「日本列島カジノ化」で急増が見込まれるギャンブル依存症とは…「予算や時間を守れない」「嘘をつく」などの症状が
集英社オンライン / 2024年10月30日 7時0分
〈「ダイオキシンをはじめ有害物質がいっぱいですわ」大阪カジノ建設予定地・夢洲は本当に安全なのか?合格を出したはずの国の審査委員会も土壌汚染対策を再要望〉から続く
2024年の春、日本を騒がせたニュースといえば、大谷翔平の通訳だった水原一平の事件であろう。重度のギャンブル依存症である彼は大谷翔平の口座から不正に送金を行ったとして銀行詐欺罪などの罪に問われている。
酒やタバコのように「分かっちゃいるけどやめられない」というギャンブル依存症の深い闇を書籍『カジノ列島ニッポン』より一部抜粋、再構成し解説する。
大谷翔平氏の通訳も
「一平さんがその時、ミーティングの時にギャンブル依存症だと知らなかったですし、彼が借金をしていることはもちろん知りませんでした。僕は彼の借金返済に同意していませんし、ブックメーカーに対して送金をしてくれと頼んだことも、許可したことももちろんないです」
2024年3月25日(日本時間26日)、野球界のスーパースターで米大リーグ・ドジャースに所属する大谷翔平氏は、集まった約100人の報道陣の前で、こう声明を発表した。
「一平さん」が、大谷氏の通訳を務めていた水原一平氏を指すことは、ほとんどの読者が分かっていることだろう。水原氏は大谷氏の米大リーグ挑戦に伴い、2017年から専属通訳となる。投打二刀流で大活躍する大谷氏は2018年以降、米国から明るい話題を届け続けた。
大谷氏の人気が上がるにつれて、常に側にいる水原氏も知名度を高めた。彼は単なる通訳役にとどまらず、移動時には車の運転手役となり、グラウンドではキャッチボールの相手もしている。
打者専念となる2024年シーズンを前に、大谷氏は同年2月に結婚を発表。3月中旬に妻との写真を公開している。この時、大谷氏がアップしたインスタグラム画像には、ドジャースチームメイトの山本由伸投手のほか水原氏の姿も一緒に映っている。
大谷氏を献身的に支えているとされてきただけに同年3月下旬、水原氏がドジャースに解雇されたというニュースは、我々を驚かせた。さらに複数の米メディアが、彼が違法賭博に関与したと報道したのだから、なおさらだ。
水原氏は結局、大谷氏の口座から約1700万ドル(約26億6000万円)をだまし取ったとして銀行詐欺罪などで訴追された。そして、6月に米国の裁判所で開かれた罪状認否で、この訴追内容を認めている。
ここでは、水原氏問題の詳細を記すつもりはない。伝えたいのは大谷氏が述べたように、彼が「ギャンブル依存症」だという点だ。
「分かっちゃいるけどやめられない」
水原氏も違法賭博がキャリアや名声、大谷氏との信頼関係を失わせる危険な存在であったことは、百も承知だったはずだ。訴追された金額が約1700万ドルであることを踏まえると、ある程度まとまった期間にわたって手を染めた結果、巨額な借金を背負ったと推測するのが自然だ。
水原氏も、何度も立ち直りを模索しただろう。それでも、できなかった。
「分かっちゃいるけどやめられない」
タバコ、アルコール、薬物を含め中毒性があるものから離れられないことを端的に指す言葉だ。水原氏も輝き続ける大谷氏の隣で、人知れずこの悪循環に陥っていた。
水原氏の一件は、ギャンブル依存症がもたらす人生の破滅を教えてくれている。「他山の石」としていくべき事例となるが、ギャンブル依存症者の支援団体らは、このずっと前から地道に啓蒙活動を続けている。
改めてその事例を紹介してから、カジノとギャンブル依存症との関係考察に移りたい。
ツイッタードラマ
「それって『ギャンブル依存症あるある』だから」「あなたのご主人はね。ギャンブル依存症という立派な病気です」
タレントの青木さやかさん扮するアヤメが、相談に来た若い女性に告げる。驚いた女性は答える。「そんな依存症なんて。ただ、ギャンブルが好きすぎるだけで、実際にやめてた時期もありますし」。すると、アヤメがにやつき始める。
ついには右手に持った大きなハンドベルをグルグルと回転させつつ、女性の手を取りながらこう告げた。
「LOST! よく来たね」
ツイッタードラマ「ミセス・ロスト~インタベンショニスト・アヤメ〜」の第1話の終わり40秒ほどを描写してみた。同ドラマは2020年5月の「ギャンブル等依存症問題啓発週間」に合わせて配信された。
構成は1話約2分で全11話。インタベンション(intervention)とは「介入」を意味する。
ギャンブル依存症は「否認の病」と言われる。ギャンブラーは生活が立ちゆかなくなってもギャンブルをやめようとしない。それなのに自分でやめられるとの認知のゆがみを生じさせている。インタベンショニストは本人、家族に適切に介入することで回復過程に導く役割を担う。
ドラマでインタベンショニスト役となった青木さんも、過去にギャンブルにハマった時期がある。「婦人公論.jp」の連載「47歳、おんな、今日のところは『●●』として」では、パチンコ依存気味だった日々をつづった(2020年8月)。
実家のある中部地方にいた頃は、「新台オープンの為に張り切って早朝に起き」、パチンコ店に向かった。「決してお金があったわけではないが」、パチンコの最中だけは「『1万円が100円』くらいの感覚になった」。
上京後も、「当時の彼氏には『もうやめた』と噓をつき、バイトに行くといってはパチンコに通った」。今でも「『やめられた』ではなく、『やめている』」状態だと、かなり率直に記す。
なお、先のドラマでの相談者の夫役は、俳優の高知東生さんが務めている。2016年に覚醒剤の使用などで逮捕されてから俳優業に復帰する作品となった。
制作したのは公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」(東京都中央区、田中紀子代表)。ドラマの終わりには「お悩みの方はscga.jpまで」と出てくる、そのリンク先の団体だ。
青木さんがドラマ第1話で「LOST!」と叫んだのは、同団体が開発したギャンブル依存症自己診断ツール「LOST」を指す。以下が意味するところだ。
Limitless(ギャンブルをする時には予算や時間の制限を決めない、決めても守れない)
Once again(ギャンブルに勝った時に「次のギャンブルに使おう」と考える)
Secret(ギャンブルをしたことを誰かに隠す)
Take money back(ギャンブルに負けた時にすぐに取り返したいと思う)
ドラマ第2話では、この4問中2問以上に当てはまると、「ギャンブル依存症の可能性が高い」とされている。
同様のチェックリストには、国際的に広く使われている米国精神医学会の診断マニュアル「DSM-5」がある。9項目のうち4項目以上に当てはまると、「ギャンブル障害」と見なされる。依存症ピアネット「ソーバーねっと」が掲げるチェックリストにも使われている。
こうしたチェック項目からも、ギャンブル依存症がいかに泥沼状態に陥りやすいかを推測できよう。
写真/shutterstock
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