PTAは必要か? 義務だった”ブラック労働”をボランティア中心の「PTO」にした都内小学校の改革プラン
集英社オンライン / 2024年10月18日 7時0分
多摩川の河川敷沿いにある大田区立嶺町小学校。自然豊かな環境に囲まれる同校は、児童数が828名、家庭数は約700。1990年代から2000年代にかけて河川敷沿いにマンションが建ったことに伴い、子どもが急激に増え、大田区中で2番目に児童の数が多い。
〈画像〉ひと目でわかる「PTO」(大田区嶺町小学校の例)
そんな嶺町小学校では、2015年にPTAを解体し「PTO」を作ったという。現PTO団長の久米雅人さんに話を聞いた。
お試し期間を経てPTA改革
2012年までは、どこにでもある普通のPTAだった。当時、PTA会長になった父親が、さまざまな慣習に疑問を持ち、PTAの改革に向けた取り組みを始めた。14年にまずは保護者から意見を募った。
「お試し期間を1年間設けてボランティア制で運営してみたら、結構うまくいったんです。次の年から正式にボランティア制でやっていこうと。私が6代目の団長になって、団長は基本的に2年任期です」(久米さん)
改革前のPTAには多くのブラックなエピソードがあったという。
「年度初めの保護者会で、委員への立候補を募ると場がシーンとなり、決まるまで帰れない。また、会社の有給休暇を取ってベルマーク係をしていたお母さんから『時給換算したら、約200円ですよね。お金を払うから、やめさせてほしい』と言われた。
ほかにも雪の中、赤ちゃんを背負って古紙回収をするとか、会議に連れてきた子どもが泣くと白い目で見られるとか、役員のなり手がいなくて、お願いの電話をかけると罵声が返ってくるとか…」
当時のPTAの規約に書かれていた『会議員は全て平等の権利と義務を有する』という言葉を目にし、平等の権利はあるけど平等の義務とは? もっとPTAってハッピーなものなのでは? 改革すれば、入会拒否する人もゼロになるのではないかーーそう思い至ったのが、もともとの改革プランだった。
義務でなく「志願制」に
ボランティア制で、やりたいときにできる人が集まってやろうと考えた。一方、日本でボランティアというと、奉仕活動とか頑張ってやるもの、というイメージがある。
「ボランティアはもともと、ラテン語で市民がその国を守るために志願する志願兵を意味する言葉でした。やりたいからやる。そのあたりを理念としてPTOを始めました」
大きく変わったのは、委員の義務当番制。いわゆるポイント制だ。6年いたら1回は必ず委員にならないといけないという決まりを、ボランティア制に。
保護者会でじゃんけんやくじ引きで行っていた委員決めをサポーター登録制にして、イベントごとに手伝える人を募る体制に変えた。委員会は六つから三つに減らした。
お試しでうまくいったので、2015年から完全にこのPTOになった。ネーミングも重視した。PTOの“O”は“Organization”だ。
アメリカだと、いわゆるPTAの連盟に所属している組織をPTA、各校で独立採算で運営する組織をPTOとするすみ分けもあるという。「会長」「副会長」という呼び方も、応援団の「団長」「副団長」に変えた。
「役員会は『ボランティアセンター』に、イベントごとの係の名前も『サポーター』に変えました。われわれは大田区のPTA連合に入っていて、地区の会長もやっています。『PTOの団長さん』という感じで、周りも認知してくれています」
年間の活動内容は、PTAの頃とそれほど変わっていない。一番大事なのは学校支援だ。例えば入学式や卒業式のサポート、長期休みに学校で飼っている生き物を持ち帰ってのお世話。ほかには登校時の安全の見守りや、町内会と地域のお祭りを一緒にする活動などだ。
「保護者が子どもたちのためにやりたいことを企画して、実現する『夢プロジェクト』も始めました。河川敷で鬼ごっこをやったり、町内会と連携してクイズラリーをやったり。
コロナ禍は集まってイベントができなかったので、『仮装して河川敷を歩くぐらいならいいんじゃないか』と始めたハロウィンイベントは、今では毎年恒例のイベントになっています」
「大切なのは柔軟性」背景には増える共働き
PTOの役員は、全体としては40人いる。それに加えて、そのときどきに募集するボランティアが入る。志望して参加する運営メンバーは、毎年20人ぐらいが入れ替わって、新しい人が入ってくる。
「役員は、季節性もあるので、ずっと忙しいわけではありませんが、企画とか町内会との折衝などを含めて、800人を超える学校だと最低でも20人は必要だと思います。
