27時過ぎの磯丸水産での会話は失恋話が8割? 男がついつい思いがちな「もしもう一度、彼女とやり直せたら」
集英社オンライン / 2024年11月28日 19時0分
〈「明日が来ないでほしい…」と深夜が苦しいのなら知ってほしい、疲れた都会の夕暮れ時の公園がくれる癒しを〉から続く
人気エッセイスト、燃え殻さんの『明けないで夜』には、眠れない夜に安心できるような、心落ち着くエッセイが収められている。
本記事では水原希子さんが出演した映画『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』に寄せた一編から一部抜粋・再構成して紹介する。
コミック雑誌なんていらない
「あれは「恋」だったのだろうか。3年付き合って、4回浮気された交際相手がいた。毎回別れるときは電話がかかってきて、「あのさ、好きな男ができたから、あなたとは別れたから」と過去形で伝えられた。
僕は完全に彼女の魅力に飲み込まれていたので、「ああ、そうなんだ。了解です」と抗う術もなく返し、毎回電話でフラれた。なにが「了解」だ。ビジネス電話か。そして毎回、半年くらいすると、彼女は新しい男に捨てられ、改めて電話がかかってくる。
「いまなにしてるの?」いつも一言目はそんな感じだった。
「いや、別に」ボクはそう電話で素っ気なさを演出しながら、もうちょっとでいい仲になりそうな女性の部屋にいて、ユニットバスに抜き足差し足、移動して、会話をつづけたこともあった。
「ね、今度、前に行った渋谷のレストラン行かない?」
彼女は電話口で呑気に言ってくる。そんなやり取りを、何度か繰り返すことで、これが彼女が戻ってくる合図なんだということを、バカな僕でも学習した。
彼女と一緒にいると、なにか盛られたんじゃないのか? と思われるほど、僕はずっと笑っていた。彼女は、笑いのツボ、驚くツボが人とはまったく違っていて、映画館でホラー映画を観ていたとき、見当違いの場面で「ギャー!」とひとりだけ叫んで、周りを驚かせたかと思うと、ものすごい陰惨なシーンで大爆笑したりする。
見ていてまったく飽きなかった。
「恋は病に似ている」と中島らもは言っていたが、症状としては、ワライダケに似ている気がする。そして、恋はワライダケ同様、最後は死に至ることさえある危険な病だ。
前言を撤回することになるが、いま改めて振り返ると、彼女は本当にそんなに面白かったのか? と疑問に思うことがある。でもそれこそが、恋という正体不明の病なのかもしれない。
美人で面白くてノリがいい子だから恋に落ちるわけじゃない。
恋という病にかかってしまったら、誰かから見たら平凡で普通なあの子が、美人で面白くてノリがいい子に見えてしまうのだ。
『奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール』
『奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール』の水原希子は、美人で面白くてノリがいい。それは、恋という病にかかって、そう見えてしまう世界に、主人公と観客が迷い込んでしまったからなのかもしれない。
重度の「恋」という病を患うと、別れたあとも簡単には思い出になどなってくれない。彼女のことを思い出すと、いつまでもかさぶたにならない傷口を眺めるような気分を味わうことになる。
心の中で、澱(おり)のように後悔だけが溜まっていく。ただ3年付き合って4回浮気された僕から言わせてもらうと、後悔は後悔のまま、その後悔と一緒に生きていくしかないと忠告したい。
「もしもう一度、彼女とやり直せたら」
そう男はついつい思いがちだ。磯丸水産の27時くらいの会話は、だいたいそんな話が8割だ。でも2歳差の人とは、10年経っても2歳差のように、うまくいかないふたりは何度繰り返してもうまくいかないものだ。
ちなみに僕は、あの浮気しまくりの彼女が4度目の浮気をして、「別れたいんだ」と言ってきたとき、「そうなんだ。了解」と、いつも通り軽く見送った。きっとまた、彼女は戻ってくるもんだと、心のどこかで安心していた。
だけど彼女はそのあとにこうつづける。
「彼と結婚することにしたんだ」と。さすがに「了解」という言葉の代わりに、「ん?」なんて本当の声が漏れてしまった。そして彼女はつづけざまにこう言う。「でも、君といるときみたいに、彼といるとドキドキしないんだけどね」と。
僕は「そのドキドキしないけど一緒にいたいと思う感情を、もしかして人は愛と呼ぶんじゃないか?」という台詞が喉まで出かかったが、そのまま飲み込んで、やっぱり間抜けに「そっか、了解」と言った。
この映画には、あのときの僕と、あのときの彼女が、そこかしこに映り込んでいた。東京湾をもがきながら泳ぐ妻夫木聡に自分を重ねた。コミック雑誌なんていらない。安直なハッピーエンドなんて人生の足しにならない。
今日、君が幸せだったら悔しい。でも不幸になっていてほしくない。
だから、どこか僕の知らない場所で、君は幸せになっていてほしい。エンドロールを観ながら、僕はそう切に願った。
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