「ワタミ×サブウェイ」は“健康志向”でファストフード業界を脅かす存在に⁉︎ 異例の大型買収を決断したワタミの狙い
集英社オンライン / 2024年10月30日 7時0分
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ワタミが、日本サブウェイの持分すべてを取得して10月25日に子会社化した。介護や宅食事業への参入を目的としてM&Aを行うことはあったが、屋台骨となる外食においては自前での事業立ち上げにこだわってきたからこそ、今回の大型M&Aは極めて異例だ。それだけに、この買収はワタミにとって大きな意味を持ち、外食事業の起爆剤となる可能性も秘めている。
居酒屋の売上は2019年の6~7割
サブウェイの取得でファストフード事業に乗り出すと報じられているが、ワタミはすでにこの分野に参入していた。
そのなかのひとつ、韓国風フライドチキン専門店の「bb.qオリーブチキンカフェ」は、オリーブオイルを配合した特製のフライオイルでチキンを揚げるという隠れた人気店である。2018年に1号店をオープンしたが、現在の店舗数は19と多くない。
他にも「TGIフライデーズ」ではハンバーガーを扱っており、メキシコ風アメリカ料理レストランの「TEXMEX FACTORY」で提供するタコスはファストフードに近い。
コロナ禍では「から揚げの天才」というテイクアウト業態をも全国に展開していた。
つまり、ワタミは早くからファストフードや日常食業態に進出していたが、規模を拡大しきることができなかったのだ。
M&A巧者である電機メーカー・ニデックの永守重信代表取締役グローバルグループ代表(取締役会議長)は「M&Aは時間を買う」と表現したが、ワタミのサブウェイ買収はこれに倣い、ファストフードという領域で迅速かつ確実に規模拡大を成し遂げる狙いが浮かび上がる。
そんな中、ワタミは業績を伸ばす足掛かりが必要だったのだ。
ワタミの国内外食事業は2024年3月期に黒字転換を果たした。営業利益率は4.1%で、コロナ前の2019年3月期と比較して1.7ポイント上がっており、2024年4-6月も営業利益率は4.6%と好調だ。
しかし、2024年6月末時点の店舗数は322であり、3月末の328から減少している。
これはコロナをきっかけとして不採算店を整理し、筋肉質な組織に仕上がったからに他ならない。
そこから反転攻勢に出て勢力を拡大したいところだが、そう順調にいかないのは需要が回復していないからだ。
日本フードサービス協会によると、2023年の居酒屋の売上高は2019年比で4割減の62.2%だった(「データからみる外食産業」)。
2024年9月の居酒屋の売上高は前年同月比で104.1%。つまり、居酒屋の市場は2019年の6~7割の水準で止まってしまっている。
需要が完全回復していない以上、ワタミが得意とする居酒屋を出店するわけにはいかない。
コロナ禍で焼肉店「焼肉の和民」を開発したが、繁華街や駅前のビルを中心に出店したため、リピーターとして欠かすことのできないファミリー層の取り込みが十分にできていないようだ。
これは多くの店を既存の居酒屋から焼肉店に業態転換したことが影響している。従って、焼肉店も結局は居酒屋的な使われ方をしているということだ。
2024年3月期のワタミの国内外食事業の売上高は320億4600万円で、この数字は2019年3月期の3割減というものだ。
市場のバランスと絶妙に釣りあっているが、ここから大量出店に出ようものなら、再び不採算店を作ることになりかねないというわけだ。
サントリー傘下では500店舗近くまで拡大したが…
一方、ファストフード市場は絶好調だ。
2023年の洋風ファストフードの売上高は2019年比で136.3%。2024年9月は前年同月比で104.1%だった。値上げによる客単価の上昇で、市場はまだ伸びている。
日本でのサブウェイの誕生は1991年、サントリーが米国SUBWAY本部とマスターフランチャイズ契約を結び、日本法人を設立した。
2014年には480店舗まで増加したがその後、過剰出店でサービス力が低下したことを背景として縮小に転じ、サントリーは2018年に事業から撤退している。
ファストフード市場が拡大する今は、出店攻勢に出るチャンスだ。コロナ禍による大量の退店でワタミが余剰人員を抱えているとすれば、サービス力を維持したままサブウェイを増店する余地は十分にあるだろう。
サブウェイの現在の店舗数は178だが、渡辺美樹会長兼社長は10年後に430店以上、長期的には3000店まで拡大すると意気込む。
居酒屋に強いワタミとサンドイッチのサブウェイで、ちぐはぐな印象を受けるかもしれない。しかし、2社の方向性は合致している。
そのわけは、“健康志向”というサブウェイを紐解くキーワードにある。
アメリカでは野菜をふんだんに使った健康的な店であるという認知を得ており、マクドナルドなどと違い、油を使わないことも背景にある。日本においては、2019年から店頭での糖質表示を開始した。
そして、ワタミは2021年、陸前高田市に有機農業テーマパーク「陸前高田ワタミオーガニックランド」をオープンしている。
そこでは自家製農産物を使った料理やドリンクの提供、風力や太陽光などの再生エネルギー事業も展開しており、循環型社会への取り組みも強化している。健康や持続可能な社会実現への意識が高い人との相性がいいのだ。
サブウェイがフランチャイズを主体としている点も注目に値する。
ワタミは長らく直営店での運営にこだわっていたが、2019年11月に発表した中期経営計画においてフランチャイズ展開による業績拡大を強調。
この戦略は「から揚げの天才」で花開くが、一部で大量閉店が報じられるなど苦戦しているようだ。
中期経営計画では、2023年3月期から2025年3月期にかけてフランチャイズが外食事業の成長をけん引する存在になり、それ以降で更に加速させるとしていた。サブウェイの買収はこの青写真にぴたりと当てはまる。
注文が煩雑という弱点をデジタルで解消
サブウェイの最大の弱点と言えるのが、オーダーの複雑さだ。
ベースとなるサンドイッチ、パンの種類、トッピング、野菜とアクセント野菜、ドレッシングソースをそれぞれ選ぶという煩雑なもの。初めての利用者は戸惑うことが多い。
「おすすめでお願いします」と注文すればいいのだが、それすらわからない人もいるだろう。
しかし、サブウェイはこの弱点をすでに克服している。
それが「ダイニー for サブウェイ」だ。商品をスマートフォンで事前に注文し、決済することができるというもの。スタートアップの株式会社diniiと共同で開発し、2019年6月にテスト導入した。
オーダーしやすくなることで顧客の2度目の利用率が上がれば、認知度を高めるためのプロモーションに力を入れやすくなる。サブウェイはその下地がちょうど整っていたのだ。
もし、「から揚げの天才」のFCオーナーとなった人が廃業を検討しているのであれば、サブウェイに鞍替えする提案もできるはずだ。
「から揚げの天才」は省スペースで店を開けることをセールスポイントとしており、10坪で出店できるモデルも開発していた。大型の調理器具が必要ないサブウェイは、15坪から出店できる。フードコートであれば10坪でも可能である。
こうして見ると、ワタミがサブウェイを取得できたのは絶好のタイミングだ。ファストフード業界を脅かす存在となるかもしれない。
取材・文/不破聡 サムネイル/Shutterstock
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