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〈日本初のカジノ・大阪IRの問題点〉大阪府市が目論む年間1060億円の収入増は、ギャンブル客の負けた金…オリックスのIR事業参画へも批判の声

集英社オンライン / 2024年10月25日 7時0分

2030年秋頃に開業が見込まれているカジノを含む大型リゾート、大阪IR。年間2000万人の来場者を見込んでおり、大阪府と市に年間1060億円もの収入がもたらされる試算になっている。だがその収入の大半は、入場客がカジノで負けたお金が支えることになる。

【画像】大阪IR計画で一番”儲かる”日本企業は?

書籍『カジノ列島ニッポン』より一部を抜粋・再構成し、カジノ事業の問題点を明らかにする。

ついに出た整備計画の認定

「IRは、国内外から多くの観光客を呼び込むものとして、我が国が観光立国を推進する上で重要な取組です。大阪のIRについては、2025年の大阪・関西万博の開催後の関西圏の発展や我が国の成長に寄与するとともに、日本の魅力を世界に発信する観光拠点となることが期待されています」

2023年4月14日、首相の岸田文雄氏は官邸で開かれたIR推進本部の会合で、こう語った。この日、国土交通大臣の斉藤鉄夫氏が大阪府と大阪市によるIR整備計画を認定した。

府市は2022年4月に申請を提出している。当初はもっと早く「GOが出る」見込みだったが、長引いた。地域政党である大阪維新の会が府市のダブル選挙で圧勝したのが、政府が認定を出した5日前の4月9日。選挙では「カジノの是非」が争点となっただけに、その結果を待って政府が手続きを進めたと考えるのが自然だ。

カジノ管理委員会からカジノ免許を得るなどした後、大阪IRは2030年秋頃の開業を目指す。

まず押さえたいのは、その立地だ。地図にあるように、大阪湾に浮かぶ人工島「夢洲」が舞台となる。広さは約390万平方メートル。東京ドームの面積は4万6755平方メートルだから、約83.4個分となる。

そして、夢洲は2025年開催予定の大阪・関西万博の会場でもある。下の地図を参照してもらえば分かるように、南側約155万平方メートルを万博会場予定地とし、北側約50万平方メートルをIR建設予定地にあてる。

具体的には大阪市が日本MGMリゾーツとオリックスを中核企業とする「大阪IR株式会社」に土地を貸し出す。年25億円で35年間貸し出す定期借地契約が結ばれた。

ただし、この夢洲はIR用地として問題含みだ。夢洲は「良好な都市環境の保全や公害防止、大阪港の機能強化を目的として、廃棄物、建設工事に伴う陸上発生残土、浚渫土砂の受入を行っている」(大阪市の「夢洲土地造成事業」調書付属資料)。

そのためIR建設を進めるためには、有害物質の除去や液状化対策が必要となる。府市は長らく「IRには公金投入は必要ない」と説明し、民間資金だけで進めることを利点の1つに挙げてきた。

しかし、IR事業者から求められ、土壌対策費として788億円を負担することになった。府市が要求を吞んだ背景には、IR事業者の公募に1社しか名乗り出なかったことが指摘されている。

さらに開業後の増築などで施設が拡張される場合、大阪市が追加の土壌対策費として最大で約257億円を想定していることが、2023年9月に明らかになっている。

2030年の開業時に駐車場や広場になる予定の14万平方メートルと、拡張用の土地に見込む6万平方メートルの合計20万平方メートルが対象だ。順調に集客できれば、大阪IR株式会社としては追加投資をして、施設を広げたくなろう。2030年代に、この費用負担が注目される可能性は大いにある。

地盤沈下対策

また、大阪市と大阪IR株式会社が結んだ「事業用定期借地権設定契約書」の骨子案には、気になる記述がある。「地盤沈下対策」の項目に、次の一文が出てくる。

「市が本件土地に使用した埋立材の原因により、通常の想定を著しく上回る大規模な地盤の沈下又は陥没が生じ、これらに起因して通常予測され得る程度を超える地盤沈下対策等が必要と見込まれる場合、一定条件の下、市がその費用を負担」

