〈温泉百名山〉下山後の温泉は格別! 初心者も安心、この秋おすすめの登山&日帰り温泉コース31選
集英社オンライン / 2024年11月2日 12時0分
温泉達人の飯出敏夫が名湯のある名山を100座選定した『温泉百名山』(2022年10月刊)。大好評を博し、その第2弾『日帰りで登れる 温泉百名山』が刊行された。登山初級者・年配者向けに「日帰りで登れる山」が選定されたが、いったいどんなところか。また、この秋におすすめのコースは? 今年、めでたく喜寿を迎えた著者に話を聞いた。
【画像多数】初心者でも日帰りできる絶景の登山と、圧巻の温泉たち
まずは山ありき、次に温泉施設
――『温泉百名山』刊行後の反響はいかがでしたか?
びっくりするくらいの反響でしたね。出版社も驚いたんじゃないですか。そんなに期待してなかったはずですから(笑)。
反響を呼んだ理由としては、まず政府がコロナ禍の外出抑制から経済活動優先に舵を切ったタイミングで、マスメディアもようやくこの手の書籍を取り上げてもいいかなという風潮に乗ったからでしょうね。ラジオから始まり、新聞、雑誌が次々と取り上げてくれました。
特にラジオではNHK第1の「石丸謙二郎の山カフェ」出演、新聞では朝日新聞の「著者に会いたい」のインタビュー記事の反響が大きかったですね。
そのうち読者から、もっとハードルの低い初級者や年配者向きの温泉百名山を紹介して、という声が数多く寄せられました。
確かに、前作では山小屋に泊まらなければ行けない山と温泉も多く、一般の読者には追体験が困難なコースが少なくありませんでした。そうした声のおかげで、続編の『日帰りで登れる 温泉百名山』へと繋がりました。
――今回選定された山と温泉はどんなところでしょうか。
一言でいえば「登山口から日帰りで登れる眺望のいい山」、そして山のあるふるさとを持つ人が、ふるさとを遠く離れてまっさきに思い浮かべるであろう「ふるさとの山」の情景。そうした山を中心に選びました。
麓からいつも仰ぎ見ていた山ということになりますから、標高1300m未満の低山も多く含まれることになりました。
それと、要望の多かった、途中までゴンドラリフトやロープウェイで行ける山も多く取り上げました。
山頂までロープウェイで登れる山は物見遊山になりますから外しましたが、終点駅から山頂まで1~2時間で登れる山は、まさにテーマとした登山口から日帰りで登れる、初級者や年配者向けのうってつけの山ですから。
北海道では大雪山の旭岳と黒岳、東北では八甲田の赤倉岳、黒倉山、森吉山、月山、蔵王山、安達太良山(あだたらやま)、関東では大岳山と筑波山もこれに含んでもいいかも。
甲信越では木曽駒ヶ岳、八方尾根、白馬乗鞍岳、北陸・近畿・東海では奥大日岳と立山、西穂高岳独標。中国・四国・九州では三瓶山、石鎚山があります。
温泉は、前作では「品格」「歴史」「個性」にこだわった名湯を選びましたが、今回はそれにはこだわらず、下山して気軽に汗を流せる温泉施設であればいいということにして、立ち寄り湯を受け付けている温泉旅館に加えて、近年開設された日帰り温泉施設も入れました。
その意味では、選定段階ではまず山ありき、次にその山の麓や登山口近くに温泉施設があるか、という選び方になりましたね。
適期は3月下旬から6月半ば、9月下旬から11月下旬
――登山初級者・年配者に、登山する上でとくに気をつけてほしいことはなんでしょうか?
登山口から日帰りで登れる山ばかりを選定しましたから、まず好天の日を選んで登ってほしいですね。
低山(概ね標高1200m台以下の山)が中心ですから、真夏の登山は暑すぎて著しく体力を消耗するし、登山自体が快適とは言えません。
登山の適期は山にもよりますが、概ね3月下旬から6月半ば、9月下旬から11月下旬とした方がいいと思います。ただし、雪が降らないか、降っても少ない山であれば、その限りではありません。むしろ、大気が澄む晩秋から初冬は、枯れ葉を踏んでの陽だまりハイキングが楽しめます。
登山を始めるという人は、少なくとも登山靴と雨具だけはよい物を揃えてください。また、最初のうちは登山経験者と一緒に登るようにして経験を積むのがいいですね。年配者の方も一緒に登ってくれる年少の経験者がいると安心です。
また登山コースにはコースタイムという一般的な所要時間が目安としてありますが、それに惑わされることはありません。私はコースタイムの1.5倍、ときには2倍も時間をかけて登ります。ゆっくりとマイペースで登れば、見落としそうな草花や昆虫、野鳥なども見ることができます。
「ゆっくりでも登っていれば、きっと山頂に立てる」、それが『温泉百名山』と続編『日帰りで登れる 温泉百名山』の選定登山を通して得た、私の今更ながらの教訓でした。コースタイムを超えるスピードで、ひたすら山頂を目指していた若い頃の登山とは明らかに質が異なります。これが初級者や年配者が山に親しむ極意ではないでしょうか。
――今回は2年間で登られたわけですが、かなりきつかったのでは?
