「息子は継母の虐待が原因でPTSDになったんです」“首相官邸襲撃男”の父が語った臼田容疑者のいじめ、家出、宗教団体“2世信者の恋人”との別れ
集英社オンライン / 2024年10月22日 19時10分
〈〈部屋の中の写真アリ〉首相官邸を襲撃した“こども部屋おじさん”臼田容疑者の父親が重大証言「5年以上前から灯油のポリタンクが届くようになった」〉から続く
自民党本部に火炎瓶を投げ込み、大量のガソリンを積んだ車で首相官邸に突っ込んでいった臼田敦伸(あつのぶ)容疑者(49)。友人関係を断ち、一度は心を許した同居する父親ともほとんど会話をしないまま、5年以上前から今回の犯行の準備を始めていた可能性が浮上した。なぜ自分を社会から孤立させていったのか。父親の話から、手がかりになりそうな軌跡が見えてきた。
〈画像あり〉机に残された3つのモニターと“味ポン”、六法全書…臼田容疑者の部屋のなか
「継母から虐待を受けていた」「同級生から無視された」
「実は息子は、継母に虐待されていたんです。その記憶が大人になってからもよみがえり、苦しんでいました。私も悪かったんです」
そう話すのは臼田容疑者と暮らしていた父の歯科医師、臼田篤伸(とくのぶ)さん(79)だ。
「私は2回離婚してます。息子(臼田容疑者)が2歳の時に、0歳の弟もいたのですが、最初の妻と別れました。弟の方は最初の妻が引き取りました。
離婚直後、『子どもには母親が必要だ』との親戚の助言を受け、結婚紹介所で知り合った女性と結婚しました。この後妻が、息子より4歳年上の連れ子の娘と一緒になって息子をいじめていたんです。
それを当時私は全く知りませんでした。後妻が息子に『お父さんに言ったら承知しないよ』と厳しく口止めしていたようです」
虐待の被害は臼田容疑者が35歳のころ、篤伸さんが後妻と離婚した後に告白したのだという。
「虐待は言葉によるものが多かったようです。優しい言葉をかけず、バカと言ったり、『親父がどうしようもない』とか。暴力も振るわれていたと息子は言いました。跡が残らないように叩かれていたようです」
篤伸さんの歯科医院は自宅から離れた場所にあり、当時多数の患者がやってきて多忙を極めていた篤伸さんは家庭内で起きていたことを察知できなかったと振り返る。
それでも地元の小学校を卒業した時、臼田容疑者は明るく元気な子だったという。中学、高校は埼玉県内の私立の男子校に進学。中学3年間は皆勤だった。
「この中学時代に同級生からもいじめられていたようです。暴力を振るわれることはなかったようですが、無視されていたようです。この話も、息子が大人になってから、かなり後で聞きました」
高校を出た臼田容疑者は川崎市の運送会社の寮で暮らすようになる。8年勤めている間、正月も家に帰ることはなく、「家出」に近いものだったという。
「女性とは付き合いたくない」「結婚はしない」
父子の関係の転機になったのは篤伸さんの2度目の離婚だった。
「2番目の妻は、弁護士の指示を受けて家の中で隠れて録音をして私の言動を記録し、離婚訴訟を起こしました。多額の金をとられて離婚することになったのですが、ちょうどその時期に息子と後妻が家で鉢合わせし、激しく言い争うことがありました。息子も過去のことがありましたから」
離婚が成立し後妻が家を出ると、入れ替わって臼田容疑者が家に帰って来たという。
「息子は後妻とは一緒に暮らせなかったから、私が後妻と別れたことは、父親が自分を選んでくれたのだと思って安心したのだと思います。戻ってきて、食事を作ってくれるなど、親子の関係は穏やかでした」
この時期、臼田容疑者は死刑反対の市民運動に参加し、2010年には2人の死刑が執行されたことに抗議したNGOなどのアピールに名を連ねている。
東日本大震災での東京電力福島第1発電所事故後には反原発運動に加わり、「50日間ぶっ通しデモ」を組織するなど活動の先頭に立っていた。福島の事故を受け国内の原発がすべて止まった後、2012年に関西電力大飯原発3、4号機が最初に再稼働した際には、これに反対し現地のテントで抗議行動を行っている。こうした市民運動に身を置き、仲間は多くいたとみられる。
「息子は大飯原発の再稼働反対で、現地で抗議行動をするグループの年上の女性と付き合うようになったんです。女性は(埼玉県川口市の)私と息子の家で同居するまでになり、私は結婚も勧めました。息子は『まだだ』と言っていましたが、女性はその気もあるようでした」
ところが2012年に大飯原発が再稼働し反対運動が実を結ばなくなった時期に前後し、臼田容疑者は女性との交際を終える。
女性が両親ともにある宗教団体の信者で、女性自身も2世信者だったことを知って嫌悪感を抱いたのが原因だったとみられるという。
二人の結婚を望んでいた篤伸さんは関西に暮らす女性を訪ねてヨリを戻すよう頼んだりもしたが、臼田容疑者の気持ちが頑なだった。
「再稼働した後、息子は反原発の活動から手を引き、仲間との関係を絶ったほかに、『女性とは付き合いたくない。結婚はしない』と言っていました」
「うるさいなって言っちゃったんです」
それでも臼田容疑者がこのように思うことを伝えていたのは、父との関係が良好だったからだ。だが震災から数年後、二人の関係が大きく揺らぐ。
「2人で私の実家の長野へ行く機会がありました。向かう道中の列車の中で、隣に座った息子がいろいろ話しかけてきて、私がわずらわしいから『うるさいな』って言っちゃったんです。そうしたら息子は態度が急に変わり、次の駅で降りて家に帰ってしまいました。
その日から彼の様子は変わりました。私のうっかりした一言が引き金になり、彼はPTSD(心的外傷ストレス障害)になったんだと思います。昔のこと、継母から虐待された記憶が一気に戻ってきて、涙が止まらなくなったり…。診断は受けていないですが、あれはPTSDです。もうちょっと丁寧に接してやればよかったと後悔しています」
篤伸さんは臼田容疑者に謝り、臼田容疑者の変調が続いたり進んだりすることはなかったという。だが、この日を境に二人の間のコミュニケーションはがらりと変わったようだ。
篤伸さんは取材中「(息子に)強く言って家庭内暴力になったら怖いしね。息子を怒らせないようにするというのが私のやり方ですから」と口にし、息子の機嫌を損ねないよう様子をうかがいながら声をかけてきたことをうかがわせた。
幼少期の臼田容疑者が後妻の虐待を受けていることに気づいてやれなかった上に、それから40年ほど後になって不用意な言葉で虐待の記憶を呼び覚まさせてしまったとの深い悔恨を篤伸さんは抱いているようだった。
そしてその気持ちから、臼田容疑者に「一切口出ししない」状態が始まった。数年後、家には今回の事件でガソリンを入れるのに使われたポリタンクや火炎瓶の材料が集まり始めたのだった。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
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