負債総額は800億円とも…船井電機「衝撃な破綻」に残る謎…一連の倒産劇の主導者は何者なのか?
集英社オンライン / 2024年11月6日 7時0分
〈「ワタミ×サブウェイ」は“健康志向”でファストフード業界を脅かす存在に⁉︎ 異例の大型買収を決断したワタミの狙い〉から続く
船井電機の衝撃的な倒産が世間を騒がせている。負債総額は469億円とされているが、東証商工リサーチは実質的な負債を800億円だと報じている(「船井電機の実質負債800億円、多額の引当不足が露呈」)。船井電機は2021年5月に秀和システムホールディングスによるTOB(株式公開買付)によって非上場化され、一連の破綻劇はこの買収の中心的な人物である上田智一氏が計画的に仕掛けたものだとも噂されている。そうであれば、背任も視野に入る大問題だが、その真相は…。
3期連続で営業キャッシュフローがマイナス
船井電機の倒産に至るプロセスについては不透明な部分も多いが、買収からのプロセスを辿ると、かすかに見えてくるものもある。
会社の潮目が大きく変わったのは、2021年の秀和システムホールディングスによる買収であることは間違いない。
このTOBには3人の人物が深く関わっている。
秀和システムホールディングスの代表取締役であり、2021年7月より船井電機の社長となった上田智一氏。
船井電機の創業者・船井哲良氏の長男かつTOB前は筆頭株主だった、医師の船井哲雄氏。
そして、買収前に船井電機の顧問を務めていた、元NTTぷららの社長・板東浩二氏である。
よく知られている通り、船井電機はテレビ事業の不振が深刻だった。2012年3月期から2018年3月期まで連続で営業赤字を出していたほどだ。しかも、2016年3月期から3期連続で営業キャッシュフローがマイナスだった。
会社の業績が下降線を辿る中、精神的な支柱となっていた創業者・船井哲良氏が2017年7月にこの世を去って以降、34%もの株式を相続したのが船井哲雄氏だ。
しかし、船井哲雄氏は1978年3月に旭川医科大学を卒業し、旭川厚生病院に勤務するなど医師としての仕事に邁進しており、船井電機の経営からは距離をとってきた。
2014年4月には旭川十条病院の副院長に就任。現在は院長を務めている。
そうはいっても船井哲雄氏が会社の行く末を案じていたのは確かだ。相続が完了した翌月の2017年9月下旬から、会社を再成長する道を模索し始めていたのである。
買付者への配慮か? TOB価格の半額以下で譲渡
船井哲雄氏は、創業者の長男として会社の業績を回復させ、再成長させる必要があるとは考えていた。
しかし、ビジネスの中でもとりわけ難易度の高い経営再建という大仕事は、経験を有する経営者に任せたほうが中期的な発展が望めるだろうという思いを強くしていく。
そこで当時、船井電機の第9位の大株主だった船井興産の専務取締役・黒宮彰浩氏を介して、複数の投資ファンドとの接触の機会を持ったのだ。
業績が悪化していたとはいえ、豊富なキャッシュを持つ船井電機クラスの買収であれば、並みいるPEファンドが諸手を挙げて提案へと向かったのは想像に難くない。
しかし、ファンドとの信頼関係を築くことはできなかったため、船井電機の顧問だった板東浩二氏に相談することとなった。
板東浩二氏といえば、債務超過だったジーアールホームネット(後のNTTぷらら)のV字回復を主導し、「ひかりTV」事業を立ち上げた名経営者。再建にはうってつけの人物というわけだ。
当時、板東氏は船井電機の顧問の他に、株式会社敬屋社中という経営支援を行なう会社の顧問も務めていた。敬屋社中の代表取締役社長こそ、上田智一氏である。
船井哲雄氏は、上田智一氏がM&Aにおける豊富な経験を持っており、業績改善や事業拡大の実績があったことから船井電機の再成長を託すこととなった。
驚くべきことに、船井哲雄氏は持株をTOB価格918円の半分以下である、403円で譲渡している。公開買付者の資金調達コスト低減のメリットが大きいスキームを模索していたことからも、よほどの信頼関係が構築されていたものと予想できる。
M&Aのプロ中のプロであるPEファンドの提案をことごとく却下していた船井哲雄氏が、それほどの配慮をしているのだ。
船井電機の美容業界進出は本当に不自然なのか?
