オーディション番組『タイプロ』異例の大ヒット、ジャニーズ時代の前例打破で起きた独自現象とは オーディション番組というより、「『timelesz』メンバー3人の〝ドキュメンタリー〟」
集英社オンライン / 2024年11月5日 11時0分
今年4月に『Sexy Zone(セクシーゾーン)』から改名したアイドルグループ『timelesz(タイムレス)』による新メンバーオーディション番組『timelesz project -AUDITION-』(以下、『タイプロ』)がNetflix国内ランキングで配信直後に1位を獲得するなど、大きな話題になっている。その背景には、かつて所属していた『ジャニーズ事務所』の前例を打ち破る、革命的な試みの数々にあるようだ。
ジャニーズ時代の伝統を打ち破る〝画期的〟な部分とは
『タイプロ』の始動が発表されたのは、新グループ名が公開された今年4月1日の生配信でのこと。その後には、『timelesz』のメンバー3人(菊池風磨、佐藤勝利、松島聡)が自ら候補生と対峙し、書類選考の段階から審査員を務めることも明らかとなった。
しかし、発表直後にファンから上がったのは、伝統から外れることに対する批判の声だった。というのも、かつて所属していた『ジャニーズ事務所』では、デビュー後のグループが様々な事情で人数が減ったとしても、増員されることなどこれまで一度もなかったからだ。
『モーニング娘。’24』や『AKB48』など、大所帯の女性アイドルグループでは、メンバーの卒業・加入を繰り返しながら活動するケースが珍しくない。
一方、かつての『ジャニーズ事務所』において、複数名の脱退を経験した『光GENJI』『KAT-TUN』『NEWS』『King & Prince』らは、残されたメンバーのみで活動を継続。増員を経験している『A.B.C-Z』『Snow Man』『Travis Japan』らも、新メンバーが加入したのはデビュー以前のことだ。
さらには、最初から“合格=デビュー”が確約されたオーディションは開催されたことがなく、事務所が『STARTO ENTERTAINMENT』に変わったことを踏まえても、『タイプロ』がいかに画期的であるかがわかる。
特に斬新かつ、ファンからの反対も大きかったのは、一般からも候補者を募集した点だ。
かつての事務所では、入所してからまず『ジャニーズJr.(現『ジュニア』)』として活動し、のちにデビューという育成システムが伝統的に採られていた。だが、『タイプロ』はこの前例を打ち破り、新メンバー候補者は『ジュニア』のほか一般人からも募集。その応募総数は、実に1万8922件にものぼっている。
発案者は菊池風磨、伝統重んじる〝保守派〟だったのになぜ⁉
もちろん、ファン心理としては、60年以上続いた旧事務所の伝統を破る試みが簡単に受け入れられないこともわかる。特に、発案者である菊池は事務所の伝統を重んじる “保守派”と呼ばれていたタレントだったため、ファンの間では驚きやショックも大きかったはずだ。
その保守派だった菊池が、なぜこれまでの立場を転換させてまで前例のない発案をしたのか。『STARTO』所属アイドルのみならずさまざまなボーイズグループに詳しく、これまで数々のオーディション番組も論考してきたライターの池田夏葉氏(@nastuhaikeda)に、その背景を分析してもらった。
「元メンバーの中島健人という、グループのみならず事務所を象徴するような存在が離れたことは、伝統を守る“保守派”から、開拓に挑む“革新派”に踏み切った一つの要因になったと考えられます。
メンバー脱退後に人気が上がっていくグループはそう多くありませんし、まだまだグループとして高い目標を持っている『timelesz』にとって、現状維持より思い切って踏み出すほうが何かしら変化を得られると考えたのではないでしょうか。