大阪湾内にある関西国際空港が1994年9月の開業以降、地盤沈下への対策を取り続けていることは知られている。どの程度が「通常の想定」の地盤沈下なのかは記載を見つけられなかったが、大阪IRでも大阪市のさらなる負担が生じる懸念はぬぐえない。

悪しき前例もある。大阪・関西万博の会場建設費は2023年11月、当初想定の1.9倍となる最大2350億円になる案が認められた。建設費は国・府市・経済界の三者が、等分に負担する。

当初は1250億円だったのが、2020年に1850億円になり、さらに増額した。主催する「2025年日本国際博覧会協会」(万博協会)は、資材価格や労務単価などの物価上昇を理由にしているが、当初見込みの甘さを指摘されても仕方ない。

この土地をめぐっては、さらにもう1点、指摘事項がある。大阪市がIR事業者に貸す土地の賃料が不当に安く設定されたなどとして、2023年4月に住民10人が訴訟を起こした。

原告らは、大阪市が賃料算定を不動産鑑定業者4社に依頼したところ、3社が1平方メートルあたり月428円で一致したことを問題視。この値段になったのは、「不自然な一致で、著しく安価に設定された不当な鑑定だ」と不服を申し立てた。

報道によると、この月428円の算定にあたり、鑑定業者は「IR事業は国内の実績もなく、考慮することは適切ではない」と2019年夏、大阪市に説明したとされる。

しかし、カジノや高級ホテルの売上を年間5200億円も見込む事業の効果を、賃料算定に含めなくていいものなのか。大いに疑問が残るだけに、訴訟の行方を注視したい。

オリックスも中核企業の1つ

ここから大阪IRの概要をつかんでいこう。2022年4月に府市と大阪IR株式会社によってつくられた「大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域の整備に関する計画」(2023年9月と2024年4月に一部修正)をめくっていく。

この整備計画から主要素を抜き出して、整理・作成したのが、下の表だ。適宜、参照しながら読み進めていただきたい。

まずはIR事業者となる「大阪IR株式会社」を成す出資者から。日本MGMリゾーツとオリックスが約41%ずつを担う中核株主で、残り約17%は少数株主が持つ。関西企業(JR西日本・近鉄・京阪・南海など)を中心とする22社がこれにあたる。

日本MGMリゾーツは、米国のMGM社の子会社だ。同社のプレスリリース(2023年4月)によると、日本のIR市場への参入を目指し、MGM社が2014年9月に設立。東京に続き、2019年1月には大阪市北区中之島に拠点を構えている。

なお一時期、日米外交筋での著名人物が日本MGMリゾーツの社長を務めていた。外交官として活躍し、2017年にキャロライン・ケネディ駐日米国大使から引き継いで臨時代理大使となったこともあるジェイソン・ハイランド氏だ。同氏が2019年に出版した『IRで日本が変わる』を読むと、IR推進派の論理がつかめる。

では、親会社の米MGM社は、どんな会社だろうか。同じリリースだと、同社は米国の代表的な株価指数の1つ「S&P500」の構成銘柄。IRを世界で開発・運営し、31のユニークなリゾートブランドを展開している。

コロナ禍で米MGM社は大打撃を受けたが、整備計画によると、それでも「潤沢な手元流動性(2021年9月末時点の手元流動性は約64億ドル)を有する」。さらに「資金拠出が主に想定される2022年から2025年までの間においても十分なフリーキャッシュ・フローを創出できる事業計画を有して」いる。

相方となるオリックスは、プロ野球チームを所有していることで知名度が高い。大阪発祥で関西国際空港や大阪国際空港(伊丹空港)、神戸空港、京セラドームなどの運営もしている。

レンタカー会社として認識している読者もいるだろう。整備計画によると、2021年9月末時点の手元流動性は約1兆737億円。オリックスもまた、出資金の約41%にあたる約3060億円を十分に賄えると評価されている。

ただし、プロ野球チームを有する企業が、IR事業に参画することへの批判の声も上がっている。しかも、オリックスは2023年シーズンにおいてパ・リーグ3連覇を果たし、人気も上昇中だ。