非上場化後の船井電機は、代表取締役会長兼社長・板東浩二氏、代表取締役・上田智一氏という新たな体制で再スタートを切った。
2021年3月期は液晶テレビを主軸とする映像機器が、売上全体の9割を占めていた。板東浩二氏は2021年8月に報道陣の取材に応じ、新規事業に力を入れて売上の半分程度まで高めるとする方針を語っている。
直近通期の映像機器事業の売上高は1割の減収であり、別事業に活路を見出だすという方針自体には納得感があった。
2023年4月、そうした新体制下で新規事業拡大を図る船井電機は全国で脱毛サロンを展開するミュゼプラチナムを買収している。主力事業であった薄型テレビ事業が伸び悩むなか、美容事業への参入。
船井電機のミュゼプラチナム買収に、不自然だとの声は多い。しかし、船井電機は2020年5月に歯科医師用の断層撮影装置メーカーのプレキシオンを12億円で買収している。
2017年からは電動ベッドの駆動部品や制御ソフトの開発を進め、寝具メーカーなどへ販売していた。つまり、液晶テレビからの脱却を図るため、健康機器や医療などへと活路を求めていたのだ。
ミュゼはサロンの運営も行なっているが、自宅で脱毛ができる美容機器や美顔器、シェーバーなどの販売も行なっている。
そう考えると、船井電機の経営再建の延長線上に健康と医療、美容機器業界への本格参入という意思決定があったとしても、決してずれているものだとは言えないのではないか。
2023年3月末時点で221億円あった現金はどこへ…
2022年6月の定時株主総会で板東浩二代表取締役会長兼社長が退任。上田智一氏が代表取締役社長に昇格した。板東氏が代表を退任した理由は不明だが、しばらく船井電機の経営は安定していた様子が伺える。
2023年3月期の事業報告書にはこのように記載されている。
“金融機関との関係は引き続き良好であり、当社グループの当連結会計年度末現在の現金及び預金残高は221億96百万円となっております。当連結会計年度において23億63百万円の親会社株主に帰属する当期純利益を計上”
23億円の純利益を出し、2023年3月末時点では221億円もの現預金を有しているのだ。
しかし、2024年3月期の事業報告書では現預金、純利益、金融機関との関係は一切言及されていない。
そして2023年4月にミュゼプラチナシステムズ合同会社を買収し、2024年3月に同社の全株式を譲渡した事実が淡々と書かれている。
船井電機がミュゼの広告費の債務保証をしており、支払いの遅延にしびれを切らしたウェブ広告のサイバー・バズが船井電機株の仮差押えを申請。東京地裁がこれを認める決定を下した。そこから転がるように倒産へと至ったのは報じられている通りだ。
300億円もの資金が流出した形跡があるなど、衝撃の事実が次々と明るみになっているのにもかかわらず、一連の倒産劇の主導者が何者なのかはわかっていない。
ただし、上田智一氏が計画的にそれを行なっていたのかというと疑問の余地がある。
液晶テレビからの脱却を模索する中でたまたまミュゼプラチナムと出会い、巨額の広告費を肩代わりして株式が差し押さえられ、転がるように倒産へと至ったように見えなくもないからだ。
船井電機の一件で恐ろしいのは、一見、適正に見える経営判断が悲惨な末路へと至ることもありうるのではないかと思わせることだ。
間違いなく言えるのは、子会社ミュゼの広告費の不払いを見過ごすなどのコンプライアンス違反を犯すことになれば、一瞬で会社は倒れてしまうという事実である。適正なかじ取りができなかった経営陣の責任は重い。
計画的に倒産させたかどうかはともかくとして、会社が傾いた時期に会社のトップに立っていた上田智一氏は、原因究明のためにも説明責任を果たす義務があるだろう。
取材・文/不破聡 サムネイル/Shutterstock
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