一般公募に関しても、『ジュニア』内に歴が長く人気のグループが多いことを踏まえると、そこを抜けて先輩のグループに加入するというのは、仮定だとしても簡単に語られてよい話ではないと思います。『timelesz』の3人もかつて『ジュニア』であった身として、この点への理解は深く、だからこそ、単純に"『ジュニア』から引き抜く"という選択肢はなくなったのではないでしょうか」(池田氏、以下同)
ファンからは反発も多かった『タイプロ』だが、配信開始後、番組は次々と話題を振り撒いていく。まず初めに話題になり、早くも番組を象徴するシーンになったのは、8月の#1予告映像で流された「菊池風磨構文」だ。
同映像内での菊池は、歌詞を忘れてしまった候補者に対し、「歌詞忘れてるようじゃ無理か(笑)。歌詞はね、入れとかないと」と笑顔ながらに指摘。すると、これが瞬く間にネットミーム化し、SNSで大拡散。
実際にこの発言が飛び出した場面では、候補者がダンス審査でサイドステップと手拍子を繰り返すのみで、志望動機には「女の子が僕のことを待ってると思ったんで」とよこしまな思いを述べるなど、冷やかしのような態度が物議を醸した。
さらには、かつて『timelesz』メンバーがともに活動した元『ジュニア』の保育士や『Sexy Zone』時代からライブや舞台に通う大ファンで、オーディションにチケット半券の山を持って来た候補者など、話題のシーンが続出。好評は数字にも現れており、あの大ヒットドラマ『地面師たち』を抑え、連日の視聴ランキング首位を獲得する事態となった。
視聴者が感情移入するのは候補生以上に審査員3人
10月25日配信の3次審査からはグループワークでのダンスという実技試験に入るが、まだ面接にすぎない2次審査の段階で、ここまで話題を集めている『タイプロ』。実は、旧事務所の前例を打ち破っただけでなく、オーディション番組としても革新的な要素があるのがこの番組の特筆すべき点だ。
それは、プロデューサーの選考や視聴者投票ではなく、メンバー自身が審査員を務めている点だ。
ファンからも、〈冷静になるとまじ審査員目線になる〉〈今までのオーディション番組と違ってみんな審査員に感情移入しちゃっておもしろい〉〈審査員側にここまでフォーカス当たってるのも珍しいから違う楽しみ方あっていい〉〈『timelesz』の3人の審査員のジャッジも勉強になる〉といった声が上がるなど、候補者ではなく審査員側に感情移入するという、これまでのオーディション番組にはない現象が見られている。
さらに、これまで数々のオーディション番組を論考してきた池田氏は、独自の現象として、「視聴者がメンバーへの信頼を深めている」と分析する。一体どういうことなのか。
「面接形式による2次審査までの印象にはなりますが、『タイプロ』は『PRODUCE 101 JAPAN』の3作品や『Nizi Project』『THE FIRST』『MISSION×2』といった、さまざまな審査によって候補者が絞られ、そのドラマを追う"サバイバル"番組というより、『timelesz』3人の“ドキュメンタリー”のような印象が強いと感じています。
審査員であるメンバーに対して、視聴者は感情移入というより、信頼を深めていると言っていいでしょう。これまでに配信されているエピソード内でも、視聴者が違和感を持つ候補者に対して、メンバーが厳しい言葉をかけるといったシーンも多く見られました。視聴者は『あぁ、やっぱりこの3人が選ぶなら信頼出来るね』という気持ちが、見進めていくにつれて深まると思います」
現在は一般参加の候補生が審査されている『タイプロ』だが、今後は『timelesz』にとって後輩である『ジュニア』も参加する。今後は『ジュニア』のファンも視聴を開始し、さらに盛り上がっていくことは間違いないだろう。
新メンバーの正式決定は2025年初旬に予定されているが、増員人数、『ジュニア』・一般候補者の割合については未定であり、“該当者なし”もあり得ることが明言されている。
あらゆる点で革命的な『タイプロ』は、いったいどのような結末を迎えるのだろうか。
取材・文/集英社オンライン編集部
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