森永卓郎、人生最大の損失とは?「投資は始めるより、やめることのほうがはるかに難しい」未来永劫、株価が上がり続けると考える人に伝えたいこと
集英社オンライン / 2024年11月19日 11時0分
〈老後資金2000万円が数年で140万円に? 森永卓郎氏が「二度と手を出すな」と言い切る新NISAの落とし穴〉から続く
2023年末に癌で余命宣告されていることを公表した森永卓郎氏。そんな彼の人生最大の投資での失敗を赤裸々に明かしてくれた。そして今、株価の下落を予測する森永氏には多くの批判が寄せられているという。果たして株価は今後どうなるのか?
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書籍『投資依存症』 (三五館シンシャ)より一部を抜粋・再構成し、氏の体験談とともに今後の世界経済を予測する。
私の投資体験
株式や投資信託への投資は、始めることよりも、やめることのほうがはるかに難しい。ここで私自身の体験を紹介しよう。
私は、バブル崩壊を予見して、数年前から少しずつ投資用の株式を処分してきた。そして、2023年の段階で処分を終えた。ただ、どうしても株主優待が必要な株は残している。
たとえば、タカラトミーの株式を所有していると、株主優待で特別仕様のトミカとリカちゃんをもらえる。これらはB宝館という私設博物館の重要な展示物なので、株式を売ることはできない。そうである以上、タカラトミーの株式は優待が続く限り売ることはない。つまり、投資対象ではないのだ。
一方、株式の処分を終えたあとでも、ドル建ての投資信託は全部残していた。当面、円安が進行して、さらなる高騰が予想されたからだ。
しかし、2023年末に受けた余命4カ月というがん宣告で、私は重い腰を上げざるをえなくなった。前著『がん闘病日記』で詳しく書いたのだが、株式や投資信託を抱えたまま死ぬと、死亡日の相場で計算した評価額の相続税がかかるだけでなく、売却益にも課税という二重課税が行なわれる。
しかも、本人が売却するのは簡単だが、相続人はすぐに売却することが難しい。結局、相続人に迷惑をかけてしまうことになるのだ。
そのため、2024年に入って、私は外貨建て投資信託もすべて処分した。がん宣告というショックがなければ、おそらくできなかっただろう。
幸か不幸か、この十数年、世界の株価は右肩上がりで上昇してきたので、ほぼすべての人がいますぐ投資から手を引けば、利益を手にしながらの撤退が可能になる。
さきほど、お金が増えることはないと言ったではないかと思われるかもしれないが、その利益は最後まで株式や投資信託を抱え続けた人たちが支払う羽目になる。それは仕方がない。いくらバブル崩壊のリスクを伝えても聞く耳を持たなかったツケだ。
じつは、数年前から投資を手仕舞いしてきたことと、ここのところの株価バブルによって、投資からの撤退で私の手元には大きな資金が残った。その資金はいま、毎月100万円を超えるがん治療費用の原資となっている。バブルのおかげで延命が可能になり、この本も書けているということだ。
そう書くと、私の投資は成功裏に終わったと思われるかもしれないが、私はかつて投資でとてつもなく大きな失敗も経験している。
家を新築で購入
1989年末のバブル崩壊のあと、1990年代初頭にバブルの調整は十分終了したと判断した私は、2つの大きな投資をした。
1つは、いま住んでいる家を新築で購入したことだ。この家は、トカイナカ(都会と田舎の中間)に立地していて、駅からも離れているので、いま起きている不動産バブルの影響を受けていない。
わが家の土地の評価は、購入した30年前とくらべても、やや下落をしているというのが実態だ。もちろん、わが家は投資のために買ったのではないし、30年も住んだから、問題がないと言えば、そのとおりだ。
問題なのは「投資信託」への投資だ。バブル崩壊の直後、私は日経平均株価連動の投資信託に大金をつぎ込んだ。
詳しい記録が残っていないのだが、まだ日経平均株価が3万円台を維持している段階だったから、バブル崩壊が始まってから1年も経っていない時期だ。
日経平均株価が2割くらい下がった段階で「調整は終わった」という判断をして、投資信託の購入に踏み切ったのだ。
いま振り返ると、日経平均株価はその後ピーク時の5分の1まで下がっているから、あまりにも甘い判断だったと言えるだろう。
私の人生最大の損失─私の投資体験・失敗篇
その甘い判断には背景があった。バブル経済のなかで、シンクタンクの仕事に大量の発注が舞い込んでいた。そのため私は常時20本以上のプロジェクトを同時進行させていた。まだ「働き方改革」など影も形もない時代だ、私は毎日、深夜零時を超えて働いた。
その結果、30代を迎えたばかりの私の月給は100万円にも達していた。しかもお金を使う時間はほとんどなかったから、あぶく銭が山のように貯まっていたのだ。それをこともあろうに日経平均株価連動の投資信託に一気につぎ込んでしまったのだ。
その投資信託は、日経平均株価が1万円を割りこんだところで損切りすることになった。どこまで下がるのかわからず、怖くなってしまったからだ。私の人生のなかで被った最大の投資による損失だった。
最近、私が「株価は最悪10分の1になる」と公言していることに対して、多くの人から「妄想を語るのはやめろ」とか「そんなことを言うから信用を失うのだ」という批判が寄せられている。
34年前の私も同じ批判をしていたかもしれない。
ただ、1930年代のアメリカでは、実際に株価は10分の1になったし、1990年代以降の日本でも株価は5分の1に下がっている。「株価の大幅下落」という予測を頭ごなしに非難するのは、投資依存症に足を踏み入れている何よりの証拠なのだ。
写真/shutterstock
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