「日本食ブランドを損ねているのは日本人だ」堀江貴文が“旨いのに安すぎる”日本のハンバーガーを食べて考えたこと
集英社オンライン / 2024年10月21日 11時0分
今後、さらなる人口減と少子高齢化の波にさらされていく日本経済にあって、外貨獲得のための大きな武器になりうるのが日本の食文化だ。だが、「そんな日本食ブランドを、あろうことか日本人自らが傷つけている」と堀江貴文氏は言う。いったい、どういうことか?
堀江氏の新著『ニッポン社会のほんとの正体 投資とお金と未来』より一部を抜粋、編集してお届けする。
日本食ブランドを損ねる日本人
日本の和牛は世界的に高く評価されている。世界最高峰のステーキを決める国際品評会「ワールド・ステーキ・チャレンジ2022」では、日本の和牛が見事に三冠を獲得した※1。
いまや海外のVIPたちもすっかり和牛の虜だ。私が手がける会員制和牛レストラン「WAGYUMAFIA」には、デビッド・ベッカム、エド・シーラン、ビヨンセ&ジェイ・Z夫妻も訪れてくれた。
しかしそんな世界に誇る和牛のブランド価値を、あろうことか日本人みずからが傷つけている。2022年12月、モスバーガーが「一頭買い黒毛和牛バーガー」という名の商品を数量限定で販売した。
日本で飼育されている和牛の9割以上が黒毛和牛(黒毛和種)だ※2。黒毛和牛は脂肪の質が良く、肉もとても柔らかい。言うまでもなく高級品である。モスバーガーのその黒毛和牛バーガーには、サーロインやヒレといった上質部位も使用されているのだという。
聞くところによると大人気らしい。そこで私も実際に食べてみた。思わずうなった。黒毛和牛ならではの濃厚な旨味が口のなかにあふれる。看板に偽りなしだ。美味い。でももうひとつ、うなった点がある。こちらは落胆のうなりだ。なんと値段が税込690円。愕然とせざるを得なかった。これで690円はあまりに安すぎる。まさに価格破壊である。
和牛への冒涜
この値段を米ドルに換算すると約4ドル60セント(1ドル=150円)。アメリカで売られるビッグマックは5ドル15セントだ。この黒毛和牛バーガーがいかに破格かわかるだろう。為替や物価の違いはあるにせよ、こんな激安で販売するなど、もはや和牛への冒涜である。
少しでも安く提供してたくさんの人に喜んでほしい。もちろんモスバーガーにはそんな思いがあったのだろう。でもこの価格破壊は和牛の価値を損なうものだ。真剣に和牛ブランドを高めようとする関係者にとって大きな迷惑でしかない。
和牛にかぎった話ではない。日本は自国の食文化をないがしろにしがちだ。和食料理にしてもそうだ。和食は世界でもっとも洗練された料理である。出汁や塩を用いた繊細きわまる味つけはもはや芸術だろう。
しかし世界的な和食ブームのなか、外国資本による〝なんちゃって和食〟が各国いたる場所ではびこっている。とても和食とは呼べない代物が自称・和食レストランで供されているのだ。しかもその大半は高級店である。
このまま野放しにしておけば、和食に対するイメージは悪くなる一方だ。とても歯がゆい。
日本の食文化のポテンシャル
そんな日本と対照的なのが、同じく美食の国であるイタリアだ。彼らは自国の食文化を大切に守り抜いている。
たとえば在日イタリア商工会議所は「イタリアンレストラン品質認証マーク(AQI)」という制度を導入している。これは伝統的なイタリア料理を再現するレストランにお墨付きを与えるものだ。本場の味を求める客にとってはまたとない指標である。そして同時にイタリア料理のブランドを守る制度にもなっているわけだ。
フランスもそうだ。自国の食文化に誇りを持っている。なかでもシャンパン(シャンパーニュ)はその象徴だろう。シャンパンの名称を名乗るのが許されるのは、厳しい基準をクリアしたスパークリングワインだけだ。
使用するブドウはシャンパーニュ地方で収穫された特定品種に限定され、製法も伝統的な瓶内二次発酵のみ。そうした厳格な規定が法律(原産地呼称統制法)でしっかり定められているのである。かくしてシャンパンは世界最高のスパークリングワインとして君臨し続けている。
日本も見習うべきだろう。手をこまねいていてはダメだ。これから日本経済は人口減と少子高齢化の荒波にさらされていく。そして昔のように日本の家電が海外で飛ぶように売れることもない。
でも食ならいくらでも世界に打って出られる。日本の食文化にはそれだけのポテンシャルがある。すなわち外貨獲得のための大きな武器になりうるのだ。
和食にしろ和牛にしろ、そのブランド価値を高め、守り続けることこそが、日本の未来を輝かせるのである。
※1 マピオンニュース「世界一のステーキを決める大会で『和牛』が3 冠達成、ネット『日本のステーキはガチ』」(2022年10月4日)
※2 農林水産省「特集1 和牛(1)」
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