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〈米大統領選〉ハリス急失速の背景 「バイデンの失言」と「ホワイトハウスの文書改ざん」が落とす深い影

集英社オンライン / 2024年11月6日 7時0分

〈アメリカ大統領選〉トランプは「垂直」、ハリスは「水平」、好対照な支持拡大戦略。カギを握る激戦7州の行方〉から続く

11月5日投開票(日本時間では6日)のアメリカ大統領選は、史上まれにみる大接戦となり、トランプ、ハリスどちらが勝者になるのか、まったく見通せない状況だ。アメリカ政治に詳しい国際ジャーナリストで、国際教養大大学院客員教授の小西克哉氏に両陣営の動きや有権者の反応など、投票直前の注目ポイントを聞いた。

【画像】「有権者はゴミではない」ゴミ収集車に乗ってアピールしたトランプ

注目はミシガン「約21万のアラブ系住民票」

長いアメリカの歴史のなかでも、類を見ない大激戦となっている今回の大統領選。両陣営は最後の最後まで、相手の支持基盤に手を突っ込んで票の掘り起こしに注力してきた。

「人口3.6億人のアメリカですが、有権者登録数は1.7億人ほど。投票率が60 %前後として、米大統領選はだいたい1億票前後をめぐる争いとなる。ただし、これだけ僅差の戦いとなっているため、焦点は激戦7州の態度未決定票約200 万票の動向に移っている。1億票のうちの200万票だから全体のわずか2%。このミクロな票数の動きによって激戦7州の勝敗が決まり、全米での勝敗が確定するという状況になっているのです」(小西氏、以下同)

とくに激戦7州のひとつ、ミシガンでは州人口の2%、わずか20万8000人ほどのアラブ系住民票の動向が勝者を左右しかねないと、注目されている。

「もともと民主党支持が多かったアラブ系住民がパレスチナ自治区ガザへの攻撃を続けるイスラエルへの支援をやめないバイデン政権に失望し、ハリス離れが起きているんです。その一方で、『私が大統領になれば、すぐに停戦できる』と主張するトランプ氏への期待が高まっている。

支持率でハリス氏はトランプ氏に1ポイント先行しているだけの僅差なので、たとえ小さな票田だとしてもアラブ系住民の動向次第でトランプ氏がハリス氏を逆転する可能性は否定できません。

ただ、ハリス離れしたアラブ系住民票の多くは親イスラエル色の強いトランプ氏でなく、第三政党から出馬した他候補に流れると私は予測しています。

その場合でも、トランプが比較優位でミシガンの選挙人を取るかもしれない。とにかく開票してみるまでは結果はどちらに転ぶかわかりません。それほど両陣営の差は僅差ということなんです」

同じようなミクロな票田の奪い合いが、激戦7州で最大の選挙人19人を抱えるペンシルベニア州をめぐっても勃発している。ターゲットとなったのは州人口の8%を占めるプエルトリコ系住民の票だ。

「発端はマジソンスクエアガーデンでの集会で、トランプ応援に立ったコメディアン、トニー・ヒンチクリフ氏が『プエルトリコはゴミに浮かぶ島』と、プエルトリコ系住民を中傷するような差別発言をして物議をかもしたことでした。

すると、今度はバイデン大統領がトランプ陣営を批判するチャンスとばかりに、『プエルトリコ系住民は礼儀正しく高潔な人々だ。私が目にする唯一のゴミは彼(トランプ氏)の支持者たちだけだ』と、トランプ氏の支持者、すなわち有権者をゴミ呼ばわりしたと聞こえる発言をして大炎上したんです」

「有権者はゴミではない!」トランプがゴミ収集車で登場

バイデン大統領はマイクロ票の争奪戦の中で、ペンシルベニア州のプエルトリコ系住民票を引き寄せようと擁護発言したつもりが、有権者そのものをゴミ扱いした格好になったというわけだ。

「トランプ氏もここが攻めどころと、10月30日のウィスコンシン州での集会ではこれみよがしにゴミ収集車で乗りつけ、『有権者はゴミではない』と叫ぶパフォーマンスを演じたほどでした。

私が驚いたのは、このバイデン発言を火消ししようと、ホワイトハウスの報道官室が大統領発言録の修正に動いたこと。大統領の公式な発言はどんな短いコメントであっても記録保存され、ホワイトハウスのホームぺージに逐次公表されます。

このバイデン発言も当然、全文が掲載されたのですが、報道官室は問題となった「彼の支持者たち」(his supporters)というワードの最後の2文字、「r」と「s」の間に「’」(アポストロフィ)を速記担当部署に無断で加えてしまったんです」

要は「’」がなければ、「彼(トランプ候補)の支持者」の複数形となり、「支持者」=「有権者たち」となるが、「’」が入ると前後の文脈からしても「彼(トランプ候補)の支持者の~」となり、「ヒンチクリフ氏の差別発言」を指すことになる。

「そう。『’』が入るだけで、バイデン発言を批判する根拠がきれいさっぱり消えてしまうんです。バイデン発言が有権者の反発を呼び、ハリス候補の命とりになりかねないという恐怖心から速記局に無断で修正に走ってしまったのでしょうけど、一度公表された大統領発言を何の協議もなく修正するなんてあってはならないことです。

有権者の心証は最悪で、ハリス陣営にとって痛手となったのはまちがいない。米大統領選にはオクトーバーサプライズということばがあります。投票日の1か月前の10月に選挙戦に甚大な影響を与えるような驚きの出来事がしばしば起きるという意味です。

今回はこの「‘」をつけたホワイトハウスの改ざん行為がオクトーバーサプライズと呼ばれる出来事になるかもしれません。激戦7州のマイクロな票を取りこぼさないために、「’」を加えるというミクロな改ざんにホワイトハウスが走ってしまう。まれにみる接戦となった今回の米大統領選を象徴するような話です」

投票は日本時間5日午後7時から東部バーモント州など各州で順次、始まる。6日朝以降に投票を締め切り、即時開票される。

取材/集英社オンライン編集部ニュース班

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