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眠れない夜に1杯のコーヒーが効くこともある…「寝ないといけない」と自分を脅迫することが不眠の一番の原因

集英社オンライン / 2024年11月26日 19時0分

眠れない夜は無理に目をつむって眠ろうとするよりも、自分にとって落ち着ける行動をとったほうがいい。Netflixで映画化された『ボクたちはみんな大人になれなかった』で小説デビューした作家・エッセイストの燃え殻(もえがら)さんはコーヒーを飲むとかえって落ち着いて眠れるという。

【画像】イラストレーター原倫子さんのイラスト

本記事ではエッセイ集『明けないで夜』のタイトルにもなった章から一部抜粋して紹介する。

明けないで夜

眠れないときに、コーヒーを飲むのは逆効果のような気がするが、僕にとっては不眠のときの最終手段がコーヒーだ。

いつの頃からか、コーヒーを飲むと心がわかりやすく鎮静するようになった。

友人は、アイスクリーム(ピノ)を寝る前に食べると、質の良い睡眠を取れると豪語していた。

昔お世話になったアニメ制作会社の社長は、寝る前に必ずメールチェックをするのが日課だと言っていた。メールをすべて間違いなく返信していることを確認してから眠ると、安心して深く眠れるらしい。

一種の願掛けみたいなものかもしれないが、そういうものは生きていく上であったほうがいい気がしている。

デザイナーの友人は、先週大きなコンペがあって、一週間前からずっとそのことで、どこか落ち着かないまま過ごしているようだった。友人はコンペ当日、あまりにストレスフルな状態になり、会社の引き出しの中に忘れたように置いてあった御守りを、スーツのポケットに入れて臨んだ。

コンペの途中に、その御守りをギュッと握りしめることで、我を忘れず冷静になることができてよかったと語っていた。ただ、家に帰って、御守りをよく確認すると、交通安全の御守りだったことに気づいて、心の中でずっこけたらしい。

気は持ちようというか、信じるものは救われるというか、溺れる者は藁をも掴むのだ。

「眠らないといけない」

不眠の原因の一番は、「眠らないといけない」と自分で自分を脅迫することだと、どこかの記事で読んだことがある。生きている間、不安はきっとなくならない気がする。

というか、そもそも生物にとって、不安は必要不可欠な気もしている。危機意識のない生物なんているはずがないからだ。ぼんやりしていたら、絶滅まっしぐらだ。生き物は、きっと常々不安がるようにできているのだ。

ただ過度な不安は、体調をわかりやすく壊す。不安をうまく飼いならすことが必要だ。僕もそれがイマイチ得意でないのだが、不安は当たり前、ままある感情だと思う訓練をしている。

不安で眠れない夜もある。それは今日だったりする。明日、大きな仕事の情報解禁を控えていて、そのことが心配でうまく眠れない。現在、午前4時を少し回ったところ。明日は午前9時から打ち合わせが入っている。

「眠らないといけない」

それを強く思えば思うほど眠れなくなってしまう。仕方がないので、僕はインスタントのコーヒーを入れて、いまこの原稿をノートパソコンに打ち込みながら飲んでいる。

ある人がアイスクリームを食べるとよく眠れるように、ある人はそれがメールチェックのように、僕はそれがコーヒーで、さらにはいま思っていることをカタカタと綴ることだということに、最近ようやく気づいた。

「ストレスフルなのは、ストレスの要因が漠然としているからですよ」と言っていたのは誰だっただろう。本当に忘れてしまったが、いまはそれがよくわかる。

不安の正体を突き詰めると、「恐怖」に変わる、と知り合いが言っていた。恐怖に感じることができたら、あとは正しく対処するだけだ。

もしくは打つ手をすべてやってみるだけだ。

それでダメなら仕方がない。

そんなことも生きていればいくらでもある。

世の中のすべてが実力勝負じゃない。たまたま風向きがこちら側だった、向こう側だったということもある。

とりあえず今夜はこのあたりで寝てしまおう。ヌルくなったコーヒーを飲み干し、明日のシミュレーションをして、歯を磨いたらベッドで目をつむってみよう。

明けないで夜

燃え殻
明けないで夜
2024/10/17
1,650円(税込)
176ページ
ISBN: 978-4838732944

人生の踊り場で聞きたい、
他愛のない大切な話たち
---TENDRE(アーティスト)

BRUTUS.jp×J-WAVE「BEFORE DAWN」「夜リラタイム」連載、待望の書籍化
“絶対的な安心感”が詰まった30篇とちょっとのエッセイ集

………

日常をなんとかやり過ごすためには、
映画館の暗闇の中のような絶対的な安心感が必要だ。
映画館の暗闇の中のような言葉や音楽。
誰にも教えていないパートナー、ひとりの時間。
寄り道と空想。
たしかな肩書きや名前の付いていない
あれやこれやが僕を支えている

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