「高齢者の買収では?」自民・公明がまた給付金バラマキ公約。選挙のたび繰り返すやり口に現役世代が激怒
集英社オンライン / 2024年10月26日 11時0分
選挙のたびに給付金のバラマキを約束する与党。給付の主な対象となる「住民税非課税世帯」は、高齢者が全体の75%を占める。SNSでは「高齢者票の実質的な買収行為では」と現役世代の不満が爆発。“現役世代に冷たい”自公が苦境におちいる一方、“手取りを増やす”と明確な現役世代支援を打ち出した国民民主は躍進の予想。続いてきた世代間の不公平は選挙でどう評価されるのか。
【画像でチェック】選挙のたびに繰り返されてきたバラマキの歴史
与党による高齢者票の買収⁉ SNSで批判が爆発
10月27日投開票の衆議院選挙にむけた政策議論が過熱している。情勢調査では、「手取りを増やす」と現役世代向けの政策を掲げた国民民主は躍進の予想。その一方で自民党・公明党の苦戦が伝わってくる。
巻き返しを図る公明党の石井啓一代表は17日、「1世帯10万円が目安」として衆院選公約に盛り込んだ低所得者世帯向けの物価高対策給付金をアピール。
自民党もまた、低所得者への給付金支給を公約に掲げた。
低所得者と定める範囲は未定としているが、従来の政策から住民税非課税世帯が一つの基準となる。
住民税非課税世帯とは単身世帯の場合、一般的には年間の収入100万円以下が対象だが、65歳以上の年金受給者となると年金分が控除され収入155万円以下へと基準が緩和される。
仕事をリタイアした高齢者世帯が年金収入と貯金の取り崩しで生活していれば、貯蓄がどれだけあっても住民税はかからない。
こうした背景から住民税非課税世帯全体の75%は高齢者世帯であり、年齢でみると65歳以上の38%、75歳以上となればおよそ半数となる49%が「1世帯10万円」給付の対象となる見込みだ(1)。
長く政権をあずかる与党が選挙期間中に給付案を提示し支持を訴えるのは、その実現可能性の高さから野党が同じことをするのとは意味合いが違ってくる。法的には問題はないとしても、節操のない立ち回りと批判されるのは当然だ。
こういった自民党・公明党のやり方に、SNSや動画サイトでは現役世代の不満が爆発。
「また高齢者優遇の施策にうんざり」「これは税金を使った、高齢者票の買収ではないか」といった声があふれた。
事実、ここ数回の選挙では、実質の高齢者に向けての給付金が“大盤振る舞い”されてきた。
働き納税する私たち現役世代の中にマグマのようにたまった不満を黙殺し、なりふり構わず旧態依然とした票田へのバラマキに走る自民党と公明党。その思惑通りに物事は運ばれていくのだろうか。
現役世代の声を無視する、“冷たい”政権与党
かつての安倍政権の時代には、現役世代向けの政策を自民党、高齢者向けの政策を公明党という役割分担で幅広い支持を集めていた。
しかし岸田政権以降は支持率のかげりに焦ったか、人口が多く、投票率も高い団塊世代を中心とした高齢者偏重が明確となってきた。
ここにきて「戦後昭和世代が考えるリベラル」を掲げてきた石破氏が首相となり、「高齢者の味方」を自任する公明党と完全に“客層”が一致。
こうして現役世代は蚊帳の外となった。
現役世代の後押しをうけた国民民主党や維新の会が「医療費3割負担の対象拡大」「終末期医療の在り方の検討」など社会保障制度の公的支出そのものの削減による見直しを求めるも、石破自民と公明党は「高齢者に冷たい政治は許してはならない」と社会保険適用拡大など国民負担増で歩調をあわせる。
この与党の態度は裏を返せば「社会保障の負担が重すぎるという声は聞き入れない、現役世代に対して冷たい自民党・公明党」というメッセージを国民に送っていることになる。
国民民主・維新があくまで社会保障財政を健全化させるための需給バランスの見直しを訴えているのに対し、それを真っ向から否定するのが与党の方針であれば、世代間の不満や対立はいっそう深刻化する。
事実それらの反発が国民民主の躍進につながっているのは確実だ。
テレビだけではわからない、SNSや動画サイトにおける現役世代を中心とした世論の醸成と投票行動への影響は、今年7月の都知事選における“石丸旋風”を思い起こさせる。
強い風に与党の屋台骨がゆれ動く中、その対抗策として公明党が掲げた高齢者をターゲットとした給付金バラマキ政策は、令和に入ってから多用されてきた「必勝の方程式」だ。
選挙前に繰り返されるバラマキの歴史。その必要性は?
