〈米大統領選現地ルポ〉「アメリカを再び偉大に!」聴衆は熱狂、ハリス支持者は涙…イーロン・マスク処遇は?
集英社オンライン / 2024年11月7日 11時31分
〈〈米大統領選〉前日の予想では7つの激戦州のうち5州でトランプがリードか、ニューヨークに住む中国系の住人も「トランプ!トランプ!トランプ!」と熱狂〉から続く
トランプの勝利であっけなく幕を閉じたアメリカ大統領選挙。ハリスの敗因は? トランプ氏を応援していたイーロン・マスク氏の本当に閣僚になるのか? 選挙当日のニューヨークでの報道や、街の声を現地からお届けする。
【画像】アメリカ三大ネットワークの一局CBSが報じたトランプ当選第一報
「第47代大統領に選ばれることを誇りに思う」
現地時間の夜中の(6日)午前2時22分だ。何ということか。だがこれが紛れもない現実だ。トランプがフロリダ州ウエストパームビーチで「勝利演説」を始めた。
「第47代大統領に選ばれることを誇りに思う」
ペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシンのブルーウォール3州をトランプが制した。いや激戦州7つすべてをトランプが制している。僕がみていたのはCBSの選挙速報だったが、スタジオ出演者に全く笑顔はなく、正直、失望感がどこかに漂っているようだった。
現時点で「ハリス218対トランプ266」(CBS報道による。EST2時22分段階)という選挙人の獲得状況。過半数が270だから、これは勝負あった。
決して短くない「勝利演説」でトランプは締めくくり部分で、あの聞き飽きた台詞を繰り返した。
「これでアメリカの黄金時代が再来する。アメリカを再び偉大に!」
聴衆は熱狂していた。
同時に行われた上院・下院の選挙でも共和党が勝利する模様だ。議会(立法府)と行政(大統領府)、(さらに言えば司法=最高裁まで)トランプ共和党が多数派を掌握してしまった。
スリーレッド=三権すべてをトランプ与党の共和党が押さえることになる。カマラ・ハリスはこの日予定されていた出身校ハワード大学での演説をとりやめた。
ハワード大学の屋外キャンパスでは多くの支持者が演説を待っていたが、取りやめの告知を受けて次々に引き上げていく姿がテレビに映しだされていた。なかには泣いている人もいた。
僕は2016年のヒラリー・クリントンの「勝利演説」が予定されていた民主党の豪華な「祝勝」会場から次々に支持者たちが、絶望の表情を浮かべながら帰っていく姿を実際にその場でみていたので、その時のことを思い出した。勝敗がもたらす結末は実に冷酷だ。
イーロン・マスクはどうなるのか?
これから日本も含めた世界中のメディアは、トランプの勝因分析、カマラ・ハリスの敗因分析を始めるだろう。民主党は前回の大統領選挙に比べて、ヒスパニック系の支持が減り、若い人々の支持が減り、女性の支持も減少した云々。
ABCをみていたら、トランプへの政権移行チームの構成がどうなるかをめぐって解説を始めている。たとえばトランプ勝利に絶大な貢献をした実業家のイーロン・マスクの処遇がどうなるか。
途中で選挙戦から撤退しトランプ支持に転じたロバート・ケネディ・ジュニアらとの関係などをめぐってさまざまな観測を述べ合っていた。日本の政治評論番組に似ている。権力の移行とは人の入れ替えのことだ。当然、エマニュエル駐日大使も交代するのだろう。これから来年1月の大統領就任式までの間に内外で激動が訪れる。
選挙当日を振り返る。ニューヨークはとてもよいお天気で、暖かい。いったんコートを着て外に出たが、戻ってコートを置いてきた。それくらい暖かった。
今回の選挙の場合、早期投票(Early Vote)の数と郵便投票の数が非常に多い。最終的な開票結果は、これらの票の開票を待たなければならないとの見方が強く、もしかすると最終確定まで時間を要するかもしれないという見方もあった。
ガザの虐殺を否定できないハリスとマッチョイズム
最も近い場所にある投票所に足を運んでみた。この地域の公立小学校だ。警備が厳重だとのニュースを多くみたが、ここはそれほどの警備が行われていないようにみえる。もちろん部外者が投票所の中に立ち入ることはできなかったが、それでもどこかのんびりしていた。
入り口で入場者の監視の仕事にあたっている人はたった一人の男性。話を聞くと、早朝は一時的に長い行列ができたそうだが、僕が訪ねた時は人々がゆったりとした様子で三々五々やって来て、緊張感があまり感じられなかった。
投票所の案内の貼り紙を見たら、英語とスペイン語と中国語の3か国語で書かれてあった。この周辺の住民構成が何となく想像できる。近くの路上にハリス支持の2人の運動員がいた。スティッカーやバッジをご自由に、ということで日本ではちょっとお目にかかれない光景だ。
だって投票日当日に投票所入り口のすぐ近くで、自分たちの応援する候補への投票を呼び掛けているんだから。こちらはアメリカ人でもないし有権者でもないので、自由に好き勝手に話を聞くことができる。
――どちらが勝つと思いますか?
運動員 もちろんカマラ・ハリスよ。彼女は素晴らしい。
――日本から取材に来ている記者なんですが、なぜ両候補ともパレスチナでいま起きていることを虐殺だと非難しないのですか?
運動員 ガザで起きていることは悲しいけれども、イスラエルの人たちの人質が一刻も早く還ってきて、軍事行動をやめて問題を解決してほしい。
その程度ならだれでも言えるだろう…とは言えなかった。
午後4時頃テレビをつけると、テレビ局が投票所の中から生中継をしていて、行列をつくっている人々にリポーターが自由にインタビューをしていた。投票箱に辿り着くまでは2時間待ちだとか、のどが渇いて居る人にボランティアが水を配っているとか、とにかく報道が自由なのだ。
それで考えた。どうして日本の選挙および選挙報道は何から何まであんなに不自由なんだろうか。本当にアメリカの選挙をみていると、民主主義の学校なんだな、とつくづく思う。ここで有権者たちはいろいろなことを学ぶ。
激戦州のうち、ブルーウォール(もともとは民主党の牙城だった州)と言われているペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシンの3州をどちらが制するかがカギだった。
もうひとつの要素は、女性である候補を押し上げようという、支持政党を問わず世界規模で広がってきているジェンダー平等という大きな流れが票にどう反映されるかだ。
マッチョイズム(男性中心主義)の権化のような存在のトランプよりは、カマラ・ハリスを応援したいという潜在的な流れがあることは確かだ。その流れはヒラリー・クリントンの時よりは強いような気がしていた。
だが先に述べたように勝敗は決してしまった。
明日、僕が信頼している唯一の米メディア・アウトレットDemocracyNOW!を訪ねる予定だ。彼らの考えを訊いてみたい。おそらくエイミー・グッドマンは、こんな程度ではへこたれない。
文/金平茂紀
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