〈兵庫・出直し知事選〉「斎藤か斎藤以外か…」SNSでは前知事への支持が広がるも「人が死んでるんやで!」の声…対抗馬は異例の自民・立憲が推す前尼崎市長
集英社オンライン / 2024年11月1日 19時10分
パワハラやタカリ、公金不正支出疑惑などが指摘された末に県議会の不信任決議で斎藤元彦前知事(46)が失職した兵庫県で、出直し知事選が10月31日に告示された。自らの改革路線に県議会や県職員が抵抗していると主張する斎藤氏は「負けるわけにはいかない」と言いながら再出馬。独自候補擁立を断念した自民党の一部が立憲民主党とともに推す前尼崎市長の稲村和美氏(51)と、斎藤氏の激突が軸となりそうだ。
地元経済人が強力バックアップ
「今回、県議会側からの不信任決議、そしていろんな政党、政治家がですね『斎藤元彦にさせるわけにはいかない』、まあそんな強い声をいただいています。斎藤か斎藤以外か。私は絶対、それには負けるわけにはいかないんです!」
31日朝、JR神戸駅に近い公園で第一声を上げた斎藤氏は、3年前の知事選で推薦を受けた自民党と維新を含む既成政党は自らの改革の抵抗勢力だと位置づけた。
斎藤氏が力を込めるたびに公園に集まった100人超の聴衆は盛んに拍手をし、「がんばれー」と激励の声を飛ばす。平日の出勤時刻が終わった時間帯で、選挙初日にしても異例の人出だ。
「不信任決議案が可決された後、9月30日付で失職した斎藤氏は直後から“駅立ち”を始め、その様子がSNSでどんどん拡散され、駅立ちの斎藤氏に会いに来る人が増え続けました。
並行して、『改革を妨害する勢力の謀略で知事職を奪われた』と斎藤氏を擁護するSNSの書き込みも増えました。ネットの世界と斎藤氏がいる駅前では、一連の問題で批判が高まっていた9月までの空気とは真逆の、応援ムードが広がっています」(地元記者)
県政界関係者はこうした状況には“下支え”があると指摘する。
「3年前の選挙時に強力な支援をした神戸や播州地方の経済人の中には変わらず斎藤氏を応援する人がいます。駅立ちはそうした支援者らと始めたようですが、ここまで人が集まるのには驚きもあります。
ただ、目で見えるこうした光景がどこまで世論を反映しているのかはわかりません」(同関係者)
「マスコミは嘘を言っている」
斎藤氏の前に現れて応援するのは女性が圧倒的に多い。告示の前日も昼休みに斎藤氏がJR明石駅前で短い演説をすると、その後に握手や記念撮影を求める長い列が生まれ、最後尾の人の順番が来るまでには1時間近くかかった。
その一人、40代の女性Aさんに斎藤氏を支持する理由を聞いてみた。
「支持というか、マスコミだけを信じていいのかって思って。ちゃんと話を聞いて、本人がどう思っているのか、本当のことを教えてもらいたくて来ました。私から見ると、すごくマスコミも(斎藤氏を)いじめているように見えたんですよね」(Aさん)
そこで演説を聞いて報道とどちらが正しいか判断がついたかをたずねると、「うーん、わからない。これからですね」と返って来た。
50代の女性Bさんは、斎藤氏のほうが正しいと断言した。
「最初はマスコミがガンガン放送してたけど、一次情報を見ていくうちにマスコミは嘘を言っていると思いましたね。本当に悪いことをやっているなら、あんなに頑なに辞任を拒否しないだろうし、嘘なら段々ブレていくはずなのに、それがない。言っていることは本当で、ちゃんと信念をもってやっているからだと思います」(Bさん)
家族全員が同じ考えで、共感する人は増えていると感じるという。一方で「お年寄りと話すと『道義的責任があるから辞めるべき』という人もいます。やっぱり(斎藤氏に)“悪人”のレッテルが貼られているからだと思います」とも言う。
黄色い歓声が飛んだ“握手会”のさなかには、通りかかった中年の男性が、斎藤氏の疑惑を告発した県幹部ら2人が今春以降相次いで自死したことを挙げ、「人が死んでるんやで。自責の念はないんか。モラルはないんか。こんなん応援する気がしれんわ!」と大声で叱りつけたりもした。
対抗馬は尼崎市長として実績のある稲村氏
選挙は立候補を目指す人物が多く現れ、候補者が増えれば増えるほど知名度が抜群に高い斎藤氏が有利になるとみられていたが、告示直前に「反斎藤」が急速に集約された。
「知事選にはほかに、日本維新の会の参議院議員だった清水貴之氏(50)と共産党が推す医師の大沢芳清氏(61)ら5人が立候補し、計7人が正式出馬しましたが、これでもかなり“整理”されました。
これ以外にも元加西市長の中川暢三氏(68)と元経済産業省官僚、中村稔氏(62)も立候補の意向を示していたのですが、この2人は告示直前に取りやめたのです。
中川氏は『斎藤氏だけには当選してほしくない』として、自分の支持者に稲村氏に投票するよう呼び掛けて降りました。中村氏は自民党の推薦を期待したのですが、自民党が独自候補を立てるのをやめたことで勝算はないとあきらめたようです」(地元記者)
中川氏が支援に回った稲村氏は、神戸大生時代の1995年、阪神・淡路大震災の被災地でボランティアに従事したことがきっかけで社会運動に入り、兵庫県議を2期務めた後、市民派として尼崎市長を3期12年経験している。
「稲村さんは市長時代、尼崎に4つも5つもあった暴力団の事務所を排除しました。勇気と実行力は相当なものです。財政再建でも好成績を残し、悪かった尼崎のイメージは劇的によくなりました。私は尼崎市の住民ではありませんが、尼崎がどんどん良くなっていったのは誰でも知っています」と神戸在住の60歳の女性は話す。
「今回、斎藤県政の混乱の中で、立憲民主党系の県議会の県民連合が早い時期から稲村さんに知事選への出馬を打診してきました。彼女の強みは県議や市長時代にも自民党ときちんと関係を築いていたことです。それが選挙の構図に大きく影響しました」(県議会関係者)
稲村氏は異例の“自民・立民候補”
その言葉どおり、今回目を引くのは県議会最大会派の自民党(37議席)が独自候補を立てず、自民党の一部議員が県民連合が立てた稲村氏を支援していることだ。
「自民党も候補者を探したのですが、この短期決戦で見つけることができなかったのです。中村氏は自分を推してくれるかと期待して名乗りを挙げたのですが、かつて通産省から兵庫県に出向した時の評判が悪くて相手にされず、断念することになったのです。
自民党県議団の一部はつい最近まで兵庫県出身の国会議員らの擁立の道を探ったものの、結局告示直前にあきらめました。同時に、知事をやめさせた斎藤氏への応援を禁じる措置も取りました。
これで自民党が推せる候補は事実上稲村氏だけとなり、異例の“自民・立民候補”となったのです」(県議会筋)
10月31日の告示日、稲村氏は神戸の中心、三宮で出発式のマイクを握り、今回の問題での斎藤県政の対応を「しっかりと検証する」と言明。
「混乱に終止符を打つことはもちろん、それにとどまらず、今までよりもっとみなさんのために働ける、力を発揮できる県庁へと変えていきます」と訴えた。そのそばには自民党の衆議院議員や県議、県内の有力市長も並んだ。
3年前の知事選で維新と自民の推薦を受けた斎藤氏はネット界の声援を頼りにゲリラ戦を仕掛け、かつて市民派だった稲村氏が自民にも推される皮肉な構図の選挙戦は、11月17日に決着がつく。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
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