アメリカのZ世代の投票がトランプ復活阻止の鍵? 日本より選挙資金の透明性がないアメリカの若者にとっての大統領選挙
集英社オンライン / 2024年11月6日 11時0分
〈〈米大統領選〉アメリカのキャンパスで起きているトランプ氏を支持する保守派と、リベラルな政治団体の深刻な対立〉から続く
アメリカ大統領選は最後の最後までどちらに転ぶかわからない大激戦になることが予想されているが、その鍵は1997年以降に生まれたアメリカのZ世代たちが握っているかもしれない。
書籍『引き裂かれるアメリカ トランプをめぐるZ世代の闘争』より一部を抜粋、再構成し分断するアメリカの最新事情を明らかにする。
Z世代のために
トランプ政権下で設立された団体の1つが、「明日の有権者たち」を名乗る「Voters of Tomorrow」という団体だ。団体のウェブサイトによると、メキシコからの移民の高校生が若者の政治参加を促そうと、2019年に、Z世代のための、Z世代による団体として発足させた。
2022年に行われた中間選挙にあわせて、若者たちによる政治サミットという会議を開催し、その後、のべ人数で800万人以上の若者の有権者に電話、ショートメッセージ、対面で接触したという。現在は20州に支部があり、ボランティアは全米50州すべてにいるという。
カリフォルニア州支部の2人の大学生がインタビューに応じてくれた。インタビューを行ったのは、大統領選挙の年が始まったばかりの2024年1月。筆者が前年の夏まで勤務していたNHKのロサンゼルス支局に来てもらった。
インタビューの場所に街中のコーヒーショップではなく、職場を選んだのは、2人とも女子学生である上、会うのは初めてなので、安心して来てもらいたいという考えからだった。
支部を取り仕切る2人は、UCバークレー=カリフォルニア大学バークレー校で文学を専攻するジアン・トランさんと、UCLA=カリフォルニア大学ロサンゼルス校でヒューマンバイオロジーと経済・経営を専攻するアーシ・ジャワーさん。
共に大学1年生の18歳だ。トランさんはベトナム系で、ジャワーさんはインド系だ。
インタビューでは、活動に関わる動機から話してもらった。トランプ大統領の登場に危機感を抱いたというトランさんはこう語る。
「私はベトナム系の家庭で育ちました。両親は共に難民としてアメリカに来たのです。私にとって大きかったのは、2016年の大統領選挙です。トランプ氏が大統領に選ばれました。私はまだ中学生でした。しかし、私は、特に極右の人たちが大騒ぎしているのを見て、これは明らかに正しくないと思いました。
白人至上主義とヘイトのメッセージの流入が起きていました。私は自分に『よし、しっかりと足を地につけて動き始めよう』と言い聞かせました。私は活動に参加し、私のような若い世代の人々を動かすことに情熱を注いでいます」
一方のジャワーさんは、同じ頃にアメリカが抱えるさまざまな社会問題への関心を強めていったという。
「私の両親はインドから移民として来ました。私たち子供に明るい未来を生きてほしいという思いからです。しかし、私は、自分が成長する中で、多くの差別的なことが見えるようになりました。そして、私は銃による犯罪、心の健康、体の健康という問題に関心を持つようになりました。
私は医者になりたいと思っていたのですが、交通事故に遭ってしまいました。大変な治療を経験し、この国の健康保険システムは、あまりにもお役所仕事的で、人々は困難に直面し、多額の支払いを求められ、さらに医療サービスは遅いということに苦しんでいるとわかったのです」
Z世代のための、Z世代による活動
次に支部の活動内容について説明してもらった。支部は州内の大学生や高校生で構成され、メンバーは70人ほどだという。
支部の中は、チームに分かれている。コミュニケーションチームはソーシャルメディアでの発信を担当し、新聞への寄稿なども行う。政治チームは、選挙の候補者の中から推薦する人物を選び、その候補者の選挙運動に参加する。
電話や携帯電話のショートメッセージで陣営への寄付を求めたり、戸別訪問で支持を呼びかけたり、候補者の名前が書かれた看板を掲示したり、活動内容はさまざまだ。実働部隊として動いてくれるのだから、陣営としてはありがたい存在だろう。
一方、政策チームは、若い世代にとって必要な政策を考え、それを実現するための法案まで書くという。例えば、彼らは若い世代の投票率を高めたいという問題意識を持っているので、高校での授業に主権者教育を取り入れることを実現する法案などを起草しているそうだ。
そして、彼女たちが強調していたのが、取り組みは若い世代のためであり、活動しているのも若い世代という点だった。
彼らが取り上げるテーマは、銃規制、医療・健康、ホームレスの人々の増加などを招いている家賃高騰、気候変動、持続可能な社会の実現など多岐にわたる。
