〈26歳女性記者が行く〉ナンパの恐怖、和室で雑魚寝…行き先不明の日帰り船旅「ミステリーきっぷ」体験
集英社オンライン / 2024年10月19日 11時0分
いつもと一味違う変わった船旅を体験できるという「ミステリーきっぷ」をご存知だろうか。東京諸島の大島・利島・新島・式根島・神津島のいずれかのうちのひとつに行けるチケットなのだが、なんとその行先は自分で選べず、当日窓口で伝えられるまで不明なのだ! 船旅未経験の26歳女性・筆者が、この「ミステリーきっぷ」を一人旅で体験してみた!
【写真】「ミステリーきっぷ」で乗船した大型客船「さるびあ丸」
「ミステリーきっぷ」とは?
当日窓口でチケットを受け取るまで、行先がわからない東海汽船「ミステリーきっぷ」。そのギャンブル性と、破格な料金設定で大人気を博している。
通常の東海汽船の東京〜大島区間の大人運賃(2024年10月分)は、2等室・片道6,230円だが、「ミステリーきっぷ」の大人運賃は往復で5,800円(こども2,900円)。
なんと通常の料金から実質半額以下で、かなりオトクに船旅が楽しめるチケットなのだ。
人気が高く、今回はもともと10月2日〜10月30日までの期間限定での販売だったが、すでに11月21日まで延長が決定している。
船は、東京・竹芝桟橋を22時に出港し、翌日の19時に帰港するスケジュール。東京諸島の大島・利島・新島・式根島・神津島のうち、「ミステリーきっぷ」購入者はそのいずれかの島に降り立つことになる。
例えば、大島着の場合は朝6:00に到着して14:30に復路の便に乗船するため、島内では8時間30分ほど滞在・観光が可能だ。
しかし、滞在時間が一番短い神津島の場合は朝10:00に到着して朝10:30に復路の便に乗船しなければならず……滞在時間はなんと30分のみ!
船室は大型客船2等和室で、雑魚寝スタイル。
行先や部屋の等級を変更することはできないため、運に大きく左右される旅となる。
果たして、今回の旅先は……。
式根島!
式根島着の場合、朝9:05に到着して11:25の帰りの便に乗船するため、2時間20分の滞在予定だ。つまり今回の船旅は、ほぼ船の上で過ごすこととなる。
ターミナルに到着しチケットを受け取ったのは21時。
船内ではWi-Fiが接続可能とはいえ、スマホが安定して使えるか心配だったので出航までのおよそ1時間、必死に式根島の情報収集をおこなった。
女性一人旅でも快適に過ごせる船内の構造
いよいよ乗船。
一昔前まで船旅といえば長時間の軟禁状態で過ごしにくく、女性一人旅に快適とはいえない印象があった。しかし今回はそんなイメージを払拭するほど新しく綺麗な船内だった。
船内の構造は左舷側が女性、右舷側が男性と男女別々に分かれているので驚いた。船室は女性専用室となっているので、それだけでもホッと一安心だ。
乗客は意外にも男女半々といった印象を受ける。20代のカップルや、50代と見られる夫婦の姿もちらほら。女性の友人同士での参加や、一人旅らしき女性の方も多い様子だった。
「女性一人だとナンパされることもある」などの噂もあったが、そんな様子もなく……。
そもそも一人旅らしき若い男性乗客は少なく、若い男性はカップルや友人同士での乗船ばかり。乗船するやいなや甲板でビール片手にくつろぐ中年男性もいて、みんな思い思いに過ごしている。
東京の夜景を楽しむことおよそ30分。
街明かりは遠ざかり、真っ暗な海を進むようになると甲板から人が減っていった。
夜が更けていくにつれて夜行旅のワクワク感も増してくるというものだ。
しかし23時30分に消灯時間を告げるアナウンスが入り、すぐに就寝時間が来てしまった……。
セキュリティ面も安心! 肝心な船室は……
今回の旅は行き先も不安だったが、実は一番心配だったのが他人と雑魚寝すること。
さあ、問題の雑魚寝スタイルの2等和室。
一部屋の定員は10名。部屋は広々としていて想像以上に清潔感がある。
今回は気にならなかったが、2等和室には靴を脱いで上がるため、他人の足の匂いが気になったり、他人のいびきがうるさくて眠れなかったりすることもあるだろう。船内には売店がないため、事前にマスクや耳栓などを準備しておいたほうがよさそうだ。
Wi-Fi接続はというと、やはり船室では安定せず頼りにならない。乗船前に目的地の情報をしっかりと調べて備えておくことを強くお勧めする。
男女別々の船内構造や充実したセキュリティ面により、快適にゆったり過ごせる……と思いきやここで大問題が勃発!
