投票したい政治家も政党も見当たらない…かつてないほど冷めた国政選挙に「白票」で政治への“不満”を示せるのか
集英社オンライン / 2024年10月26日 7時0分
国民の民意を置いてきぼりにして突如はじまった感の否めない、第50回衆議院選挙。投票したい政党や政治家がいない有権者はどのように意思表示すればいいのか。SNS上で突如、注目を集めた「白票の意義」も踏まえて解説する。
【写真】知事選で21万票もの白票が投じられ、「現職への不信任票」と指摘された神奈川県知事
かつてないほど冷めた国政選挙
10月27日に投開票を迎える衆議院選挙。しかし、冷めた目で見ている有権者も多いだろう。正直に告白すると、国会質疑を長年取り上げてきた筆者ですら今回の衆議院選挙はかつてないほど冷めた目で見ており、なかなか関心が高まらない。
そもそも石破茂総理は自民党総裁選中には早期解散に慎重姿勢を示していたはずが、総裁の座に就くや態度を豹変させて解散総選挙を強行。
しかも、「日本創生解散」と名付けたキャッチコピーが意味不明すぎて、なんの大義もない身勝手な解散であることを逆に印象付けた。
突然の方針転換の結果、新内閣発足(10月1日)から投開票(10月27日)までわずか1ヶ月以内という超強行日程。
当然ながら各自治体では投票所入場整理券の発送作業が間に合わず、投開票数日前になっても届かなかった有権者も多いだろう。現に投開票5日前(10月22日)現在、筆者のもとにもまだ届いていない。
このままでは、投票所入場整理券が届いた段階ではじめて選挙を意識するような、日常生活をおくることで精一杯の有権者や、期日前投票でしか投票できない有権者は「気づいたら選挙は終わっていた」という事態になりかねない。(*ただし、手ぶらで投票所へ行っても本人確認さえできれば投票は可能。投票所入場整理券が届かないからといって投票を諦める必要がないことは強く注意しておく)
ただでさえ無党派層が多い日本でこれだけの悪条件が重なれば、「そもそも支持している政党や政治家がいるわけでもないし、もう誰にも投票したくない!」という考えに至る有権者が出てきても致し方ない。
そして、このような事態の中でSNSを中心に広まりつつあるのが、「白票で現状の政治に対する不満を意思表示できる」という言説だ。この言説は、主に以下3点の流れで構成されている。
(1)白票は、「立候補している政治家を支持していない」というメッセージになる
(2)したがって、白票が増えれば当選した政治家に対して、有権者からの不支持も集まっているというプレッシャーを与えられる
(3)結果、その政治家は次の選挙で確実に勝つために自らの言動を改める
しかし、これは都合のいい妄想と指摘せざるをえない。
まず、白票は無効票に分類されるため選挙制度上はなんの意味も持たない。
無効票の数は開票で明らかになるが、衆議院選挙の小選挙区のようにトップ1名が当選する仕組みの場合、政治家が落選するのは(比例復活の可能性を除外すれば)対立候補の得票が自らを上回ったときのみ。したがって、対立候補の票が増えない白票は政治家にとってなんの脅威にもならないのだ。
白票を投じる意味はあるのか
白票の有効性を示す事例としてたびたび挙げられる、神奈川県知事選挙(2023年4月投開票)を例に、具体的に考えてみよう。
現職・黒岩祐治氏は、新型コロナをインフルエンザ扱いしたことを始め、その政策によって県民の不満が高まっていたうえに、選挙期間中に過去の不倫スキャンダルも発覚。
多くの県民が落選を望んだものの、残念ながら有力な対立候補は皆無。結果、黒岩祐治氏は危なげなく再選をはたした。
そんな中、白票を含む無効票が前回の2.93%(8万8964票)から一気に6.91%(21万2482票)へ上昇。増加した12万票超は現職に対する不信任票ではないかと指摘された。
しかし、これが本当に黒岩祐治氏個人に対する不信任を意味するかは、白票を投じた一人一人に意図を聞かない限り分からない。
だが、当然ながら無記名投票という性質上、そのような検証は不可能。そう。結局のところ、白票が増えたからといって、政治家にとっては対立候補との票数が縮まる脅威には遠くおよばないのだ。
現に白票が増えた県知事選を経てから1年半が経過したが、神奈川県民である筆者から見て黒岩祐治氏の県民軽視の政策が改まったと感じたことは一切ない。
成功例に挙げられるほど多くの白票が集まった選挙ですら、成果を挙げられなかったのだから、「政治家への不満を示したい有権者」にとって白票はなんの意味も持たないことは明白だ。
一方で、「ある特定の層」にとって、白票は確かに意味を持つ。
白票(=無効票)が増えれば、必然的に有効票が減る。有効票が減れば、すでに一定の知名度を有している現職や、宗教・組合などの組織票に支えられている政治家が当選しやすくなる。この条件に合致するのは、与党(自民・公明)議員のほうが割合的に多いといえるだろう。
その意味で、つまり白票には「現政権や政治家への不満を示す」とは真逆の効果があるともいえる。本人は政治家への不満を示すために白票を投じたつもりでも、実際は自公政権の現状維持をアシストしてしまうかもしれないのだ。
ここ数年で特に顕著になっている円安・物価高・増税によって、ごく一部の富裕層を除いて生活が非常に苦しくなっている国民は多いだろう。飲食店を筆頭に、たとえ人気店であってもバタバタと廃業していく街の風景を見ると、もはや恐怖すら感じるのではないか。
こうした現状に不満があるならば、白票ではその不満は示せない。鼻をつまんででも誰か(現状に不満があるならば必然的に野党)に投票しなければ、現状はなにも変わらない。
文/犬飼淳
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