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パレスチナの子どもは「1日に2人」逮捕・収監されている「イスラエル兵がパレスチナ人を笑いながら殴っている風景を見た」

集英社オンライン / 2024年11月6日 18時0分

2023年10月7日、パレスチナ・ガザ地区を拠点とするイスラム組織ハマスの攻撃を受け始まったイスラエルによるガザへの激しい爆撃は今も続いている。

【写真】8年をかけて映画制作した、イスラエル人映画監督とパレスチナ人プロデューサー

イスラエル人の映画監督デヴィッド氏と映画プロデューサーのパレスチナ人、モハマド氏。立場の違う二人が、8年をかけて制作した『TWO KIDS A DAY』は、年間700人ものパレスチナの子どもたちが不当に逮捕され投獄されている事実を告発したドキュメンタリーだ。来日した二人に話を聞いた。(前後編の前編)

1日に2人、逮捕・収監されるパレスチナの子どもたち

——イスラエル軍に対して抗議の投石をしたヨルダン川西岸、パレスチナ自治区に住む子どもたちが年間700人、つまり「1日に2人」の頻度で逮捕・収監されていることを初めて知りました。この状態は今現在も続いているのでしょうか。

デヴィッド・ヴァクスマン その通りです。特に昨年10月7日以降はその数はさらに増えており、ガザ地域も入れると年間2000人の子どもたちが投獄されています。私がこの映画の撮影を始めたのは約8年前。長年パレスチナの子どもたちをサポートしている弁護士の方に、テルアビブにある軍事裁判所で何が起きているのかを見てほしいと誘われて行ったのがきっかけです。

まだ幼い10代前半の少年たちが、手足を拘束されて、弁護士すらつけてもらえず7時間から10時間にもわたる厳しい尋問を受けていることに大変ショックを受けました。その後、入手先は言えませんが裁判所の尋問の映像を入手し、そこに映っている少年たちを何年もかけて探しだし、説得し、インタビューをしたのです。

——映画は、当時の厳しい尋問の映像を、今は成長した青年4人が振り返り語る内容になっています。そのうちひとりは1年、2人は2年半、あと1人は4年も収監されていたということに驚かされました。

モハマド・ババイ 西岸地区のパレスチナ人に対しては、イスラエルの通常の法律ではなく軍法が適用されます。通常、イスラエルで少年が同じ状況になっても、すぐに弁護士がつけられますが、西岸地区ではまったく違う。たとえ弁護士を雇うことはできても、それが3日後、5日後、時に数週間かかることもあります。

実際、パレスチナ人の裁判に弁護士など必要なく、ほとんど見世物のようなものです。これは占領でありアパルトヘイトであり、彼らはやりたいことを何でもできるのです。そして誰もそれを非難しない。

それでも、逮捕され収監された子どもたちは幸運だったのです。刑務所に入るだけで済んだのですから。同世代の何十人もの子どもたちが投石をしてイスラエル兵に射殺されているからです。

デヴィッド そもそも、考えてみてください。彼らがイスラエル軍に石を投げたとしても、戦車や軍用車の中にいるイスラエル軍にとって、それがどのくらいの被害か。危険などほとんどないのです。それなのにここまでの弾圧があるのは、石を投げるという行為が、彼らにとって攻撃というよりも抵抗の象徴だからです。

だからこそ、イスラエル側もそれに対して厳しい弾圧を行う。この見せしめもまた、ひとつの象徴的行為なのです。

モハマド 投石は、パレスチナの人々にとっていつも、抵抗の象徴です。1987年に起こった第一次インティファーダ(パレスチナ解放を求める民衆蜂起)のはじまりもそうでした。私はまだ10歳の子どもでしたがよくそれを覚えています。しかし象徴だけではなく、現実的にも、私たちには投石をするぐらいしか抵抗の手段がなかったのです。

今はパレスチナの人たちも多少なりとも武器を持って戦うようになりましたが、イスラエルの圧倒的な軍事力に比べればそれはほとんど何もないに等しいというのが現実です。

国内では上映禁止に

——この映画がつきつける現実を、イスラエルの人たちはどのように受け止めたのでしょうか。

デヴィッド イスラエル国内で、パレスチナの子どもたちの被害についての映画を制作し、上映するのはかなり困難なことでしたが、特に大変だったのは、映画が完成した2023年の1月、イスラエルの文化大臣がこの映画を激しく非難し、既に私たちが受けていた資金援助を取り消すと言い出したことです。その影響で映画に反対するデモが起こるなどさまざまな圧力がありましたが、逆にこの映画を見たい、という人たちも多く現れたのです。

その後国内各地を巡ってこの映画を上映しました。反応はさまざまで、このような事実を知らなかった、ショックを受けたという人たちも多くいましたし、その事実を認めようとしない人たちもいました。

印象的な出来事もありました。ある上映会のあと、ひとりの女性が私のところにきて握手を求めてきて、自分は選挙でベングヴィール(イスラエルの極右政治家)に投票したが、この映画を見たので、自分の家に戻ってしっかり考えてみたいとおっしゃったのです。

それは私にとってとても重要な出来事でした。私がなぜ映画を作るのか、それこそが答だからです。分断の中に小さな裂け目を作って、反対側にも人がいるのだということ見られるようにするのが私の仕事なのだと、そのとき確信しました。

しかし残念ながら、今ではそんな機会も失われてしまいました。昨年の10月7日以降はこの映画は国内で一切上映できなくなったからです。

日本人に知っておいてほしいこと

 ——イスラエルの人たちにとって認めたくない現実だったということでしょうか。

デヴィッド IDF(イスラエル国防軍)はイスラエル社会において非常に神聖な存在で、人々は兵や軍を尊敬しています。その兵士たちがこのようなことをしているということ。それ自体が理解できないのです。イスラエルの人々はパレスチナの人々のことをほとんど知らず、実際のパレスチナ人に出会う機会もないので、パレスチナ人は自分たちを攻撃する悪者である、悪魔であると思い込んでいる。彼らが同じ人間だと考えてみたことがないのです。

モハマド パレスチナの人たちにとっても、イスラエル人の多くは軍人や警察、もしくは自分たちの住まいや生活を奪う人たちであって、それ以外のイスラエル人と出会う機会などほとんどありません。

なぜならもう何十年もの長い間彼らは壁の中に閉じ込められ、抑圧され続けてきたからです。そのような環境でおとなになった子どもたちにとって、イスラエルという存在がどのようなものなのか、考えてみてください。

私自身、子どものころに、イスラエル兵がパレスチナ人たちを笑いながら、楽しむために殴っている風景を見ました。特に2001年以降、イスラエルはガザ地区に何度も攻撃を行っています。そのころに生まれて戦火の中で育った子どもたちは今20代半ばになり、ハマスなどの戦闘組織に参加しているのです。

私はそのことを肯定しているわけではありません。しかしそれは事実なのです。このことは日本のみなさんにも知っておいてもらいたいことです。

#2へつづく

取材・文/岩崎眞美子

イスラエル人とパレスチナ人がドキュメンタリー映画を共同制作した理由「パレスチナの問題は世界のニュースから消えていく。だからこそ…」〉へ続く

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