……全く眠れないのだ!
2等和室は布団やベッドが常設されていないため床で就寝するしかない。
夜の海の冷えが伝達されるのか、床がとても冷たく寝転がると全身に冷気を感じる。
筆者が船旅に慣れていないためか、船のエンジン音もかなり気になる。ノイズキャンセルのヘッドホンを着用してみたが逆に音が反響してうるさいぐらいだ。
Wi-Fiの接続も変わらず不安定でスマホは使えず。持参した本を読もうにも消灯時間を過ぎているため部屋の電気はつけられない。眠いのに眠れない。しんどい……。どうしたものか。
そこで思い切って船内の散策に出てみた。
船内の電気は付いていて食堂も開放されているので、食堂や船内のベンチで本を読んだり事前にダウンロードしておいたサブスク配信のドラマを鑑賞したりすることが可能!……助かった。
深夜2時近く。流石にそろそろ眠りにつきたい。
そこで1枚100円で借りられる毛布を利用することに。チケットを購入し、インフォメーションセンターで受け取るシステムだ。深夜でも船員が常在していて心強い。
誰もいないスペースでひとり、麺を啜る。
船室に戻りようやく就寝……と思いきや、早朝5時。軽快な音楽とアナウンスが船内に響き渡った。
ほぼ海の上! 島の滞在時間が2時間20分でも大満足!
甲板に向かう人々の姿に紛れ、眠い目をこすりながら外へ出てみると……。
朝日に照らされた綺麗な海の景色!
日の出を眺める、これぞまさに船旅の醍醐味ではないか!
日の出の景色を眺めていると、目的地である式根島までは残り3時間。
手持ち無沙汰になったものの、再び睡魔に襲われた。
夜間ほど寒さもエンジン音も気にならず、……その後、2時間ほど爆睡できた。
そして予定通りに式根島に到着!
この日は日差しが強く、気温は27度。室内温泉に行こうと思ったがまさかの休業中で、島の名産“明日葉”を使用した揚げパンや惣菜を食べながら泊海水浴場で海を眺めて過ごすことにした。ゆったりと過ぎる時間のなかで、日々の生活では味わえない充実感を得ることができた。
「ミステリーきっぷ」を利用して同じく式根島に降り立った19歳の大学生の女性に話を聞いてみたところ、Xで「ミステリーきっぷ」を知り、今回はじめて予約したのだそうだ。
式根島ではレンタル自転車を活用して、2時間20分の滞在時間で島を一周したらしい。
「船旅は初めてだったので、まずはきちんと安全に島へ辿り着くかどうかが不安でした(笑)。それから船内や島で変な人に絡まれないかなどの不安は少しありましたが、いざ乗船してみると、やっぱりスマホが使えないのが一番しんどかったですね。でも身の危険を感じたり不快感を抱いたりすることもなく、予想以上に楽しめました」
――――非日常を味わえる「ミステリーきっぷ」。当日まで予定が立てられず、船上ではスマホも思うように使えないという状況はあるが、常にスケジュールに追われる現代人にとって、自分を見つめ直す絶好の機会となるだろう。
定員は各日50名。興味のある方は、ぜひ一度体験してみてはいかがだろうか。
取材・文・撮影/逢ヶ瀬十吾(A4studio)
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