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「浮気は魂の殺人であるということは痛感した」再婚した東出昌大が抱える不完全さと圧倒的な嘘のなさ

集英社オンライン / 2024年11月3日 11時5分

再婚した東出昌大(36)の素顔が知りたい。大きな挫折を味わった彼には生きるヒントが詰まっているはずだ。「躊躇せず、なんでも聞く」ことをモットーに東出が暮らす山小屋へと向かった。真剣な質問をぶつけた先に見えた東出昌大の素顔とは。(全3回の3回目)

【画像】久しぶりの山への帰還に「1本もらってもいいですか?」とやめたタバコを燻らす東出

「これから先、自分がどんなに幸せになったとしても…」

東出は底抜けに明るい顔をしたかと思うと、ふとした瞬間に底なしの淵をのぞいているかのような表情を浮かべることがあった。

そんな暗い目に出くわすたびに、メディアに親切なのは単なる防衛手段の一つであり、実際は、そんなに人を信用していないのではないかとも思えた。むしろ、そうならない方が不思議である。



スキャンダル直後、東出はまさに沼の底にいた。

「自分がどれだけのことをしたのかわからないとと思って、いっぱいエゴサして、ヤフコメとかも見るようにしていました。自分の欠陥は何なのかばっかり考えていましたね」

自宅に届いた消印なしの便せんには、達筆な字で〈万死に値する〉と書かれていた。差し出し人はそれをわざわざ自分の家まで直接持ってきたのだ。見ず知らずの人から尋常ではない怨念を向けられていることに寒気を覚えた。

犯罪組織の人間、あるいは犯罪者の心と、自分の感情を重ね合わせたこともある。

「オウム事件のあと、上祐史浩さんが贖罪の気持ちを抱えながら、どうやって生きてきたのかとか考えたし、永山則夫死刑囚はどういう生い立ちで、どんな思いで『木橋』(獄中で書いた小説)を書いたんだろうみたいなことも読みながら考えてましたね」

最近も、こんなことがあった。東出が語る。

「一昨日、警察から電話があったんです。5ちゃんねるに東出の山小屋を確実に放火してやるというスレッドが立ったらしくて。だから、気をつけてくださいって。マジ? って。知り合いの弁護士とも話をして、(身元の)開示請求をしますかって言われたけど、それは断りました。中学生とかが、遊びのつもりでやってるだけかもしれないですし」

それが東出の日常なのだ。

脅迫スレッドの話をした後、東出はある冗談を口にし、高らかに笑った。

「冗談にしないと……。それくらいの冗談、言ってもいいんじゃない?」

いいと思う。

今も取り返しのつかないことをしてしまったという思いは消えていない。

「浮気は魂の殺人であるということは痛感したので。これから先、自分がどんなに幸せになったとしても、その思いは自分の底に澱のように沈んだままだと思います」

取材に臨むにあたり、われわれは東出に取り込まれないようにしようということと、もう一つ決めていたことがある。

なんでも聞いてやろう——。

立ち入った質問、不躾な質問、下世話な質問も含め、できる限り本人にぶつけた。一般論として「浮気は本当に悪だと思うか?」とも聞いた。

公共交通機関で帽子もサングラスもマスクも着けない

さすがにこの領域には入ってきて欲しくないんだなと思えたり、かわされたなと思うこともあったが、東出は基本的に嫌な顔をせずに応じてくれた。

ただ、何度となく「これは書けないけど」という類いの前置きがくっついてきた。

「これ、本当に書けないやつなんですけど」
「これも書けないですけど」
「使えない話になりますけど」

東出は「書かないで欲しい」という直接的な言い方はせず、あくまで最終的な判断は相手に委ねる言い方をした。訳すと「書けないですよね?」であり、「書かないですよね?」だった。

正味の話を聞きながら愚かな男だなと思ったし、同じ男としてかっこいいなと憧れを抱いた部分もある。そこの線引きは人それぞれだろう。しかし、どうであれ、ここまで嫌われなければならない人物には到底、思えなかった。たとえ見抜けなかった裏の顔があったとしても、である。そんなものは誰にだってある。

