〈名古屋3億円結婚詐欺〉大事故でリハビリ中の女性も2700万円の被害に「両手いっぱいの赤いバラで告白されて…」被害女性をも詐欺に加担させる驚きの手口
集英社オンライン / 2024年11月12日 18時54分
〈〈名古屋3億円結婚詐欺〉「姫、世界一愛してる」“偽社長”&“偽秘書”の連係で詐欺ざんまい…ノウハウを綴った刺青男の“ミッションノート”も〉から続く
「取れるものは根こそぎ取るのが、俺のモットーだ」2020年ごろから愛知県や近県在住の15人以上の女性を相手に、結婚詐欺でおよそ3億円もの金銭を騙し取った江尻舟一容疑者(51)と、その手下で秘書役だった武田佑気容疑者(32)。この2名は、なんと傷害保険をもらいながら生活していた無職女性から、2700万円もの金を詐取していた。被害者本人に手口を聞いた。
両手いっぱいの赤いバラで告白「俺でよければお付き合いください」
愛知県在住のDさん(46)は、40代前半で車に轢かれる大事故に遭い、足腰が不自由な生活を余儀なくされた。事故以降、リハビリの日々を送り、ようやく日常生活を取り戻してきたこともあり、長らく関わりのなかった異性との出会いを求め、マッチングアプリを始めた。
そうして2021年11月に出会ったのが、江尻容疑者だった。最初は通話するだけの仲だったが、2回目に会った際、Dさんから交際を申し込んだという。
「通話のときから印象がよくて、実際に会ったときも感じがよかったんです。だから、2回目で“この人を逃したくない”と思い、自分から告白しました。
すると江尻は『俺でいいの?』と言って、『これは俺から言わせて』と、3回目に会ったときに両手いっぱいの赤いバラを用意して『俺でよければお付き合いください』と言ってきました。その誠実な告白に、すごく惹かれてしまいました」(Dさん、以下同)
それ以降、江尻容疑者は月に何度かリハビリセンターに通うDさんの送迎も欠かさず行ない、さらに毎日のようにランチをご馳走してくれていたという。
「江尻は『多忙な経営者だけどなんとか時間を作っている』というていで、毎日のように私に会いに来てくれて、そのたびに『パワーもらえたわ!』と言って帰っていきました。最初のころから秘書役の武田も姿を見せるようになり、3人でランチをする日も増えました」
そして、前編記事で取材した被害女性Cさんと同じように、交際1ヶ月記念のデートの際に“事件”が起きた。
「Cさんと同じく、クリスチャン ルブタンの財布をなくしたという小芝居が始まりました。私の場合は、江尻と武田の2人でした。江尻が武田に『専務に電話しろ』とか『明日の支払いはどうしよう』と話し始め、『翌日までに1000万円が必要だ』と言っていました」
その慌てぶりを見て力になりたいと考えたDさんは、「いくらか貸そうか」と提案した。すると、江尻容疑者は「いや、そんな迷惑をかけられない」と一度は断ったという。
「だけど『どうしよう』と会話するうちに、江尻が『やはりいくらか借りられると助かる』と言い出し、最終的に400万円を貸すことになりました。
でも、私は愛知の自宅には銀行口座の通帳も印鑑も置いていなかったので、その旨を伝えると、『明日取りに行こう』という話になり……。翌朝6時に出発し、愛知から片道2時間の実家に、江尻と武田、私の3人で向かったんです」
Dさんの社会保険証を偽造。勝手に賃貸契約も
Dさんは「朝一番に入金しないと間に合わない」という江尻容疑者の言葉を信じ切り、往復4時間かけて愛知県に戻り、借用書も書かせずに口座から下ろした現金400万円を渡したという。
「そこからが地獄でした。江尻から『会社の口座が凍結したままだから、従業員の武田がマンションの部屋を借りられない。代わりに契約者になってほしい』と頼まれました。
でも、私は無職なので契約者にはなれないと伝えると、なんと江尻は私名義の社会保険証を偽造し、『これで大丈夫だから』と言って賃貸契約を結んでしまったんです」
さらに、江尻容疑者は「実は俺にはもう1人、秘書がいて……」と続け、前編にも登場したもう1人の秘書・浅野の携帯電話を契約してほしいと頼んできた。
「こうして時系列で話すと、『なんでそんなお願いを聞き入れたのか』と思われるかもしれませんが、とにかく江尻と武田の演技があまりにも迫真で……。まるで言うことを聞かないといけないような気持ちにさせられてしまったんです」
