ウェブメディアで氾濫する「変な広告」の正体…なぜ記事を読みたいのに動画を視聴させられるのか「このままだと、ヤバい」
集英社オンライン / 2024年10月22日 11時0分
新聞や雑誌が部数が落ち込んでいる中、活路として目されたウェブメディア。しかしそのウェブメディアも厳しい状況にたたされている。かつてはネットワーク広告を使って効率的に稼げる媒体ではあったが、ここ数年で広告単価が激減している。一体何が起こっているのか。
資産形成メディア「MINKABU」編集長、鈴木聖也氏が解説する(本稿は鈴木聖也著『最近のウェブ、広告で読みにくくないですか?』(星海社)から抜粋、再構成したものです)
最近、ネットで「変な広告」増えていませんか?
「最近、オンライン記事の広告が異様に増えていませんか」
そんなことを聞かれたことがある。たしかに、ここ最近増えている気がする。
『週刊文春』『週刊新潮』『週刊現代』『週刊ポスト』などの雑誌を母体とした、いわゆる雑誌系ウェブメディアの広告によくあるパターンはこんなものだ――まず読みたい記事のタイトルをクリックすると記事本文の最初の100文字だけ表示され、その下に「続きを読む」ボタンが出てくる。
本文が始まる前段階のはずなのに、その時点ですでに「フッター広告」(画面下部に固定され、スクロールしても消えない広告)に加え、「続きを読む」ボタンの下にディスプレイ広告が表示されている。
本文を読み始めると500字程度ですぐにまた広告が出現する。そして記事を読んでいると1000字程度で記事のページが区切られ、続きを読むためには「次のページへ」を押さなくてはいけない。次のページを開くと、さっきとはまた違う広告が表示される。
日本のウェブメディアだと常識のようになっているかもしれないが、こういった一つの記事を分割して表示することは「ページネーション」と呼ばれ、度重なる広告表示と併せて読む人に大きなストレスを与えている。なぜこのような読みにくい構成になっているのだろうか? 答えは広告をたくさん表示させるためとされる。
タワマン批判記事に表示されるタワマンの広告
1つの記事を1ページにまとめるよりも、ページネーションを使って複数ページに分けて読者に何回もページを読み込ませた方が、さまざまな広告が表示されるため、結果として広告がクリックされる可能性が高まると言われているのだ。
また、ウェブ広告にも種類がある。多くの無料ウェブメディアでは、自社の営業部などが広告を出したい企業から直接獲得してきた純広告のほか、ネットワーク広告というものが記事を埋め尽くしている。
ネットワーク広告とは、簡単にいうとそのウェブメディアの運営者ではなく広告代理店がウェブ広告を出稿したい企業をまとめ、提携しているウェブメディアに対して一斉に配信している広告だ。
サードパーティークッキーとよばれる、ブラウザーにユーザーの行動情報などを保管する仕組みを使って、読者にとって最適な広告をその都度配信している。
1本の記事で複数回、違った広告を表示させることによって、「広告の最適度合いを高めている」と主張する編集者もいる。
仮に東京・湾岸地区の高層マンション、いわゆる「タワマン」に関する広告があるとしよう。タワマンについて書かれた記事はウェブで氾濫しているので、そういった記事のページにタワマン広告が出る。あなたもこれまでにどこかで見かけたことがあるはずだ。
しかし、タワマン記事は批判的な論調のものも少なくない。タワマンを批判している記事なのに、その記事のネットワーク広告として表示される広告が新築タワマンの販売をお知らせするものであったら、記事と相反する内容の広告なのでおそらくクリックしないのではないだろうか。
しかし「次のページへ」をクリックして、今度は「タワマン批判の急先鋒作家のセミナー」の広告が出現したら、思わず広告をクリックしてしまうかもしれない。これが「広告の最適度合いを高める」ということだ。
記事読む前に動画広告を見させられる
ただ、それにしても最近は広告が増えている気がする。とくに広告代理店経由のネットワーク広告が。