発端は2019年10月の消費税増税と同時期に始まった「年金生活者支援給付金」で、同年7月の参院選にて公明党は住民税非課税の年金受給者970万人に対し月5000円の恒久的な増額を政策に掲げて戦った。
その財源年間1800億円には増税された消費税の一部があてがわれたが、社会保障費の不足と財政健全化のため増税した消費税の使途として果たして適切だったのだろうか。
2021年10月の衆院選では前年の新型コロナ問題に関連した特別定額給付金10万円に味をしめたのか、公明党は住民税非課税世帯に対する給付金を公約に掲げ、同年12月には臨時特別給付金10万円を実現。
2022年7月の参院選では物価高対策として住民税非課税世帯の年金受給者が対象となる年金生活者支援給付金のさらなる拡充を公明党の公約とし、拡充まではできなかったものの、同年9月には住民税非課税世帯を対象とした5万円支給を実現。
2023年4月には統一地方選・衆参補欠選挙があったが、公明党の提言によってその前後となる3月と5月に合計10万円となる住民税非課税世帯に対する物価高対策給付を行なった。
公明党はこれらと同時に所得制限のある子育て給付金なども提言・実行してきたが、私たちが支払う税を使った支持集めという構造は変わらない。
また住民税非課税世帯の中で子育て世帯の数は、貯蓄のある仕事を引退した高齢者世帯よりもずっと少ない(1)。
そもそも消費税増税や物価高の影響は全世代共通の問題だ。
住民税非課税世帯の枠組みでは貯蓄は参照されず年金も控除されるため必然的に高齢者世帯が多くなるが、より小さなくくりとして貯蓄がほとんどない者を対象とした生活保護や生活困窮者支援制度もある。
取り崩せる貯蓄がなく本当の意味で給付金を必要とするのはそれらの世帯のはずだ。そして65歳以上の高齢者世帯のうち住民税非課税世帯は38%だが、その中で生活保護世帯はわずか5%である(2,3)。
貯蓄に関しても中央値を下回る年収400万円以下の世帯は、高齢者世帯全体のうち1/3にあたる33.5%でしかない(3)。全金融資産のうち63.5%は60歳以上が保有しており、手厚い高齢者福祉を背景として本来取り崩されて市場経済へ還流すべき貯蓄が流動性を失っている(4)。
その副作用として社会保障費の主な支払い側である50歳未満の若い働き手たちの資産形成は、失われた30年のあいだで非常に難しいものとなった。経済的な余力がなければ自家用車やマイホームの購入のみならず、結婚や子育てもあきらめていくしかない。
さまざまな枠組みが選択肢としてあるなか、必然的に高齢者世帯が多くなる住民税非課税世帯という対象を選び、選挙の前後にばかり給付金をバラまく与党の姿は、働き納税する私たち現役世代の目にどう映るだろうか。
その答えを、投票用紙に書かなければならない。
文/中田智之 サムネイル写真/Shutterstock
<参考文献>
(1)令和5年国民生活基礎調査 表131 – 厚生労働省
(2)生活保護の被保護者調査(令和4年度確定値) - 厚生労働省
(3)2022年度国民生活基礎調査(概況) – 厚生労働省
(4)令和6年版高齢社会白書 - 内閣府
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