「中年男性は怖い…」正当化される差別、支援対象から除外されてしまいがちな弱者男性の苦悩とは?
集英社オンライン / 2024年11月11日 17時0分
〈頂き女子のターゲットになりやすい人の特徴とは? 社会から助けてもらえず過酷な状況に陥る弱者男性の実態〉から続く
コミュニケーション下手、性被害経験、中年。同様の特徴や経験があっても女性とは異なり、弱者男性の場合は馬鹿にされたり、差別の対象になったりしてしまう。
そんな弱者男性の苦悩やリアルな実態を『弱者男性1500万人時代』(扶桑社新書)より一部抜粋・再構成してお届けする。彼らが「弱者」と呼ばれる状況にたどり着いてしまうのは一体なぜなのだろうか。
コミュニケーション弱者の男性は迫害されやすい
女性と比較して男性のほうが、孤独死などのように家族・地域・制度から切り離された人生の最期を迎えやすい。その理由として考えられるのは、コミュニケーション能力の差だ。
いわゆる女性は人と接するコミュニケーションが得意であり、一方で男性はそれが不得意。なので、結果として男性が孤立しやすいという説だ。だが、それは本当なのだろうか?
コミュニケーション戦略研究家の岡本純子氏は、男女でコミュニケーション能力に差があるとはいえない、と語っている。男女のコミュニケーションについては、どちらかが優れている、劣っているというよりは、その「スタイル」が違うということが考えられるだろう。
コミュニケーション能力が低かった場合の結果は、男女で異なる。女性は何も話題のネタがなくてもコミュニティの輪に入りやすいが、男性の場合は「カネとコネとネタ」がないと相手にされないという。
筆者は婚活に励む男女を長年支援しているが、まったく同じように感じる。婚活では特に、男性側は積極的に行動することがよしとされる。最初にメッセージで女性に話題を提供して話を盛り上げ、デートの約束をする。そして、それっぽいよさげな店の候補を出し、当日は女性に対して話題を振る役割を担う。
対して女性はおしとやかさを求められるが、男性のような積極性は問われにくい。そのため、女性がコミュニケーション弱者だったとしても結婚につながりやすい側面がある。
たとえば、婚活をする男性から女性に対してよく挙がるクレームの一例が、
「女性がまったく話をしてくれなかった」
「女性が、はい、いいえくらいしか言ってくれなかった」
といったものである。
仮に男性がこのような対応をしたら、美男子や資産家であっても、結婚できる可能性はほぼゼロである。だが、女性の場合、コミュニケーションがイマイチでも美人なら、若ければ、あるいは資産など他の魅力があれば結婚できてしまうことがあるのだ。
さらに、男性は結婚できないだけでなく積極的にバカにされてしまう。ネットスラングで「チー牛」という言葉があるのをご存じだろうか。
チー牛とは、牛丼屋で「三色チーズ牛丼を注文する若い男性」の自画像が、オタク、ネクラに多そうだという偏見から広まったものである。
もともとはイラストを描いた方の自画像だったが、次第に差別意識を表明する者によって転載されるようになった。2024年1月現在「チー牛」で検索すると、「美人がチー牛に冷たいのは一種の自己防衛」「チー牛が率先して人を助ける姿を見たことがない」など、偏見に基づいた発言が多く見られる。
もしこれが男女で逆転していたらどうだろうか。「三色チーズ牛丼を食べていそうな女は、情けで優しくすると急につけあがる、距離感の詰め方が異常、仲良くなっても面白くなくて不快……」などとSNS上で書いたら炎上必至だろう。だが、少なくとも2024年1月現在、男性相手であればそうならないのが現実だ。
男性が弱者になりやすいのは、次で紹介する「加害者になりやすい」側面も大きく影響しているだろう。
弱者男性を救いたいと思う者がいない
弱者男性は、救済されにくい。これについては、実際に弱者男性として長年苦労している、虐待・いじめ・性暴力のサバイバーである澤一輝さん(仮名)から話を伺った。
「実は僕には、過去に性被害経験があります。そのため、僕と同じように悩んでいる人、その人たちを支援する団体や個人と接点を持つことが多いんです。でも、そこですら、自分の苦しみを理解してもらえないと感じます。たとえば性被害のトラウマを抱えながらもパートナーがほしいと話すと、『モテないなんて決めつけなくていいよ。彼女ができるチャンス、いくらでもあるんじゃない?』とあっさり言われてしまう。相手には悪気がないからこそ、傷ついてしまうんです。