IRを成り立たせるのはカジノ、ようは来場者がギャンブルで負けたお金。他方、プロ野球選手はファンの子どもたちのあこがれとなり、大人にも元気を与える。カジノとプロ野球は、いかにも組み合わせが悪い。

批判の声の一例を挙げてみる。ギャンブル依存症相談などに乗っている「大阪いちょうの会」は2020年3月、「オリックスはカジノ賭博事業から撤退せよ」と題する決議文書を定期総会の場で公表した。そこでは、オリックス・バファローズの以下の球団理念を「素晴らしい」と紹介している。

オリックス・バファローズは、
野球で、ファンに〝感動〟と〝興奮〟を届けます。
野球で、こどもたちの〝夢〟と〝希望〟を育みます。
野球で、地域社会の〝街づくり〟と〝人づくり〟に貢献します。
野球の力で。

そして、その後、「球団理念とカジノ賭博事業とは絶対に相容れないものである」と指摘。理由として「カジノ賭博にはギャンブル依存症の発生、教育、風俗環境の悪化、多重債務問題、暴力団の暗躍、マネーロンダリング、犯罪の助長などが必須である。

こどもたちの〝夢〟と〝希望〟を育むプロ野球とカジノ賭博は正反対に位置するものである」と意見を述べている。

多額の納入金・納付金

大阪IRは開業3年目で国内約1358万人、海外約629万人、合計約1987万人の来訪者を見込んでいる。このうち、カジノへの来訪者を約1610万人としている。大阪IRに来た人々の約81%がカジノに足を運ぶ計算だ。

これらの数字から、開業3年目での年間売上高を約5200億円、当期純利益を約850億円とはじく。売上高の内訳はカジノが約4200億円で8割ほど、高級ホテルの売上など非カジノは約1000億円とした。

府市に入るお金は、年間約1060億円を見込む。カジノでは日本人や日本在住の外国人から1回あたり6000円の入場料を取る。半分は国に回り、半分が府市に入る。その入場料納入金が約320億円。カジノ収益の一部からなる納付金約740億円と合算すると約1060億円となり、それを府市で折半する。

府市は、この収入の一部をIR内に還元していく。インフラの維持管理(年間約4億円)や消防力の強化(同約4億円)にとどまらない。ギャンブル依存症対策の充実・強化(同約14億円)や、夢洲に新設する警察施設の設置・維持、防犯環境の整備やパトロールの強化(同約33億円)にも使う。

整備計画通りだと、大阪市には年間530億円が入る。同市が2023年6月にまとめた「財政のあらまし」によると、同年度会計予算では、法人市民税が1165億円。その半分弱が、一気に増える計算となる。

ただし繰り返すが、このお金はカジノ客の負けが支える。博打ですったお金で財政を豊かにすることを、どう考えるか。カジノ・IRに対する賛成と反対が分かれる1つのポイントになっている。

写真/shutterstock
図/書籍『カジノ列島ニッポン』より

カジノ列島ニッポン

高野 真吾
カジノ列島ニッポン
2024年9月17日発売
1,100円(税込)
新書判/240ページ
ISBN: 978-4-08-721333-1

2030年秋、大阪の万博跡地でカジノを含む統合型リゾート (IR) の開業が予定されている。
初期投資額だけでも1兆円を超える、この超巨大プロジェクトは年間来場者数約2000万人、売り上げは約5200億円もの数字を見込んでいる。
カジノ・IRに関しては大阪のほか、市長選の結果により撤退した横浜をはじめ、長崎、和歌山でも開設の動きがあり、そして本丸は東京と見られている。
20代から海外にわたってカジノを経験してきたジャーナリストが、国内外での取材を踏まえ、現在進行形の「カジノ列島ニッポン」に警鐘を鳴らす。

◆目次◆
第一章 消えぬ「東京カジノ構想」の現場を歩く
第二章 海外から探るIRの真の姿
第三章 先行地・大阪の計画とは
第四章 不認定の長崎、こけた和歌山・横浜
第五章 ギャンブル依存症をどう捉えるか
第六章 国際観光拠点VS地域崩壊

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