豪華客船の常連客だけに与えられる非売品の地球儀だという。

「豪華客船に頻繁に乗っていらっしゃる方がいまして。その方が記念に貰(もら)ったものを寄贈してくださいました」

何カ月間も船旅に出かけ、帰ってきてしばらくすると再び船旅に出かけていくという強者(つわもの)もいたそうだ。まるで豪華客船が居心地のいい老人ホームのようである。

3階には体育館並みの広さを持つホールもある。天井には当然のごとくシャンデリアが付いていた。居室では音の問題から楽器の演奏が禁じられているため、このホールにあるグランドピアノを弾いたり、楽器を持ち込んで演奏を楽しんだりする者もいるそうだ。

「現在ここに置いているグランドピアノは世界三大ピアノのうち、スタインウェイとベヒシュタインの2台です」

ちなみにスタインウェイやベヒシュタインは、モデルによっては2千万円から4千万円するという。ホールには舞台もあり、ピアニストやバイオリニストを招待してのコンサートやオーケストラの演奏イベントが開かれることもある。

麻雀室の前を通りかかると、居住者の男女が卓を囲んでいる光景を目にした。

「全自動の機械を2卓置いています。健康麻雀教室もやっており、初めての方には先生がついて、学びながら楽しめるようになっています。外部のご友人を招いて麻雀を楽しむこともできます」

麻雀は意外にも女性の利用者が多いという。密かに高レートの賭け麻雀が行われていないか気になって、中の様子を少しだけ覗かせてもらおうとしたが、すぐに別の部屋へと案内された。囲碁と将棋とチェスの部屋もあるが、サクラビア成城では麻雀が圧倒的に人気なのだという。

「麻雀室向かいの中庭越しには茶室があったのですが、近年使われることが少なくなり、皆さんのご要望でプライベートなトレーニングルームに改修しました。他にリハビリルームもあり、提携している医療機関から理学療法士が派遣されてきています」

陶芸工作室では、専用の窯(かま)を備えている。土を練るところから陶器を製作できるのだ。陶芸工作室の壁沿いには製作途中の作品が展示され、まるで学校の美術室のようである。取材後、作品に添えられたネームプレートの一つを調べてみると、関東近郊で医療法人を経営している医師のようだった。

人気寿司店や銀行の出張サービスも

レストランには30種類以上のグランドメニューに加え、日替わりメニューまで用意されている。毎週木曜日には、世田谷の梅丘(うめがおか)に総本店がある美登利(みどり)寿司の職人が出張して来て、寿司を握るという。

「この寿司屋は行列のできる店としても有名ですが、ここでは並ばずにお寿司を食べることができます」

窓の外には日本庭園が見える。庭園の池には錦鯉が泳ぎ、秋になると紅葉(もみじ)が真っ赤に染まる。冬には一面、綺麗な雪景色になることもあるそうだ。

錦鯉は昔から縁起物であり、権力や富の象徴だった。かつて田中角栄元首相も愛好していたという。そんな錦鯉が水面からわずかに跳ね上がったとき、優雅に演出された施設で暮らす居住者の姿と重なって見えた。

サクラビア成城では、野外でのイベントも頻繁に催される。

「例えばこちらでバスをご用意して、皆さんで近隣の遊園地へイルミネーションを見に行ったり、砧(きぬた)公園にお散歩ツアーに行ったりもします。以前にはディズニーランドや横浜中華街に行ったこともあります」

どのコースも庶民的で、まるで高校生の遠足のように思えた。

1階正面を入るとロビーだ。右手にはフロントがあり、壁には、19世紀に活躍したフランスの画家、カミーユ・コローの風景画が飾られていた。

フロントには常時スタッフがいるため24時間出入りも自由だ。フロントの横には小さな机があり、驚くべきことに、週2日提携先の銀行が出張して来るという。銀行窓口での取引をここで行えるが、預金の引き出しについては後日の対応になるそうだ。

生活面から健康、娯楽に至るまで十分な環境が整っていることは、石塚氏の案内だけでもよくわかった。

文/甚野博則
写真/PhotoAC

ルポ 超高級老人ホーム

甚野博則
ルポ 超高級老人ホーム
2024年8月7日発売
1,760円(税込)
256ページ
ISBN: 978-4478119242

カネさえあれば 
幸せに死ねるのか――。

数億を超える入居金を支払い、至れり尽くせりの生活を享受する超富裕層たち。
彼らがたどり着いた「終の棲家」は桃源郷か、姥捨て山か。

秘密のベールに包まれた“超高級老人ホーム”の実態に迫る、驚愕のノンフィクション!

経済力だけじゃダメ!“老舗超高級老人ホーム”スタッフが断言する、住人となる者に必要な「最低条件」とは?〉へ続く

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