女性の性暴力サバイバーには、恋愛経験のある人が多いと思います。だからパートナーがいない苦しみを、なかなかわかってもらえない。他のコミュニティ、たとえば、貧困に理解がある、LGBTQ+に理解がある、性暴力に理解がある、ポリアモリーに理解があるグループでも、経済的弱者、サバイバーである自分にパートナーができない苦しみはわかってもらえない。僕は本当に深く悩んでいるのに、さらっと『努力不足』と言われてしまうんです」
─いわゆる弱者男性の味方である立ち位置から、女性叩きなどを行うインフルエンサーを味方に感じますか。
「弱者男性インフルエンサーは、弱者男性の味方ではありません。商売でやっているんだなと感じます。もともとは味方だったのかもしれませんけれど、儲かった結果、『売れ続けるために』狙ってやっているのではないか、あえて男女対立を煽っているのではないかと感じます。かれらは弱者男性の敵ではないが、味方でもないんです。
たとえば男性を差別する女性がいることは事実であったとしても、女性全員が悪いわけではないですよね。理不尽な女性もいるし、一方で味方になってくれる女性もいる。ただそれだけです。
相手がインフルエンサーとなると、講演を開いたり本を出版したりするようなビジネスチャンスになってしまい、信頼できないと感じてしまいます。本当にそう思っているのだろうか?自分を騙しているのではないだろうか?『こうすれば盛り上がるぞ』と思ってやっていないだろうか?と。
同じような理由から、フェミニストの方々も弱者男性の味方ではないと感じますね。『フェミニズム』自体が商売になっている人が少なからずいると思っています。また、フェミニストの一部の方々は『キモい』と男性を叩くこともあるんです。やっぱり、悲しいなと思ってしまいますね。だからか、フェミニストを味方だと感じることができないんです。
こういったいろいろな状況を踏まえると、信頼できる人が数少なくて。自分のことを本当に理解してもらえることはないと感じてしまっています。これまで約20年、弱者男性である自分の生き方や生きづらさを考えてきましたが、やっぱり寄り添ってもらえることが少ない。男性・女性、両方から自分の生きづらさをわかってもらえない。だから、結局は自分で頑張るしかないなと思っています」
正当化される中年男性への差別
─自分に似た立場の方と、助け合っていこうと思うことはありますか。
「かつてはそう思っていました。僕も、20代のときは、同じように性暴力の被害に遭った方の自助会に参加したり、友達をネットで探したりしていたんですよ。それが、30代から急にできなくなってしまって。新しい場所に自分から踏み込むエネルギーが減ってしまったんだと思います。
出会いの数が減るから知り合いが減って、そのまま友達も減って。そのまま40代です。そうなると、もう居場所がない。たとえば社会人が集まる趣味のサークルに参加しても、そこでは10〜20代が中心になっているんです。40代の僕が参加したからって否定はされないけれど、勝手に萎縮してしまう。なんででしょうね。場違いに感じるんです。
僕は20代のとき、いろいろなイベントに顔を出していました。で、そこには40〜50代の人もいたんですよ。でも、めちゃくちゃ浮いていたんです。
まれに『よかったら仲間に入れてよ』と、40代くらいの男性に言われることもありました。でも、怖いんですよね。清潔感もなくて、仕事をしてるかもわからない40代が急に顔を出してくるのって。それで、サークルの女性が怖がっちゃって。当時の僕は、『ごめんなさい、ちょっと怖がってる人がいるんで……』と、その人たちが参加するのを止めてしまっていたんです。
今思うと、かわいそうなことをしたなって思います。でも、僕は僕で、排除する側だったんですよ。だから、いざ40代になった僕が排除されても『ああ、僕の番が来たんだな』と思って、納得しちゃうんです。それが、理不尽には思えないんですよね。だって、現に40代の男性がいきなりコミュニティに首を突っ込むのって、怖く見えるわけですから」
そう、中年男性は怖い。怖く感じられるだけではない。怖いと公で表明することが正当化されている。しかし、これは直球の差別にすぎない。場所と時代が違えば「黒人は怖い・同性愛者は怖い・部落出身者は怖い」と言われてきた歴史を、繰り返しているにすぎないからだ。
だが、吉本さんのように差別されることを仕方なしと受け止める男性も多い。中年男性自身も、社会に存在する差別を内面化してしまっているのである。
文/トイアンナ
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