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イスラエル人とパレスチナ人がドキュメンタリー映画を共同制作した理由「パレスチナの問題は世界のニュースから消えていく。だからこそ…」

集英社オンライン / 2024年11月6日 18時0分

パレスチナの子どもは「1日に2人」逮捕・収監されている「イスラエル兵がパレスチナ人を笑いながら殴っている風景を見た」〉から続く

イスラエル人の映画監督デヴィッド・ヴァクスマン氏と映画プロデューサーで人権活動家のパレスチナ人、モハマド・ババイ氏。二人がNHKと共同製作したドキュメンタリー『World Lost Justice 正義なき世界で』が11月7日NHK BSスペシャルで放送される。常軌を逸したガザへの虐殺をイスラエル国内ではどのように受け止められているのだろうか。(前後編の後編)

【画像】イスラエルとパレスチナの間で続く憎しみの連鎖の解決の糸口を探った映画

イスラエル人監督がパレスチナの子どもたちの映画を撮る難しさ

——イスラエル人であるデヴィッドさんとパレスチナ人のモハマドさん。お二人のようなタッグはどうして実現できたのでしょうか。

デヴィッド・ヴァクスマン イスラエル人の私がパレスチナの子どもたちの映画を撮るというのは大変難しいことでした。モハマドさんに出会う前に一緒に仕事をしていた別のパレスチナ人研究者は、取材したいのならば私がイスラエル人であることを隠す必要があると言いましたが、私は嘘はつきたくなかった。

取材する人たちに対して、私が誰であるかを伝えることは、最も重要なことであり、そうでなければこの映画を作る意味はないと思っていたからです。ですからモハマドさんに最初に出会ったときもそのように伝えました。

モハマド・ババイ 最初に出会ったときから、彼は自分がどのような人間で、どうしてこの取材をしようと思ったかを多くの時間をかけて私に説明してくれました。そしてパレスチナの子どもたちの現実や人々に対して、たくさんの質問を投げかけ、彼の思いを私に示しました。

この人は、真実を伝えようとしている。何か情報を隠そうとしたり、現実を違う方向で見せようとしたりするようなことはしない人だと感じました。それは私と彼の間だけでなく、取材対象の子どもたちに対してもそうでした。

パレスチナ人、イスラエル人であるという以前に、人間同士として相手の信頼を得ようとしていました。そこに嘘はなかったし、結局それは、人と人が対話していくための唯一の方法なのだと感じます。

デヴィッド 直接会うことが重要なのです。会って、話して、一緒に食事するだけで、私たちは同じ人間なのだと、気づくことができる。私が話したパレスチナの人たちは、私が兵士でもなく、シオニストでもない、同じ人間だと分かってくれました。しかし残念ながら、イスラエル社会の大半は、壁の向こう側にいるパレスチナ人を自分たちと同じ人間だとは思っていないというのが現実です。

「パレスチナ人を動物のように扱い、辱める姿を私は何度も目撃した」

——ムハンマドさんはイスラエルの市民権(国籍)を持ったパレスチナ人という立場とのことですが、それはたとえば難民キャンプに暮らすパレスチナの人たちとどのような違いがあるのでしょうか。

モハマド 私の祖父が、1948年のイスラエル建国時にイスラエルに残ることを選んだので、私にはイスラエルの国籍があり、パスポートも持てます。だから今ここ、日本に来られるのです。パレスチナ人の中では特権的な立場です。しかしそうでないパレスチナ人にはまず移動の自由がありません。

現在、ヨルダン川西岸地区には300人の、ガザには200万人のパレスチナ人が住んでいますが、70年以上も占領されてきたガザにも、ヨルダン川西岸にも高さ15メートルの壁があり、各都市の間のあちこちに検問所があり、兵士が立っています。

エルサレムでも、通りのあらゆる角に軍隊がいるのが見え、パレスチナ人の住居のある場所にはイスラエルの旗を掲げた入植者がどんどん入り込んできて住民を追い出します。政府がそれを奨励し許可を出しているからです。彼らがパレスチナ人を動物のように扱い、辱める姿を私は何度も目撃しました。

一方で私も含むパレスチナ系住民は、新しく建物を建てたり、拡張したりすることは許可されていません。教育や行政の予算も不平等です。イスラエル国籍を持っているパレスチナ人も、書類上はイスラエル人と同じ権利を持っているかのように見えますが、実際にはそうではありません。移動はできても、道を通るだけで検問所で尋問され、職務質問を受ける。

働き口を探すのにも差別を受ける。パレスチナの問題を話したり、ガザの惨状に対して声をあげるだけでも逮捕されます。イスラエルの中でパレスチナ人であることは、常に自分が「イスラエルの敵ではない」と証明し続けなければならないということです。

——この状況にイスラエル社会は矛盾や戸惑いを感じないのでしょうか。

デヴィッド イスラエルのメディアは現実を伝えません。イスラエルの兵士がどのように死んだかを報道しますが、ガザで起きていることも、西岸地域で起きていることも伝えません。政府も、メディアも、人々がそれを見ないまま、憎しみを持ち続けることを望んでいるのです。

また、私たちは幼いころから、自分たちは選ばれた民であり、この土地は神からもらったものだと教えられ、アラブ人は常に危険で恐ろしい存在なのだと教えられて育ちます。政府はその恐怖につけ込むのです。支配をするために都合がいいからです。イスラエルのほとんどの人が、この戦争を肯定しています。

人質解放のために戦争を停止せよと主張する人たちはいますが、ガザに対する攻撃をやめよ、ジェノサイドをやめよ、という人たちはいません。残念ながら私たちのような人間は、イスラエルではマイノリティの中のマイノリティの中のマイノリティです。

モハマド ホロコースト体験の歴史を持つイスラエル社会は自分たちが被害者であるという文化が浸透しています。被害者であると同時に神に選ばれた人種であるという考え方が共存しているのです。

イスラエルは自分たちの国は中東唯一の民主国家であると謳っていますが、同じ土地に住む別の民族には言論の自由も移動の自由も与えていません。それが民主主義の国家と言えるでしょうか。

パレスチナの問題はいつか世界のニュースから消える

——お話を伺っていて、モハマドさんには悲愴さと同時に力強くまっすぐな怒りと信念を感じますが、デヴィッドさんの表情からは哀しみと動揺が伝わります。

デヴィッド おっしゃる通りです。私は、この状況でイスラエル人として生きることが非常に辛い。このようなジェノサイドを行っている側の一員であることが辛い。しかし私はその責任を感じています。

イスラエルと同じ側に立つことは決してできないが、同時に私はこのイスラエル社会の一部であり、そこで暮らし生きている。その責任を感じています。この状況に対して立ち上がる唯一の方法として、私は映画を作っているのです。

だからみなさんも、どうかこのことについて知ってほしいし、忘れないでほしい。おそらくパレスチナの問題はゆくゆく世界のニュースから消えてしまうでしょう。だからこそ、この問題を、あなたたちの友人や、周囲の人たちと話しつづけて、話題にし続けてほしいと心から願います。

モハマド 私たちは抵抗の旅を続けなければなりません。知識を得ること、人と繋がること。人々に影響を与えること。私たちにはさまざまな形の抵抗があります。頭を上げて、決して落ち込まないことがとても重要です。私は人間を信じています。

——この記事もひとつの抵抗となりえますように。ありがとうございました。

取材・文/岩崎眞美子

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