実はこれまでもウェブ広告がじわじわと増えてきてはいた。画面全体を広告が覆う「フルスクリーン広告」も以前より導入するメディアが増えつつあったのがその例だ。
ただし、ウェブ広告が読者にとって「明確なストレス」として表れてきた転換点をひとつ挙げるとすると、2023年後半あたりからだろう。
たとえばこんな経験はないだろうか。ウェブメディアの記事を読んでいたら、「続きを読みたいなら、これから15秒間広告を見てください」と強制的に広告動画などの視聴を強いられる経験だ。これをリワード広告という。
15秒間の苦痛にたえると「リワード」(報い)をもらえるということだ。これが強烈なストレスを読者に与えているようだ。
Xを見ていてもリワード広告を目にした読者がサイト名を挙げ「もうここのニュースは絶対読まない」と書き込んでいるのを度々見かける。
ウェブメディアの編集者としては、たしかに読みにくいと同調する半面、「タダより高いものはないってことだよ」なんてイジわるを言いたくならないでもない。
かという私もオリジナルサイトの広告があまりに多くて煩わしい時は、敢えて配信先で広告が少ないヤフーニュースなどに遷移して同じ記事を読むことがある。 リワード広告自体は、2023年後半にニュースサイトで頻繁に登場する前から存在はしていた。代表的な例でいえばユーチューブ広告である。
ただこれはテレビのCMに比べると広告視聴に対するストレスも少なく、大きな違和感を覚える人は少ないのではと考える。
他には無料ゲームアプリなどでよく使われている。「ゲームオーバーした際、最初からではなく途中からリスタートする」「レアなアイテムを獲得する」といった特典を獲得するために広告の視聴を求めるものだ。
ちなみにゲームアプリでは、ゲーム内でリワード広告を濫用するとアプリストアにおける評価が下がるとされているから、やはり評判はよくない。
なぜかメディアの使い勝手が日に日に悪くなっている
ゲームにしろ、ニュース記事にしろ、無料といっても無料ではない。制作に原価はかかっていて、読者の代わりに誰かがお金を払っている。ウェブメディアではその役割は広告主が果たしている。問題はウェブメディアにおいて、その「代わりの誰か」が、だんだん少なくなってきていることだ。
広告に回る全体の金額を見ると増えているのだが、ニュースメディアに回るお金は減ってきている。それが評判の悪いリワード広告の召喚につながった。
しかし、動画広告を見ないと記事を読めない不便なウェブメディアが、私たちメディア人が求めた未来だったのだろうか。インターネットの登場で情報の民主化が進んだはずが、本当にそうなっているのだろうか。
テクノロジーは日々進歩しているはずだ。ありとあらゆるものがスマホに集約され、生成AIの登場で更なる業務効率化が期待される。世の中はこれからも、どんどん便利になっていくはずだ。それなのに、なぜかメディアに関しては使い勝手が日に日に悪くなっている。一体なぜなのだろう。
ウェブメディアに流れていたお金が動画、検索、SNSへ
実をいうと2021年以降、多くのメディアはPVの下降傾向に悩まされてきた。コロナ禍での巣ごもり需要により各メディアは最高PVの更新に沸いたが、オリンピックも終わり、人々が待ち望んだ「ニューノーマル」の時代が訪れると、かつての最高水準に達することができなくなってしまった。
巣ごもり需要の低迷に加え、動画サイトやSNSにユーザーを奪われ、ウェブメディアの数そのものが増えるなど、複合的な要因があった。
一方で、広告の動きにも変化があった。2023年4Q(第四四半期)のグーグルの決算を見ると、売上高は過去最高であるものの、多くのウェブメディアが収益源の柱としている「グーグル・ネットワーク」(アドネットワーク広告)が昨対比97・9%で減少している。昨々年対比だと89・2%にまで落ち込んでいる。
電通らが発表した「2023年 日本の広告費」によれば、マスコミ四媒体由来のデジタル広告費は前年比106・9%の1294億円とパイそのものは広がった。だが、新聞デジタルは94・1%の208億円、媒体数は増加しているとされる雑誌デジタルは100・2%の611億円と厳しい。
