ジェーン・スー、桜林直子の快適論「シーツを変える頻度が違う人とはベッドを分ける」「毛玉のついたタイツは処分した方がいい」
集英社オンライン / 2024年11月2日 11時0分
シーツやタオル、下着などの消耗品を替える頻度は人それぞれに基準があり、正解はない。一緒に生活する人とその頻度が違った場合、どのように調整するのが一番いいのだろうか?
コラムニスト・ジェーン・スーとエッセイスト桜林直子の対談をまとめた書籍『過去の握力 未来の浮力』より一部抜粋・再構成し、人それぞれの快適さについて考察する。
シーツ理論と私の快適
桜林直子(以下、サク) 「これ気になっちゃうのは、わたしが細かすぎるのかな」って思うような出来事がこの間あったのよ。
ジェーン・スー(以下、スー) シーツを何日で替えるかは人による、みたいな話かな。物理的というより生理的にイヤっていう。
サク そうかも。感覚としてはうっすら「何かイヤだなー」と思っていて、見に行かずにそのままにしてたけど、やっぱり気になってしまって、最終的にはちゃんと見に行って折り合いをつけたんだよね。
スー つまり、シーツ替えた?
サク ベッドを分けた。
スー おーなるほど。シーツを変える頻度が違う人とはベッドを分ける、だ。
サク 平和的解決ができてよかったよ。それぞれの大事なものをそれぞれ大事にしましょうって。
スー 大切なもののバリューを人と戦わせても不毛だから、各々大事なものを大事にする方向に行くのが一番。どのくらいの頻度でシーツを替えるのが気持ちいいのか悪いのか、自分でちゃんとわかっておく方がいいけど。
サク 自分にとっての快適は大事にした方がいいよね。
スー 快適とは安心、安全、受容だと思っていますよ。
大量の黒タイツが
サク 快適じゃないことを人のせいにするのもよくないし、「これって快適ですか」って人に聞いても仕方ない。当然だけど自分の快適さは自分にしかわからないから。人に聞くようになると、身の周りにあるものが誰かに促されたり、おすすめされたりしたものばかりになって、どれひとつ自分の意思で選んだ気がしない。
選んでいるつもりが好きなものではないっていう状態になっちゃう。わたしの好きなもの、わたしの快適って何だっけってわからなくなっちゃうのよ。
スー 仕事、パートナー、住居から服まで、自分を構成する要素を書き出してみて、自分が好きで選んでいるものとそうでないものを分けてみるといいね。「私らしさ」とか「私らしく」をしつこく因数分解していくと、快適とセットになっているはず。「私らしさ」「私らしく」が不快とセットになってるなら、それこそ大至急設定を変えないと。
サク 快適さと並んで「自分を大切にする」っていうのもよく言われているよね。なんだかふんわりしている言葉だけど、わたしはその前に自分を蔑(ないがし)ろにしてないかとか、いわゆるセルフネグレクトしてないかをチェックしてみるのがいいと思う。歯が痛いのに歯医者に行かない。とかをしていないか、とかね。
スー サクちゃんが昔、「自分を大切にするというのは古いタオルを使うのをやめることだ」と言ってたけど、本当にそうだと思う。暴飲暴食しないとか、健康に気を遣うとか、いま風の言葉で言うならウェルビーイング、自分に対してきちんとすることだよね。
サク タオルの話をすると、「まだ使えるからもったいない」とかそういう話も出てきて、お金も関わることだから話すのが難しいんだけどね。
スー うちには使えるけどいらないものがいっぱいあって。セルフネグレクト的な観点から考えると、新しいものに変えた方が良くない? と思いながらも、まだ使えるからなーって判断を先送りしちゃう。
サク うちは引っ越しのたびにいろんなものを処分してきたけど。部屋が広くて置けちゃうと捨てる理由がなかったりするかもね。
スー とは言え、何となくどんよりするわけ。断捨離したいわけじゃないけど、この間ドレッサーの一番上を開けたら大量の黒タイツが出てきた。絶対にこんなにいらないのに! 毛玉がついているものも、何かの下ならはいてOKと思っちゃうと処分できない。
サク タイツって買い足すとどれが新しいものかわからなくなったりするしね。
昨日まで顔を拭いてたタオルで
スー 大切に着ることは大事だけど、丁寧に着るということと、決断を先送りにして判断しないことは別物なんだよね。ネグレクト全般って、決断を先送りして直視しないことだと思う。それで凌(しの)げることもあるけど。
ちゃんとした方が気持ちはいい。半年に1回は下着を全部捨てて入れ替えるという友達がいて、その人はすごくちゃんとしてる。
サク わたしはタオルでそれをやってるよ。毎日使ってると古くなっていることに気づかないから、あるとき突然総とっかえするの。捨てる前にそれで家中掃除してね。昨日まで顔を拭いてたタオルで換気扇を拭くという背徳感よ。
スー 床を拭いたら捨てればいいのに、私はそれを洗って溜めちゃう。だからうちには人に見せられない雑巾の山がある。
サク 捨てればいいものをとっておきがちというスーさんの意外な傾向が見えてきたね。
スー 大豪邸に住んだら何も捨てなくなるかもしれない。とにかくうちはものが多い。
サク 部屋は本人に似るというけど、そうなのかな。
スー 部屋を綺麗にすると気持ちがいいのは間違いない。見ないことにして判断を先送りにしている問題が部屋で顕在化する。
サク 自分が弱るとまず部屋が荒れるじゃない。体より先に部屋が荒れるよね。
スー そうそう。私は定期的に人を招くことで回避してる。見栄があるから。人と関わることで人はちゃんとするんですよ。
サク あー、いいね。人の目、大事。
スー 他者を介在させることで人はちゃんとする。そんなことで私の真価なんてわからないよっていうのもおっしゃる通りだけど、そんなところでジャッジされたくないならちゃんとした方がいい。となると、毛玉のついたタイツは処分した方がいいね。
〈ジェーン・スーの人生観「自分が粗末に扱われたと受け取る人には、自尊心が削られてきた過去がある」無意識下の思い込みが与える影響〉へ続く
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