人員がいないときはイベントを縮小し、変化させます。実は去年、夏祭りという大きいイベントがあり、コロナ禍でボランティアをしたことがない保護者も増え、運営が大変でした。
それで今年は映画上映会にして、ポップコーンやわたあめなどを用意しました。そうすると、運営が10人ぐらいでできる。人数に合わせた形と規模で、子どもが楽しめるよう柔軟に活動しています」
実際のボランティア参加は、忙しければ無理はしなくていい。ただサポーターが減り過ぎると、イベントが運営できなくなる。
「そういったメッセージの発信は、続けないといけません。特にコロナ禍の数年は『何もないから何もしない』という状況で、保護者がそれに慣れてしまったのではないかと感じています。
イベントごとのサポーター募集に関しては、お手紙を配っています。家庭数が多いため、メルマガやLINEだけでは届かない。サポーターに参加していただくと特典もあります。
例えば運動会だと写真が撮りやすい席はサポーター用にして、自分の子どもの出番のときには、そこで撮れるんです」
地域作りに思いがあるか
久米さん自身も、広告代理店や外資IT企業に勤めた経験のある発信のプロだ。それでも紙でメッセージを発信し続けるなどアナログな手法も残し、さまざまな機会に伝える努力をしている。
「先日、行政関連の方と面談があったんです。ボランティア制やPTA的な組織の存続に関しては、論点が二つあるとお伝えしました。
一つ目は、ボランティア制にしたほうがいい背景です。今は働くお母さんも増え、この前実施したPTOアンケート(320人から回答)でも、共働き家庭がパートを含め8割もある。すると地域に還元できる時間は少なくなる。できる人ができるときに、という参加の柔軟性が求められています」
もう一つは、アンケートに回答していない保護者がどういう状況かわからない、という久米さん。
「公立小学校は私立と違って、いろいろな家庭環境の方がいると思っています。例えば忙しくて遊びに連れていく時間がない方がいたとして、PTOが企画するイベントに子どもが無料で参加できれば、貢献できるのではないでしょうか。
地域全体のことを考えれば、こういうものがあるほうが、住みやすい環境になる。ただ、そこまで理解するのもハードルが高いですし、今は外注によって解決しようという流れがある。
PTA活動を外部委託している学校は全国の6%ぐらいらしく、費用を調べたら最低限のことをやって年間でおよそ80万円の出費になります。そうした選択肢もありますが、今はPTOでいてほしいという意見が、保護者の8割以上なんです」
思いだけでは…防災のための人間関係
PTAに対する風当たりが強いために廃止したり、最初からPTAなしでスタートしている学校を取材してきた。けれど、保護者の参加が必要になって、代わりの体制を立ち上げるケースが多い。
「僕はここまでコミットしてるわりには、現実を捉えなきゃいけないと思っています。地元のおせっかい親父がいることによって子どもたちが育つ、というのはいい話ですが、今の時代はそれだけでは解決しません。
だから、ボランティア制にすごく共鳴しました。地域の役割という点でも、日本全体が人口減のなかで、コミュニティが成り立たなくなる。全国の町内会でも、最年少の若手が70歳という地域もあると聞きます。
PTA活動以外に、つながる目的があればどうでしょうか。私たちの学校は多摩川のそばにあるので、台風のときに氾濫すると、リスクが高い土地です。でも遠方に住む親族は、台風が来ても助けにこられない。
もし僕が被災したら、まず誰に連絡するか。PTOの仲間とか、行政機関の知り合いの方など、よく知っていて普段から連携のある人たちです。例えばそういった「防災」というキーワードをもとに、つながりを作っていくという考えもあると思います。
小学生のお子さんを持つ保護者の視点で、地域のつながりがなぜ大事なのかと、それぞれが深掘りしていけるといいですね」(久米さん)
PTAには賛否両論があるが、共働きや受験、親の介護など保護者たちの環境も昭和の時代とは保護者の環境も変化した。新しいPTAのカタチが求められる昨今、久米さんが話すように、防災や防犯というキーワードは、“つながり”を築くきっかけになるのかもしれない
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取材・文/なかのかおり 集英社オンライン編集部ニュース班
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