大病してからでは遅い! 森永卓郎が痛感したスムーズな資産整理に欠かせない2つの作業とは
集英社オンライン / 2024年11月22日 11時0分
〈森永卓郎が経験した相続地獄と最大の失態とは? 期限の10ヶ月ではとても間に合わない遺産相続の信じ難い壁〉から続く
ふだんあまり使用しない口座の通帳や届け印がいつも手元に揃っているという人は少ないのでないだろうか? 大病を患った後では、複数の預金口座の整理をするのも大変な作業になることは想像に難くない。ステージ4のがん告知を受けた経済アナリストの森永卓郎氏も煩悶したという。
書籍『身辺整理』より一部抜粋・再構成し、資産整理の大切なポイントを紹介する。
自分の資産をリストアップしておく
膨大な労力を費やした末に、次々と父の口座を把握していくことができ、全部で数千万円の預金があることがわかった。
ただ、なかには苦労してつきとめた通帳に700円しか入っていないということもあった。
銀行員に「この通帳、どうなさいますか」と尋ねられた私は、咄嗟に椅子から立ち上がり、「放棄します」と言って、銀行を立ち去った。
筆舌に尽くしがたいほどの苦労をもってしても、父が持っていたすべての口座がみつかったかどうかは藪の中だ。
父の死後、業者に依頼して行った遺品整理の荷物に通帳が紛れていた可能性も否めない。
銀行は10年以上、取引が行われていない口座を休眠口座とみなす。
その総額は850億円にのぼるという。
もちろん口座の持ち主や遺族からの請求があれば払い戻しに応じるが、現実的に払い戻されるのは350億円程度で、残りの500億円は政府に納付される。
知らぬが仏とはいえ、事実上、相続税で100パーセント持っていかれるのと同じことだ。
父の遺産整理では煮え湯を飲まされた。
ただ人生に無駄はないと今になってつくづく思う。
相続地獄の経験がなければ遺産整理を甘く見ていただろう。
私の死後、家族を同じ目に遭わせるわけにはいかないという想いも生まれなかったはずだ。
私は父の遺産整理が終わるや否や、自分の預金口座、証券口座リスト作りを開始した。
リストはパソコンのハードディスクに保存していたのだが、数年前に私のパソコンのハードディスクが突然死してしまうという事件も起きた。
妻のパソコンにバックアップしてあったので事なきを得たが、今にして思えば、リスト自体が使い物にならない代物だった。
資産整理の2つのポイント
がんになってから私がまず挑んだのは、預金口座の一本化だ。
リストを作成してあるからと安易に考えていたのだが、これが大変な作業だった。口座と通帳と印鑑。ネット口座の場合は暗証番号が完璧に揃っていないと、本人でさえ金を引き出すのは極めて難しい。
どう難しいのかと言うと、数々の手続きを踏まねばならず、労力と時間がかかるのだ。
一本化を実際にやってみると、時代の変化を強く感じた。
父が亡くなった13年前と今とで一番大きく変化したのは金融機関におけるシステムだ。
わかりやすく言うと、父の時は思い立ったタイミングで銀行の店舗へ出向くと銀行員が対応してくれたが、今は完全予約制。
この予約はWEBから行う必要がある。しかも予約が取れるのが、1週間とか2週間先になることもある。
だから、手続きにとてつもない時間がかかるのだ。
予約ができて、銀行へ出向く日が決まっても安心するのはまだ早い。
私の場合、思わぬ壁に直面した。
昔は銀行で口座を開設した時に使用した印影が通帳に載っていたが、今はセキュリティ対策で、通帳自体に印影を残さなくなった。そのため、どの通帳にどの印を使ったのかわからなくなっていたのだ。ちなみに我が家には印鑑が11本もあった。
この場合、可能性のある印鑑を銀行で一つずつ試してみるしかないのだが、ここで注意すべきは思い込みだ。
思い込みとは怖いもので、こんな猫ちゃんのイラストの入った印鑑を通帳に使用するはずがないと候補から外して銀行に出かけたことがあった。最終的には、そのイラスト入りの印鑑が通帳印だった。
どうしてもわからないという時は印鑑変更をする必要があるのだが、同じ「銀行」というカテゴリーであっても、本人確認が必要だと身分証明の提示を求められるところもあれば、求められないところもある。すぐにやってくれるところもあれば、何日もかかるところもある。
忍耐力も求められる。
私は2024年6月にすべての銀行回りの手続きを終えた。だが、ただ一つ、暗証番号がわからなくなってしまったネットバンクが残っていて、ここは、暗証番号を変更できるまで、4週間もかかった。
ここで私の経験から資産整理のポイントを伝えると、
①資産リストは金融機関名と資産内容だけでなく、通帳の保管場所、その通帳で口座を開いた時に使った印鑑、暗証番号をセットとして捉え、資産リストを完璧にしておくこと。
②通帳を一本化する場合には、思いのほか時間がかかることを考慮したうえで、なるべく早い段階で動き始めること。
この2点を守ることが必須だと思う。
写真/shutterstock
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