薄氷勝利の萩生田氏、追加公認については「(自民党の)マニフェストもまだ見てないのでわかりません」と石破政権に恨み節…比例復活の有田氏は「これで終わりじゃない」
集英社オンライン / 2024年10月28日 11時43分
〈2000万円“ステルス公認”が自民にトドメ…萩生田氏は「お金はありがた迷惑」党内からは「与党過半数割れ確実」の声も〉から続く
裏金を理由に石破茂首相ら自民党現執行部が党公認を与えなかった萩生田光一元政調会長は、衆院選東京24区(八王子市)の戦いを制して生き残り、石破執行部への反撃の狼煙を上げる構えだ。一方、僅差で敗れた立憲民主党の有田芳生氏も比例で復活当選。安倍氏の正統派後継者・萩生田氏と、安倍政治を終焉させようと訴える有田氏との戦いは国会に持ち込まれる。
〈画像〉安倍元総理の遺影と生前映像、松井一郎、高市早苗、安倍昭恵…写真で振り返る東京24区
当選の裏に党執行部への怒り「なぜこんな仕打ちを受けるのか」
10月27日深夜、民放一社と新聞一紙が萩生田氏は当選確実だと報じたことが伝わると、萩生田氏の事務所に詰めていた100人を超える選対幹部や有力支持者らは「うわー!」「やったー!」と喜びを爆発させた。
正面に安倍氏の遺影が掛けられた事務所の壁には、小池百合子・東京都知事をはじめとする「祈 必勝」と書いた70枚超のポスター大の為書きと、各種団体による250枚超の推薦状がびっしりと貼られている。
八王子市長のほかに自民党の都議や市議、地元経済団体トップらが大挙して事務所に詰めかけた光景は、強固な組織選挙が展開されたことを感じさせる。
それでも、壁の一角には「本当に厳しい戦いです お電話、ライン等で 必ず『はぎうだ光一を頼む』とお伝えください」との貼り紙もあり、切迫した電話作戦が行われたこともうかがわせた。
午後8時をすぎ、テレビで自公連立与党が大敗するとの見通しに続き、東京7区の丸川珠代元五輪相や東京11区の下村博文元文部科学相、福井2区の高木毅元国対委員長など、裏金が原因で比例重複立候補が許されなかったり党公認を受けられなかったりした前職の落選が次々とテレビで報じられ、事務所には重い空気が漂った。
だが石破首相がインタビューで「非常に厳しいご審判を頂いている」と凍り付いた表情で話している場面が出たときは、雑談のざわつきが止まらなかった。
「石破首相らは、萩生田さんが政治倫理審査会に出てこなかったことを挙げて非公認にした。だけど、派閥の出納責任者をしていないのだから政倫審に出る必要はない、と萩生田さんに言ったのは当時の党執行部だ。それに従っただけなのに、なぜこんな仕打ちを受けるのか」
選対幹部はそう話し、石破執行部への怒りを隠そうとしない。選対にはこうした空気がみなぎっており、石破氏の苦境は自分がまいた種だと冷たく突き放しているようだ。
「『後継者は萩生田光一です』安倍さんは言った」
選挙戦終盤の10月23日には共産党機関紙「しんぶん赤旗」が、非公認候補にも政党助成金から一人2000万円が支部に給付されていたと報道。
裏金の追及を前面に出した有田氏の追い上げに苦しんでいた萩生田陣営は、いっそう逆風が強まると緊張した。
翌24日に萩生田陣営は、支給自体を知らなかったし選挙費用にも使っていないと萩生田氏が自ら弁明する動画を公開。
その中で萩生田氏は「これまで私は執行部への批判を控え、目の前の選挙に専念をしてまいりました。しかし率直に申し上げて、選挙直前の非公認の基準、そして今回の政党交付金の交付に関する執行部の対応、首をかしげざるを得ません」と執行部批判を公然と始めた。
萩生田氏側は石破執行部による裏金議員の選挙での不利な取り扱いを、選挙で追い落として旧安倍派を完全に解体する狙いだと見ている模様で、これに対抗して旧安倍派の“復興”もちらつかせている。
選挙最終日、萩生田氏のマイク納めに同行した保守派の大物、櫻井よしこ氏はこう話した。
「私は安倍さんに聞いたことがあります。『後継者、お心に決めている人いますか?』。そしたら安倍さんは、間髪を容れず、一瞬の間も置かず言ったんです。『ピカイチは萩生田光一です』と」
安倍政治を継承するリーダーとして石破執行部や野党に対抗していく――。選挙戦最終盤に萩生田氏は、そうしたイメージを前面に押し出して支持層の結集を図り、裏金や2000万円問題での逆風を乗り切ったと言える。
当確が出た後、日付が変わるころに支持者の前に現れた萩生田氏は、まったく笑みを浮かべず「多くの同志が議席を失ってます。もともとの原因は我々がひいたこともあったわけでありますから、そういう意味ではそういった同士の皆さんの思いも背負ってしっかりと頑張らないといけない。その責任を痛切に感じているところであります」と、自民党が惨敗した現実を強調した。
直後に記者団から「自民党から追加公認の話があればどう対応するのか」と聞かれると、「党のマニフェストもまだ見てませんから、どういう公約で戦ったのかも、大変申し訳ないんですけど現時点で私分かりませんので、党幹部の皆さんとよく相談しながら方向は決めたいと思います」と答え、自分は党執行部とは別々に選挙を戦ったのだと念を押した。
さらに、自民党が大きく議席を減らす見通しになったことを「時の執行部の判断で決めたことだと思いますから、みなさんで考えていただくことだと思います」と述べて、敗北の責任を取ることを党執行部に求める考えを示唆。
旧安倍派に攻勢をかけてきた石破氏が、選挙で与党過半数割れという大失態を演じたことを機に逆襲する気配を見せている。
「萩生田光一さんを倒せば安倍政治の終わりになる」
一方、終盤に追い上げ萩生田氏に並んだとの見方もあった有田氏の事務所は、小選挙区での敗北で沈んだ空気に包まれた。
だが、萩生田氏の当確報道から約2時間後の28日未明、比例代表で復活当選したと伝えられ、事務所は再び活気に包まれた。
参議院議員を2期12年間務めた経験がある有田氏は、立憲民主党が2012年に下野して以降最大の勢力を占める国会に衆議院議員として戻ることになる。
「今回選挙戦を歩いて、子どもたちやシングルマザーの貧困がものすごく広がっていることを実感しました。これまで取り組んできた包括的差別禁止法の制定や沖縄問題、北朝鮮の拉致問題に加え、格差・貧困の問題を、八王子を足場に新たなテーマとして取り組んでいきます」と有田氏は決意を語った。
一方、選挙戦で有田氏は「アベノミクスによって生活は苦しくなり、差別と貧困は広がり、安保法制で緊張も高まりました。萩生田光一さんは安倍さんの一番の側近。つまり、ここで萩生田光一さんを倒せば安倍政治の終わりになるんだと、私は思って今ここに立っている」と訴えてきた。
「2000万円が支給されていたとの報道が出た後、有権者の反応はがらっと変わりました。『(萩生田氏を)絶対叩き落してください』って、叫ぶように言う人がいっぱいいました。萩生田さんが当選したからといって、こうした問題が消えるわけじゃない」
そう話す有田氏は「これから国会で、こうした戦いを続けていかないといけない」とも話した。
短期決戦の選挙の末に勢力地図が大きく塗り替わった国会では、与野党の綱引きと自民党内部での権力闘争が同時に激化する見通しで、政治は先の見通せない流動期に入っていきそうだ。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
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