佐々木朗希を批判するのは老害? 移籍問題で日本社会の“悪い慣習”が浮き彫り「育ててもらった恩とか昭和か?」
集英社オンライン / 2024年11月12日 17時6分
ポスティングシステムを利用してのメジャー挑戦の動きが明らかになった、プロ野球選手の佐々木朗希投手。この挑戦に対して、国内では賛否が真っ二つに割れている。
70億円の機会損失にロッテファンは…
佐々木は常々、MLBへの憧れを表明していたが、それを阻んできたのは“25歳ルールだ”。MLBでは25歳未満の海外選手を獲得する際には、マイナー契約しか結べないというルールが導入されており、これによって契約金や年俸の上限も低くなっている。
佐々木が所属していた千葉ロッテマリーンズが、佐々木を獲得したメジャーの球団から受け取ることができる譲渡金も、これに応じて低くなってしまい、ロッテとしてはうまみが少ない。
そこで、25歳まで日本でプレーしたのち、多額の譲渡金を球団に残せるかたちでメジャーに挑戦するのが“道義”であると、ロッテファンのみならず、そのほかの日本プロ野球のファンからも言われていたのだ。
現在、佐々木は23歳。あと2年待てば、何十億円もの利益をロッテにもたらすことができた可能性は高い。
これについては今年度からメジャーへ行き、ロサンゼルス・ドジャースに入団した山本由伸が理想的な例とされており、彼は12年総額3億2500万ドル(約465億円)の超大型契約を結んだことで、オリックスには5062万5000ドル(約72億円)の譲渡金が入ることになった。
仮に今オフ、佐々木がメジャーに移籍したとして、ロッテに支払われる譲渡金は3億円未満とされている。佐々木クラスの選手ならば、活躍次第では2年後に山本と同じクラスの契約をできた可能性もあるだけに、ロッテは約70億円もの機会損失をしてしまったのだとファンは嘆いているのだ。
SNSを見ると、過激な言葉で佐々木を責める声も多く確認できる。
〈メジャーに行くことで球団にメリットがないならそれはファンに対する裏切りでしかないんよ〉
〈佐々木朗希すげーな。大不義理にも程がある〉
〈そんなにロッテが嫌いか? なら俺もお前のこと大嫌いだわ〉
〈球団の意向一切無視、それどころか恩を仇で返すだけの自己中選択はさすがに引く。球団への感謝とか人の心ないんか〉
佐々木の今回のメジャー移籍をロッテが許したことで、NPBの“悪しき例”ができてしまったと嘆く声まである。
社会人としては当然の決断? 擁護派の意見
ただ、それと同じかそれ以上に多いのが佐々木を擁護する意見だ。佐々木を“わがままな子ども”だと指摘する声もあるが、自分の夢を我慢してまで球団やファンのために尽くせという意見こそ、老害的で“古い大人”の意見だとする声もある。
そもそも、佐々木の今回の移籍は本当に不義理なのだろうか。
日本人メジャーリーガーが、ウン十億円という年俸をもらって夢の舞台でしのぎを削っているのに対して、佐々木は年俸8000万円。そんな中で、球団で数々の記録を打ち立て、チームの勝利に貢献し、グッズ販売も含めて多額の利益をもたらしてきた。給与に見合った活躍は十分にやってきたはずだ。
さらにあと2年といえど、スポーツ選手にとっての2年はあまりにも大きい。この2年で佐々木がケガなどをして、夢だったメジャーに挑戦できないことになったらどうなるのか。2年待てば巨額の譲渡金というのも、あくまで仮定の話でしかなく、保証された未来などない。
会社や集団への義理や恩義を重んじるあまり、個人が夢をあきらめなければならない風潮に疑問を抱く人も多い。
〈育ててもらった恩とか言われちゃうと昭和か? と返したくなる。一社会人の転職として考えたら良い選択でしょ〉
〈ロッテ佐々木朗希に「恩を返せ」って言ってる層って会社で辞めていく人に「恩知らず」って言ってる人と一緒じゃね? つまり老害。恩って何? 契約して仕事してただけだろ〉
〈佐々木朗希が叩かれまくってて、老害大国ニッポンを実感する〉
元参議院議員の外山いつき氏も、今年4月に自身のXにて、メジャー挑戦を希望する佐々木が“裏切り者”扱いされてしまうというニュースをとりあげ、〈なぜ、社会は若者の高い志を批判するのだろうか?もっと佐々木選手を見守り、彼の夢を後押ししてあげるべきだ〉と、日本社会の問題を指摘しながらコメントをしていた。
佐々木朗希を縛るのは日本社会の衰退を意味する
今回の佐々木のメジャー挑戦表明について外山氏はどう思っているのだろうか。
「野茂英雄氏がメジャー挑戦した時も同じような批判があったが、30年前のあの時代は“終身雇用”の名残りもあり、社会も時代も旧態依然としているものがあった。当時と今は、時代も社会も大きく変わり、動いているのに、どこか社会の風潮だけは未だに旧態依然としたものがある。
佐々木選手のメジャー挑戦に対して、球団に対する恩義や貢献度をあげて批判する方もいるが、彼は球団との契約の中で毎年結果を残し、年俸という形で評価を受けている。球団への恩、会社への恩。見えないもので縛ろうとするのは日本社会の悪い慣習であり、それが日本の生産性を下げているところもある。
能力を買われて、ヘッドハンティングされ、必要なところで、その能力を発揮するのは欧米はもとより、今の日本でも当たり前になっている。そして、それが失敗した場合は自分で責任を取らなくてはならない。誰にも責任はとれない。彼が日本球界で野球を続ければ、安泰だろうし、環境的にも楽だとは思う。
そんな、「安全地帯」からあらゆるリスクを取ってでも、大きな夢に挑戦する若者は希望の星である。若者の大きな志、挑戦を、批判し、縛るような社会であるならば、日本は衰退していく。我々は佐々木選手を温かく見守り、彼の挑戦を応援してあげるべきです」
またそもそも、佐々木とロッテの間には、“入団から5年経過したらメジャー挑戦を認める”との約束が入団時に交わされていたという説もある。そのため、この件で佐々木はもちろん、ロッテの決断についても、外野がどうこう言う話ではないのかもしれない。
なにはともあれ来年、夢の舞台で佐々木が笑っている姿を見るのが楽しみだ。
取材・文/集英社オンライン編集部
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