こうしてDさんの口座からは、毎月の賃貸料18万円と携帯代20万円前後が引き落とされることになった。その後も、江尻容疑者の「会社の新プロジェクトのために1300万円が必要だ」という言葉を信じ、Dさんはお金を貸し続けてしまった。
「武田からは『姫のために社長も必死なんです』と言われ、江尻からも毎日のように『ごめん。近日中に必ず倍以上にして返す』と言われ続けました。私も当時は江尻のことが好きで、なんとかして協力してあげたいという気持ちから、つい貸してしまったんです」
そうこうしているうちに、Dさんはあっという間に約2700万円もの金を江尻容疑者に貸してしまったという。
「結局、江尻と頻繁に会えたのは出会ってから最初の半年ほどで、そこからは1年半以上、会えない日々が続きました。そんななか、江尻と逮捕直前まで一緒にいたBさんから電話があり、江尻が結婚詐欺を繰り返していたことを聞かされたんです」
前編記事で取材に協力してくれたBさんは、実は江尻容疑者から勝手に「仲介役」的な役割に仕立てられていた。Bさんは、次のように言う。
「実は、私は江尻とバーで知り合い、他の被害女性たちと同じように交際することになりました。金の無心もされましたが、私は貸しませんでした。
でもその後、江尻は結婚詐欺で騙した女性たちに金を返すと交渉し、穏便に解決するために『弁護士を紹介してほしい』と頼んできたんです。さらに、被害女性たちに連絡して仲を取り持つようにと言われたのです」
Bさんは、江尻容疑者から「取れるものは根こそぎ取るのが、俺のモットーだ」という言葉も聞いたという。そうしてBさんはDさんに連絡を入れて江尻の本性を伝え、「2024年末までにはすべての借金を清算させる」ことを約束させた。Dさんは言う。
「私はてっきり2024年末には解決すると信じていたのですが、10月11日に江尻が逮捕され、もうお金は戻らないとわかり絶望しました。この体では働けないし、これからどうやって暮らしていけばいいのか。あれ以来、頭痛薬と安定剤、睡眠薬が欠かせません」
「こっちは困っているんだよ!」「お前カネあるだろ!」
このほかにも、友人から借金をしてまで江尻容疑者に金を渡してしまった女性がいる。そんな被害者のEさん(58)は、次のように語る。
「江尻から『16億円のプロジェクトが進行中だが、口座が凍結して金が動かせない。倍にして返すから、100万円貸してほしい』と言われました。抱きしめられて、『助けて。100万円がないと計画が終わってしまう』と言われたのですが、私には手持ちがなかったので、長年の友人に頼み込んでお金を借り、それを江尻に渡してしまいました」
その後、あの手この手で頼み込まれ、何度か貸すうちに、最後には江尻容疑者から毎日のように「こっちは困っているんだよ!」「お前カネあるだろ!」と脅され、さらに武田容疑者からも「社長の言うとおりにしてくださいよ!」と迫られるようになった。
最終的には、友人や会社の知人など複数名に金を借りてまで、江尻容疑者に渡すという事態に発展したという。
「毎日のように脅されて怖かったです。最終的に、総額700万円近くのお金を友人知人に借り、すべて江尻に渡しました。そのうちの48万円は離婚した元夫に頼み込んで返してもらいましたが、残りの600万円近くは今後、私が少しずつ返していくしかありません……」
さらに、Eさんは江尻容疑者らに脅され、他の被害女性に対して「事務員」のふりをして電話をかけさせられたこともあったという。
「江尻から金を返してもらえず怒っている女性に対して、『もう少々お待ちください』と電話で伝えるよう指示されて……。手伝わなければお金を返してもらえないと思い、断ることができませんでした。
現在、私はアルバイトで働いていて、月収20万円ほどの稼ぎで細々と暮らしています。今後、友人知人に毎月1万円ずつでも返していくつもりですが、毎日が地獄のようです」
被害女性たちが口々に「まるで洗脳されたようだった」と振り返る、江尻容疑者と武田容疑者による大規模な結婚詐欺事件。被害女性であるBさんやCさん、Dさんが実際に会ったもう1人の秘書役・浅野は消息を絶っており、警察は現在その行方を追っている。
果たして、この事件の全貌が明らかになる日は来るのだろうか。
取材・文/河合桃子 集英社オンライン編集部ニュース班
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