日本人観光客はインバウンド客よりマナーが悪かった? 「備品盗難」「泥酔」「部屋汚し」…国の補助金で客層が悪化?
集英社オンライン / 2024年10月25日 11時0分
コロナ禍で導入された旅行業界の支援キャンペーン「Go Toトラベル」。すでに懐かしのワードとなっているが、この言葉が再びネット上をにぎわせている。助成金による割引で旅行しやすくなった一方で、マナーの悪い客が続出したと指摘されているが、それは本当なのか? また、昨今たびたび問題視されるインバウンド客との違いとは? 専門家に聞いてみた。
“迷惑客”はインバウンドより「Go Toトラベル」のほうが酷かった?
10月12日、「日本最大級の富裕層向けWEBメディア」をうたう『THE GOLD ONLINE』が、消費者行動に関する書籍からの抜粋として、GoToトラベルの実態についての記事を配信した。
同記事内では、国からの助成による最大半額という割引を受け、日頃は高級ホテルを利用できない宿泊客が殺到したことが振り返られている。
また、これによってドライヤーやバスローブなどの備品が盗まれるほか、泥酔して暴れる、子どもが廊下を駆け回るなど、マナーの悪い宿泊客が増えたことを指摘。
さらには些細なことでクレームを入れたり、理不尽な要求をしたりするケースが相次ぐなど、トラブルが多発していたことも紹介されていた。
記事によると、こうした実態は観光業界では「Go Toトラベルの客は、インバウンドの客よりも悪かった」と言われていたという。近年、外国人観光客のマナーがたびたび問題視されているが、それを上回るとするならば、どれだけ無法地帯だったかが窺えるだろう。
これに対し、SNSでは《“日本下げ”したい人たちの仕業じゃないの?》《外国人批判ばかりしていて、自分たちがまったくできてない日本人も増えたね》《日本人になりすますな!》《日本人にも品位の低い人や常識が通じない人はいる》などの声が続出。
冷静な人から、日本人による行為だと認めたくない人まで、まさに侃々諤々の議論に発展している。
実際のところ、Go Toトラベル時の日本人や現在の訪日外国人客は、どのような宿泊マナーなのか。
Go Toトラベル時は「備品の一切合切を持ち帰る」旅行客も
“旅慣れ”という言葉を使いながら実態を語ってくれたのは、東京のホテル業界発展を目的に設立され、200以上のホテルが加盟する「東京ホテル会」の代表・髙部彦二氏だ。
「あまり言いたくないのですが……Go Toトラベルは補助金が出て安く宿泊施設に泊まれたので、“旅慣れ”していないお客様もたくさん来たんです。
そのなかには電気ケトルやグラス、タオルなど、備品の一切合切を持って帰った人もいて、被害金額がウン十万円という驚きのケースもありました。まぁ、これは犯罪として粛々と対応したのですが」
こうした迷惑客が問題となったことで、国会では旅館業法の改正議論が進み、昨年12月から全国で改正旅館業法が施行された。
これにより現在では、たとえば泥酔して従業員に何度も介抱を依頼するなど、客が過剰なサービスを繰り返し求めた場合、旅館やホテルは宿泊を拒否できるようになった。
「Go Toトラベル実施中は、私どもとしてはそれでご飯を食べているということで、(客の)マナーについてはもうあきらめていたんですよ。そもそも日本では、三波春夫の『お客様は神様です』が誤解されて伝わっていて……。
でも、最近だと『カスハラ』といった言葉もありますし、従業員のほうが大切という風潮に変わってきています。マナーの悪い客に対する法律ができたのはとても助かりますし、ずっと訴えかけてきてよかったと思います」(同前)
「マナーが悪いというより、“慣れ”の問題」
Go Toトラベルの利用客によるバッドマナーについては、財団法人宿泊施設活性化機構(JALF)の事務局長を務める伊藤泰斗氏も同意見だ。
伊藤氏は「国から補助で費用としては安くなっている一方で、客層が変わり下がり、マナーが悪くなったという一面はある」と分析しつつ、“マナー”という尺度が千差万別だとして、線引きの難しさも口にしている。
「たとえば民泊では、帰るときに、使った食器を洗うルールになっている施設が多いんですが、洗わないのは圧倒的に日本人なんです。中国人を含め、外国人はほぼ洗っていきます。
