ソロデビュー30周年を迎えた奥田民生が、45歳でアピールをやめたワケ。ずっと憧れられる存在でいるには?
集英社オンライン / 2024年10月31日 11時0分
〈“夏フェス卒業”を発表した、サザンオールスターズのここ10年の軌跡…「国民的ロックバンド」でありながら、「日本ロック史における最大の革命児」桑田佳祐の唯一無二のバランス感覚〉から続く
今年でソロデビュー30周年を迎えた奥田民生が、書籍『59-60 奥田民生の仕事/友達/遊びと金/健康/メンタル』を刊行した。ソロ30年、ユニコーンも合わせると37年のキャリアの中で、数々の、かつさまざまな種類の書籍を出してきた奥田民生だが、いわゆる「ライフスタイル本」は今回が初めてである。奥田民生ならではの仕事観、生活観、人生観などについて、話を聞いた。(前後編の前編)
【画像】「大変ですか?」の問いに、「あたりまえじゃないですか!(笑)」と奥田民生
奥田民生はミュージシャンとして理想の存在?
──奥田民生という存在は、後続のミュージシャンたちから、いや、ミュージシャン以外も含めて、「あんなふうに活動していきたい」「あんなふうに生きていきたい」という、理想の存在だと思われているところがありますよね。好きな音楽を好きなようにやれている、ダサいことはやらない、スタッフから指図されない……。
奥田民生(以下同) されるっちゅうの(笑)。
──でも、そういうふうに見えている。
見えているんですよね? その「見えている」のは、俺にとっていいことなんですか? 本当はいろいろ大変なのに、そうは思われないわけじゃない? それはどうなの?
──本当はいろいろ大変ですか?
あたりまえじゃないですか!(笑)。
──自分発信ではない、スタッフから提案の仕事も多い?
うん。音楽は、やりたいようにやらせてもらってるけど、ただ、やることがそんなに多くないからね。レコーディングして、ライブやって、というだけだから。でもそこで、たとえば昔だったら、レコーディングで海外に行って、すごい勉強させてもらったし。
そういうのって、ほっといたら、俺はやんないのよ。出不精だったりするから。それを「いいからやんなさい」って、やらせてくれて、結果、それが自分の身になる。全部自分で考えて自分が決めていたら、そういうことは起きないじゃない?
だから、提案されたのがちょっと判断できない仕事であっても、とりあえずやってみれば、マイナスにはならないだろうと。「これはどう考えてもプラスにはならん」っていうのがあきらかなやつは、やりませんけど。誰かが「これはやった方がいいよ」って言うなら、「そうすか、やります」と。この本を出したのも、そういった経緯です。
俺には、自分からやりたいことが、そんなにないわけよ。「これ、昔はやれなかったけど、今ならできる」みたいな、そういうのもないし、目標もないし。なので、なにか仕事を始めるときのとっかかりを、自分からはどんどん出せない。ひとりだと、「じゃあ次のアルバムを作るわ」って言い出すまでに何年かかるんだよ、ってことにもなる。
だから、ツアーにしてもレコーディングにしても、「そろそろやりましょう。このタイミングで」って〆切があった方が、「ああ、はいはい」ってやる気も出るね。これは本にも書いてあるけど、ここは人にまかせた方が、自分にとっても、ためになるかなと思っています。
アピールは、とっくに終了してるんだよね(笑)
──THE BAND HAS NO NAME、寺田、井上陽水奥田民生、三人の侍、O.P. KING、The Verbs、サンフジンズ、地球三兄弟、カーリングシトーンズ、ABEDON AND THE RINGSIDEなど、ユニコーンとソロ以外にも、多くのバンドをやってこられましたよね。こんなにやっている人は、他にいないと思うのですが。
いや、みんなちょこちょこやってるんだけど、掲げてやってない、ってことでしょ。みんなはもっとしれっとやってるけど、俺は「今これをやってますよ!」っていちいち掲げてるから(笑)。
──ただ、いろんな人と一緒にやりたい、という意志は強いわけですよね。
そうですね。やっぱり楽しいし、やめたくなったらやめていいっていうラクさもあるし(笑)。他のミュージシャンとやると、たとえば曲を作らなくてもよかったりするときもあるじゃん? ギターだけ弾いてるときもあるし、ドラムだけ、ベースだけのときもある。バンドの楽しさの中の、「演奏が楽しい」部分を、いろいろできるわけです。作曲は、あんまりしたくないですもんね。
──演奏は好きだけど、曲を作るのはそうでもない、歌詞を書くのはもっとそうでもない、というのは、ずっとおっしゃっていますよね。
好きか嫌いかって言われたらね、嫌いよね(笑)。でも、もちろん作ってますよ? 昨日も作ってたし。本の中にも俺がどう曲を作っているかは書いてあるけど、でも「大好きです、曲を作るの」って思ったことは、1回もない(笑)。
でも、みんなそうなんじゃない? 活動のいろんなことを考えたら、そりゃあ作った方がいいわけだから、俺も作るんだけど。でも、そういうことを考えなくてもよかったりする現場もあるわけよ、こんなふうにいろいろやっていると。
俺の場合、「自分の音楽はこういう音楽です」とか、そういうアピールは、とっくに終了してるんだよね(笑)。アピールっていうのは、最初に登場して「私、こういう者です!」みたいなことよ? ソロになってアルバム『29』『30』を出したときは、そういう感じでやっていたけど。
でもそれはもう、45歳ぐらいで終了しているの。「こういうことができて、ああいうこともできて」っていうのは、ひととおり伝えたかな、と。そうしたら次は、自分の演奏力の向上だとかさ、もっといろんな音楽に向かうだとかさ、そういう方が楽しいもんね。
PUFFYはプロデュースではなく、新バンドだった
──本には人のプロデュースは向いていないことが、PUFFY をやってみてわかった、という話も出てきます。ただ、結果だけ見れば、PUFFY は大ブレイクしたわけで……。
でもあれは、当時俺が、そのアピール中のちょうどいい時期に、「自分が歌うんじゃなくても、こういうこともできますよ」みたいな感じで、がんばったわけでしょ?
あのふたりも、オーディションに受かったばかりで、それまでなにかやっていたわけじゃないし。事務所もね……事務所がいちばん戦略とか、なにもなかったんだから。あの人たち、仲よしでいつも一緒にいるから、じゃあふたりでどうですか? みたいなさ。
誰にもなんにも戦略がないし、責任もなかったんですよ。今思うと、それがよかったよね。だから、いわゆるプロデュースをしたっていうよりも……俺はユニコーンを解散したばかりだったから、新バンドを組んだみたいな。
自分の作品を作っているようなもんだもん。キーが女の子だし、歌うのが自分じゃない、っていうだけで。そういうのだったら今でもできるよ? でもそれだと、プロデュースじゃないよね。これは本にも書いてあるけど、俺は他人のためにはがんばれないってことなんだろうなと(笑)。
──とは言いつつ、2010年には、HiGE(髭)のシングル「サンシャイン」でバンドのプロデュースもしていましたが。
あれはね、機材レンタル屋だね(笑)。プロデューサーってことで、俺がスタジオにいて、質問されることに答えて……。だから、ほぼ俺、なにもしてないのよね。現場にいて録音してるときに、ちょっと口出しするぐらいで。バンドのメンバーがもうひとり増えたぐらいの感じだから、プロデュースじゃないでしょ?(笑)。
取材・文/兵庫慎司 撮影/濱田紘輔
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