はい、2年間といっても、2023年は4月にスタートして12月初旬まで。冬期の積雪期は登りませんから、2024年は3月30日が最初の登山。6月上旬でようやく完結しましたが、登山できたのは正味約1年間でしたし、範囲も北海道から九州までですから、スケジュールは過酷でしたね。
2023年には悪天候のためやむなく登り返した山を含めると92座、2024年は13座登りましたが、登頂はしたものの諸条件で掲載を断念せざるを得なかった山が9座も出てしまったのにはまいりました。
2024年5月で喜寿(満77歳)を迎えましたから、さすがに、体力は落ちました。なんとか気力を奮い立たせて、ようやく完結できたというのが正直な感慨です。
その意味では、最後に掲載を断念した阿蘇の根子岳の補充に、喜寿を迎えてから登った九州・九重山の大船山(6月3日)と平治岳(同5日)は、折からミヤマキリシマが満開ということもあって、強く印象に残る山となりました。
この秋におすすめのコースは?
――では、新刊『日帰りで登れる 温泉百名山』の中から、この秋におすすめのコースを教えてください。
先に挙げた中腹までロープウェイやゴンドラリフト、登山リフトを利用できる山になりますかね。北海道はもう降雪があり、初冬に入っているので、11月以降の登山はあまりおすすめできませんね。
本州の山も10月半ば以降はいつ雪が降ってもおかしくないですから、天候チェックが一番のポイントになります。好天の日を最優先の条件としてください(※以下、山名のあとのカッコ内は組み合わせた温泉になります)。
おすすめのコースとしては東北では八甲田山の赤倉岳(酸ヶ湯温泉)、森吉山(打当温泉)、蔵王山(蔵王温泉)、安達太良山(奥岳温泉)、登山口から比較的容易に登れる一切経山(高湯温泉)あたり。
11月半ば頃まで紅葉が楽しめる関東では、至仏山(寄居山温泉)、榛名山(榛名湖温泉)、浅間隠山(相間川温泉)、大岳山(つるつる温泉)、筑波山(筑波山温泉)、明神ヶ岳(宮城野温泉)。
甲信越では大菩薩嶺(大菩薩の湯)、茅ヶ岳(クララの湯)、千頭星山(韮崎旭温泉)。それぞれ富士山と周囲の山々を眺望するのに絶好でしょう。ほかでは東篭の塔山(高峰温泉)、木曽駒ヶ岳(早太郎温泉)、八方尾根(白馬八方温泉)、大渚山(小谷温泉)、五頭山(出湯温泉)あたり。
北陸・近畿・東海では、立山は冬支度が必須になります。その他の山は初冬まで安心して楽しめるコースばかりです。鳳来寺山(湯谷温泉)、御在所岳(湯の山温泉)、特にススキの名所の曽爾高原が登山口の倶留尊山(曽爾高原温泉)、霧氷が美しい高見山(たかすみ温泉)を推奨しておきます。
中国・四国・九州の山々も秋の登山は絶好の山ばかりです。中国地方では蒜山(蒜山ラドン温泉)、船通山(斐乃上温泉)、三瓶山(三瓶温泉)。四国は石鎚山(石鎚山温泉)。九州は九重山の三俣山(星生温泉)と大船山(法華院温泉)、霧島連峰の白鳥山(白鳥温泉)と韓国岳(霧島温泉郷)が特におすすめの山と言えるでしょう。
――最後に美しい日本の山や温泉について、いま思うことを教えてください。
山は素晴らしいです。麓から、あの山頂に立てばどんな景色が広がっているのだろうかと想像するとワクワクします。また、たとえ山頂に立てなくても、中腹の新緑のブナ林や苔むした針葉樹の森を逍遥するだけでも、身体中に生気が吹き込まれるのを感じます。
そして、下山後のご褒美は温泉です。麓の温泉に浸かりながら、その日の登山の余韻に身を委ねると、「生きていてよかった!」と至福のひとときを実感できると思います。
ただし、その温泉も後継者不足などで廃業に追い込まれている温泉宿も目立つようになり、また地球温暖化の影響があるのか、湯量減少や泉温低下などの深刻な現象も起きています。この日本の貴重な資源である温泉を、国を挙げて守っていく施策が必要と思います。
山や登山道は、いま荒廃しているところが目立ちます。私が『温泉百名山』の選定登山をしていた時期、南東北や北関東の山河は福島の原発事故による放射能汚染の影響を受け、山菜や茸、鹿や猪などが食せない状況下にありました。なんてことをしてくれたんだ、と悲憤の念を禁じ得ませんでした。
山の荒廃には林業の衰退で森林の手入れがなされていない現状があり、また荒れた登山道の整備は山小屋のスタッフや地元山岳会有志のボランティアなどの献身的努力によって支えられているのが実情です。それはあまりにも自然の保全・保護に対する予算が貧弱だからです。
一方で、受益者負担の観点からも、登山者は入山料を応分に負担して登山道の整備等への支援を検討する時期にあるのではないでしょうか。
この日本の美しい山河と貴重な温泉資源を守ることは、まさに「国土を守る」こと。国の「国土を守る」方針は防衛費の膨張増額にあるようですが、そのほんの一部でも日本の唯一無二の美しい自然環境を守る、すなわち「国土守る」ことに回すべきではないか。それは、自らの足でこの美しい日本の山河を歩いてみて、あらためて気づいた私の実感です。
取材・文/集英社インターナショナル
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