中には、世間の誤解を解くためにも隠さずにはっきりと伝えたがほうがいいのではないかと思えるエピソードもあった。だが、東出は言う。

「いやいや、いらんす。がんばってるじゃんって、思われたくないんで。メディアを使って、言うことでもないし。うん、うん。世捨て人って思われようが、だらしないやつって思われようが、何でもいいんです。近しい人はわかってくれているので。いや、わかってもらいたいも、あんまりないかな。自分の中で納得できていればいいと思っているんで」

彼はこれまで報道されたスキャンダルについては内容の真偽に関係なく、一切弁明をしないと決めているようだった。

彼が語った言葉の中には小さな嘘も交ざっていたかもしれない。しかし、概ね、本当のことなのだろうなと思えた。そう信じられるのは、東出は普段、公共交通機関を利用するときに帽子もサングラスもマスクも着けないからだ。

東出は何でもないことのように話す。

「僕の顔なんて見てないですよ、みんな。スマホばっかり見てるので」

1年ほど前、都内でインタビューをしたときもそうだった。東出はなんの「変装グッズ」も装着せず、地下鉄の改札口のほうへ颯爽と去っていった。あまりにも堂々とた後ろ姿を眺めながら、芸能人のもっとも効果的な「変装」はこれではいないかと思えたものだ。

東出の最近の格好を見ていて、ずっと気になっていたことがある。左腕にはめられた安物の黒いデジタル腕時計だ。通称「チープカシオ」と呼ばれる2000円程度の腕時計である。

「お金を稼ぎたいみたいな感情が薄れてきたのは30代になってから」

東出はかつてA.ランゲ&ゾーネという高級ブランドの腕時計をしていた時代もあった。高価なモデルになると1000万円近くする価格のものもあるドイツ製の機械式腕時計だ。

「事務所の社長にプレゼントされたときは、すごく嬉しかった。でも、今の僕の生活には合わないんで。若い頃はいいスーツを着て、街を歩きたいと思っていたこともあるんです。マルジェラとか、ヨウジヤマモトとか、ドルガバとか。

でも、それで生きている実感を得られたとか、すごく人生が楽しかったということもなかった。むしろ、物質に頼って生きている自分が気持ち悪かったんです。今の生活のほうがしっくりきますね。功名心とか、お金を稼ぎたいみたいな感情が薄れてきたのは30代になってからかな。
最近は市井の人のすごさみたいなのもわかってきました。こんな山の中にもすごい人っていっぱいいるんですよ。若いと、そういうのに気づかないじゃないですか」

結局、東出のインタビューは3時間近くにも及んだ。名残惜しさを滲ませつつ礼を述べると、こんな言葉をかけてくれた。

「今度はキャンプ場に2、3泊してください。そうしたら漁師飯を用意できるので。今、スッポン釣りをやっているんです。スッポン鍋も、めっちゃうまいので」

なんと魅惑的な誘いだろう。リップサービスだろうと思いつつ、いや、まんざらそればかりではないのではないかとも思った。うかがいますと即答しかけたが、ひとまず自重した。

だが、私が名残惜しかったのは東出のジビエ料理を堪能できなかったからではない。

東出という人間は不完全で、矛盾に満ちていた。そして、それを本人も嫌というほどわかっているからこそ、できる限り自分で自分の穴を埋め、少しでも人に幸福を分け与えられる人間であろうとしていた。

そう、われわれと同じである。なのに嫌われる。なぜか。2つ目の謎の答えは見つかりそうになかった。

われわれが男と女という永遠のテーマについて語り合っているとき、東出は唐突にこう叫んだ。

「瀬戸内寂聴、呼んできて! でも、寂聴さんもその答えを見つけられずにお亡くなりになってんだもんな」

この日、いちばんの名言だった。私はこの話の続きをもう少しだけしたかった。

#1「東出はなぜメディア嫌いにならないのか」から読む

取材・文/中村計 撮影/石垣星児

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