でも、これらはマナーが悪いのではなく、“慣れ”の問題じゃないかと私は思っていて。日本人は、サービスにタダでアクセスできるのが当たり前だと思っているだけなんです。各々が常識だと思っていることに対して、どこから非常識かと決めるのは難しいんですよ」
宿泊現場で多くの問題を生み、Go Toトラベルならぬ、“Go Toトラブル”化を引き起こしていた当時の日本人観光客。
一方、その後の入国規制緩和や円安の影響などで激増した訪日外国人のマナーの実態はどうなのか。それについて、前出の髙部氏は「外国人も例外ではない」と語る。
「ドライヤーや電気ケトルなど、備品を片っ端から持って帰るというのが、一時期はありましたね。ただ日本人と違うのは、国に帰ってしまうと捕まえられなくて……。
でも、最近ではツアー会社も強く注意喚起してくれているので、少しずつ減ってきました。盗難が発覚したときもツアー会社の方に言って、持って帰った観光客に『あなたでしょ? 返して』と取り返してもらっています。
あとは、インバウンドの方々だと、大声で騒いだり、部屋を汚したりする客が多いですね。日本人の方はそんなに汚さないんですけど、海外の方は部屋で食い散らかしたり……。
壁なんかを汚されると、大変なことになっちゃいます。ガラが悪いというか、日本人にはないマナーの悪さっていうのはありますね」
深刻な人材不足に陥るホテル業界。「いくら募集かけても全然人が集まらない」
しかしこの点に関しては、かつて日本人も辿ってきた道であり、髙部氏は「次第に解決するのでは」とも指摘する。
「日本がバブル景気だったころ、日本人は海外でお金を使うけど、現地ではあんまりいい顔をされない、といったことがありました。“時代は繰り返す”じゃないですが、今は日本がそれを受ける立場になっているのかなと。
たとえば、当時は「JALパック」で海外ツアーに出かけたおじさんやおばさんが、“JAL”と書かれたバッグを抱えながら飛行機に乗り、機内ではおじさんがステテコ一丁になっていた、ということもありました。
今、マナーが悪いと指摘されている東南アジアの方々も、“旅慣れ”してくれば、やがて収まってくると思います。昔の日本然り、国民の所得が増えて海外旅行に行けるようになった国だと、やっぱりこうしたことが起きるのだろうなと」
また、昨今の宿泊業界といえば、特に都心部のビジネスホテルではインバウンド需要を背景としたホテル代の値上がりが深刻な問題となっている。これにより、ビジネスパーソンが出張経費をオーバーしてしまう、といったことも起きているようだ。
髙部氏は、このインバウンドと値上げのダブル効果によって「ホテル業界の業績は、おかげさまで東京はすごくいいです。立地によっては、従来の3倍の値段になっているホテルもあります」と語る一方で、この好調を掻き消すほどの大きな危機に瀕していると話す。
「今、ホテル業界は人手不足が深刻なんですよ。もう、いくら募集かけたって全然人が集まらないという状態です」
髙部氏によると、ホテル業界は値上げや業績好調を受け、賃上げという形で従業員に還元しているという。では、なぜ人手が足りないのか。実は「103万円の壁」とも呼ばれる扶養控除が大きなハードルになっているのだという。
「人がいないから働いてほしいと相談しても、『これ以上働くと扶養控除から外れちゃう』って言われてしまうんですよ。でも、ホテルは365日24時間営業がありますから……。
あと、コロナ禍のとき、お客様が全然いないからってリストラに踏み切ったという背景もあって。あとから『お客さんが戻ってきたから雇ってあげるよ』と言っても、『クビにしたとこなんか誰が行くか』という世界にもなっちゃっているんですよね。
清掃スタッフなんかは、ベトナム人やネパール人など、そういった海外の人材を頼りにしているところも多いです」
売上だけでなく、人材までをも外国人に頼っている、現在の日本のホテル業界。もはや、さまざまな側面から外国人なしにはやっていけない状態のようだ。
取材・文/集英社オンラインニュース班
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