デジタル広告の種類別に見ていこう。ウェブサイトの広告枠に表示される「運用型ディスプレイ広告」の金額は昨対比7・6%増の6939億円だった。だが担当者によると、「運用型ディスプレイ広告の増加要因にSNSは大きく影響」したそうだ。
つまり、SNSのタイムラインなどでコンテンツに挟まれる形で表示されるタイプの「インフィード広告」が活況ということであり、多くのウェブメディアの収益を支えてきたネットワーク広告は「苦戦している」という。
他方、検索連動型広告は9・9%増、動画広告は15・9%増と順調に伸びている。ソーシャル広告単体でみても13・3%増で順調だ。結局、これまでウェブメディアのネットワーク広告枠に使われていたお金が検索、動画、SNSに流れていると分析できる。
ウェブメディアの大波乱「サードパーティクッキー廃止」
またネットワーク広告にとって重要な「サードパーティークッキー」をめぐり大きな動きも出ている。サードパーティークッキーとは「広告企業などがサイトを横断して消費者のウェブ閲覧履歴を集めるのに使う。利用者の関心や属性に応じた広告配信を支えてきた」(日本経済新聞2024年4月24日「Google、サードパーティークッキーの24年内廃止を延期」)ものだ。
つまりウェブ閲覧履歴を収集して最適な広告を出すツールといえるが、プライバシー保護の観点から批判が高まり、「米アップルの『サファリ』など、競合するブラウザーはすでに初期設定でサードパーティークッキーの機能を全面禁止」(同)した。
グーグルでも自社ブラウザ「クローム」での使用について、もともと2024年内に廃止する計画を進めていたが、その後方針変更を発表。サードパーティークッキーは残しつつ、ユーザーに選択を委ねる形に変えていくという。
この、ウェブメディアで読者に合わせた広告の配信を可能にするサードパーティークッキーの廃止や変更により、すでにネットワーク広告では収益の伸び悩みや減益という大きな影響が出ているが、クロームが使用中止をせずとも仕様を変更すればさらに収益は悪化するだろう。
それに対して現在収益を伸ばしている動画、SNS、検索はいずれもファーストパーティークッキーを活用したものだ。つまり、自社サイト内で獲得したユーザーの属性情報を広告に使っており、サードパーティークッキーと違ってサイトをまたいでのトラッキングはウェブメディアほどそこまで重要ではない。
だからこそ、自社でユーザーが関係するようなユーチューブ、各SNSなどはサードパーティークッキー廃止の流れによる影響はそれほど大きくない。要するに、広告はファーストパーティーデータを持っている巨大メディアへ流れている。
また、ディスプレイ広告、中でもウェブメディアのネットワーク広告の広告効果を懐疑的にみる広告出稿者が増えているとされることも、今後の先行きを不安にさせている。
つまり、PVは伸び悩んでいるのに、1PVあたりのもらえるお金も下がっている状況なのだ。
経済系ウェブメディア「広告単価が回復しないと、会社経営的にもまずい」
ウェブメディアのPV数とは、ざっくり次のような式で考えることができる。
1カ月の総PV数=1記事あたりの平均PV×1カ月の配信記事本数
記事本数=編集部員数×一人あたりの平均出稿本数
この計算式には当然、トップページや前月以前に配信した記事のPVなどは含まれていないが、最新情報を配信し続けるフロー型メディアは新しい記事を出し続けることによってPVを獲得するので、最新記事以外はここでは無視する。
本来であれば、媒体としては平均PVを保ったまま配信本数を増やしてメディアを成長させたいところだ。しかし市況の変化により平均PVは落ち込んだ。
経済系ウェブメディアの広告担当者は「このまま広告単価が回復しないと、会社経営的にもまずい」と明かす。コストばかりかけても売上があがらない、もしくは維持のような状況になってきているのだ。
文/鈴木聖也
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