ジャワーさんは、「若い世代は、さまざまな社会問題の中で育ってきました。その度合いは上の世代よりも深いのです」と、Z世代のニーズに焦点を当てることの重要性を強調する。
そして、自分たちはプログレッシブだという。プログレッシブの定義を聞いてみると、トランさんは、「保守派は伝統主義に根差しています。これに対して、プログレッシブは、物事を前に進めて、良い方向に変えたいという意味です。そして、それは特にZ世代の考えを反映していると言えるのです」と説明してくれた。
アメリカは保守化、右傾化が最も進んでいる
彼女たちがZ世代という言葉を強調するので、団体としては、具体的にどの年齢層をターゲットにしているのかを聞いたら、基本的には1997年生まれ以降とのことだった。団体は、特定の政党を支持しない、いわゆるノンパーティザンであるが、自分たちが求める政策の実現可能性などを考えて選挙で推薦する候補者を決める際には、結果として、民主党の候補者が多いという。
アメリカの若者たちの中には、彼女たちが熱く語るようにプログレッシブであることを求める若者も多いが、保守派の若者たちの活動も目立っている。若い世代での分断について、2人はどう認識しているのだろうか。ジャワーさんは、こう切り出した。
「アメリカは、他の民主主義の先進国と比べて、保守化、右傾化が最も進んでいると思います。アメリカでは、よりリベラルとされている政治家であっても、アメリカ以外の国に行けば、保守というカテゴリーの中に含まれるかもしれません」
かつての保守は、中道寄りから、今でいうところの極右までウイングが広かったものの、現在の共和党を見てみると、中道寄りではすぐに大統領候補になりえる政治家は存在せず、まるでトランプ前大統領を支持する極右のための政党のようになっていて、かつてよりも重心が右に動いたという認識だ。
ジャワーさんは、支部の活動を行う中で遭遇したある出来事を話してくれた。カリフォルニア州の州都サクラメントで、仲間と一緒に銃規制強化の活動をしていたところ、右派の人たちと偶然出くわしたという。
彼らは、自分たちと言葉を交わそうとはせず、一方的に活動を妨害してくるような感じだったそうだ。プログレッシブであることは、別に保守を否定することではないし、両者の対話は可能だと常々考えているジャワーさんにとっては、ショックな出来事だった。
彼らは常に投票に行く
保守派の拡大に強い懸念を持っていることは理解できたが、それに対抗するための戦略はどう考えているのだろうか。ジャワーさんからの回答は明快なものだった。
「彼らは、小さなポケットの中のような狭いところで生きています。しかし、全米で大きな影響力を持っています。なぜなら、彼らは常に投票に行くからです。そして、トランプ氏のような人を支えているのです。
彼らがアメリカという国を代表しているわけではありません。単に他のグループの人たちよりも投票に行くというだけです。ですから、私たちのゴールは、極右の運動を支持しない人々に動いてもらうことなのです。ある意味、昔ながらの手法です」
また、トランさんは、「ターニング・ポイント・USA」のような保守派団体の活動が目立つのは、メディアには視聴者や読者が興味を持ちそうなことから取り上げる傾向があることも理由の1つであり、それでは彼らの思うつぼだと考えている。そして、トランさんも、筆者と同様に、巨額の資金がどこに、どう流れているのかに関心を持っていた。
「結局のところ、アメリカでは悲しいことに、選挙資金の透明性がないのです。いわば政治屋のような人たちが、特にロビー団体とどういうことで合意しているのかがまったく見えないのです。連邦レベルでも、それ以外のレベルでも、腐敗をなくし、透明性を確保することが、違った考えを持つグループ同士の歩み寄りを促すことにつながるかもしれないと考えています」
トランさんは、2024年の大統領選挙でトランプ氏が返り咲く可能性があると考えている。それは、「トランプ氏は、白人の不満を武器にする能力がとても高い」と見ているからだ。
一方で、楽観できる材料もあると考えている。それは2022年の中間選挙の結果だ。当初は共和党の圧勝、いわゆる「レッド・ウェーブ」が予測されていたが、共和党の勝利はそれほどではなく、トランさんは、Z世代が投票に行って、波を食い止めたからだと受け止めている。
予定していた1時間はあっという間に過ぎた。支局があるビルの駐車場には、トランさんの父親が、カリフォルニア州でも人気のテスラの電気自動車で2人を迎えに来ていた。
年齢は筆者とあまり変わらないようだ。彼女たちの活動は、2人の情熱が原動力なのはもちろんだろうが、きっと親も懸命に応援していて、それも支えになっているのだろう。車が駐車場から出ていく様子を見ながら、そんなことを考えた。
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