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「僕たちテレビは自ら死んでいくのか」相次ぐ大物テレビマンの独立だけではないテレビ局を巣食う「組織の論理」の息苦しさ

集英社オンライン / 2024年11月12日 11時0分

ダウンタウン松本人志の笑いは本当に許されないほど悪質な「いじめの笑い」だったのか?〉から続く

ここ数年、地上波テレビ以外の映像コンテンツの可能性が大きく広がっている。一部の有名なテレビマンが独立する動きが加速しているが、テレビ局内ではいったい何が起きているのだろうか。

【画像】2人の優秀なテレビマンが退職したテレビ局

『松本人志とお笑いとテレビ』(中央公論新社)より一部抜粋・再構成してお届けする。

テレビ局を飛び出すテレビマンの増加

右肩下がりの苦境に置かれている昨今のテレビ業界では、テレビ局を離れて独立する人が目立っている。

もともとテレビ局の社員が退社や転職をすること自体は珍しいことではなかったのだが、近年は誰もが知るような人気番組を手がける現役のテレビマンが、続々と独立を果たして話題になっている。これは今までにはなかった現象である。



たとえば、2021年3月には『ゴッドタン』などを手がける佐久間宣行が、2022年6月には『ハイパーハードボイルドグルメリポート』などを手がける上出遼平が、それぞれテレビ東京を退社した。

2022年12月には『あざとくて何が悪いの?』『あいつ今何してる?』などを手がける芦田太郎がテレビ朝日を退社して、Amazon Studiosに転職した。同じく2022年12月には『有吉の壁』『有吉ゼミ』などを手がける橋本和明が日本テレビを退社した。

さらに、2023年2月には『家、ついて行ってイイですか?』などを手がける高橋弘樹がテレビ東京を離れて独立した。

彼らはいずれも退社時点で30~40代であり、制作現場の第一線にいる現役のテレビマンだった。当然ながら仕事に見合うだけの十分な収入は得ていただろう。多くの視聴者に愛される人気番組を制作してきたテレビマンであれば、会社側の期待も大きいだろうし、それなりの待遇も約束されていたはずだ。なぜそんな職場を捨てて、独立の道を選ぶ人が相次いでいるのだろうか。

もちろん個々人によって事情は異なるが、彼らの多くが語るのは「現場にずっと携わっていたいから」ということだ。

ディレクターとして番組を作ってきた人は、その仕事に愛着があり、長く続けていきたいと考えている。しかし、テレビ局という組織の中でキャリアを重ねると、管理職に就くことを求められたり、部署を異動することになったりする。その結果、現場に携わることができなくなってしまう。

現場にずっと残りたいのであれば、フリーのプロデューサーやディレクターとして外部から番組作りにかかわっていくしかない。そう考えて独立の道を選択するテレビマンはこれまでにも存在していた。

しかし、最近の相次ぐ大物テレビマンの独立の動きを見ていると、単にこれだけが理由ではないような気がする。

「僕たちテレビは自ら死んでいくのか」

第一に考えられるのは、ここ数年で地上波テレビ以外の映像コンテンツの可能性が大きく広がったことだ。

一昔前までは、地上波のバラエティ番組のようなエンタメ系の映像コンテンツというものが、テレビ以外の場所にはほとんど存在していなかった。しかし、現在では数々の映像配信サービスやウェブメディアがあり、そこでエンタメ系の映像コンテンツが大量に作られ、配信されている。その制作費も地上波テレビに見劣りしないものだったりする。そこに可能性を感じて、地上波テレビ以外の映像制作の道を選ぶ人は多い。

また、あまり表立って語られることはないが、彼らがテレビ局の将来性に不安を感じたり、古い考え方についていけないと見切りをつけたりしている、という事情もありそうだ。その典型的な例であると思われるのが、テレビ東京を退社した上出遼平と高橋弘樹である。

上出は、テレビ東京在籍中に講談社の文芸誌『群像』2021年4月号で「僕たちテレビは自ら死んでいくのか」と題した文章を発表した。そこでは、彼がテレビ東京で音声コンテンツの制作を行った際に、社長の判断でそれがお蔵入りになってしまった、という件について書かれていた。

上出は、きちんとした理由の説明や議論の余地もないまま、何カ月も判断を保留された挙げ句、一方的にお蔵入りを告げられたことに不満を感じていた。そこで、事の顛末と自身の主張をまとめた告発文を『群像』に寄稿することにした。しかも、テレビ東京の事前チェックを入れず、個人的な判断だけでそれを公開していた。

当然、この行為は局内でも問題視されたに違いない。その後、程なくして彼はテレビ東京を退社して、ニューヨークへと飛び立っていった。現在では映像制作や執筆業などを行っている。

また、高橋弘樹は、退社する前に「日経テレ東大学」というYouTubeプロジェクトに携わっていた。

日経テレ東大学は、テレビ東京のグループ会社である日本経済新聞社の新事業として2021年に始まった。ビジネスや経済にまつわるニュースや情報を楽しく学べるというのがコンセプトだった。経済学者の成田悠輔、2ちゃんねる創設者のひろゆき(西村博之)などを起用して、ビジネスパーソンを中心に幅広い層からの支持を集め、チャンネル登録者数は100万人を超える人気コンテンツに成長していた。

巨大メディアに巣食う「組織の論理」の息苦しさ

だが、テレビ東京は「日経との契約満了」を理由に、2023年3月にこのチャンネルの更新を突然終了してしまった。5月31日にはアーカイブもすべて削除された。同年2月末には高橋もテレビ東京を退社している。

テレビ東京と日本経済新聞社がこの人気プロジェクトを打ち切った理由は明らかにされていない。これに不満を感じた高橋はテレビ東京を辞めてしまった。

その後、独立した高橋は新たにビジネス系YouTubeチャンネル『ReHacQ-リハック-』を立ち上げた。現在ではこちらもチャンネル登録者数104万人を超える人気チャンネルに成長した。

この2つのケースを見ると、テレビ局という巨大メディアの「組織の論理」の息苦しさに耐えられなくなった気鋭のクリエイターたちが、沈む船から逃げるネズミのように自由を求めて立ち去っていく姿がうかがえる。

テレビ局を離れたテレビマンの中には、引き続き地上波の番組作りに携わる人もいるが、ウェブメディアなどの新しい媒体でコンテンツ制作を行っている人も多い。

実際、YouTubeにもテレビ制作者がどんどん参入している。芸能人のYouTubeチャンネルでは、テレビ制作の経験があるディレクターや作家が制作に携わっているケースが多いし、それ以外でも元テレビマンがYouTubeで成功を収めているケースはたくさんある。

エンタメ系の映像コンテンツの世界でテレビ局がいまだに大きな影響力を持っていることに変わりはない。しかし、そこで映像制作のノウハウを身につけたテレビマンが、ほかの分野に進出する事例は相次いでいる。今後はそこから新しいコンテンツが生まれ、文化が育っていくのだろう。

人気番組や話題作を多数生み出している優秀なテレビマンが、続々とテレビ業界に見切りをつけているというのは、テレビの衰退を改めて浮き彫りにする事実であると言える。

ラリー遠田
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。専攻は哲学。テレビ番組制作会社勤務を経て、フリーライターに。在野のお笑い評論家として、テレビやお笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。著書に、『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)他。

松本人志とお笑いとテレビ

ラリー遠田
松本人志とお笑いとテレビ
2024/10/8
924円(税込)
208ページ
ISBN: 978-4121508201
松本人志は、なぜ30年近くにわたってトップに立ち続けていたのか。そして「ポスト松本」時代のお笑いとテレビは、どう変わるのか。

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