「皮の中まで洗ってほしい」性欲旺盛な80歳の男性から女性介護職が受けたセクハラ行為…介護難民が増加する問題の背景
集英社オンライン / 2024年11月14日 17時0分
介護職従事者を利用者の迷惑行為(セクシャルハラスメント等)から守ることを、2020年(令和2年)に事業所に義務化された。現場でのセクハラ対策はどう変わったのか、世界15か国を訪問し、各国のホームヘルパー事情などに詳しいホームヘルパーの藤原るかさん(69歳)に聞いた。
トラウマから結婚できなくなる女性ヘルパーも
法改正前は、セクハラがあっても、事業者側は契約の解除が難しかったという。藤原さんが経験しただけでも、ひどいハラスメント行為があった。
「肩を抱かれる、胸や手を触られることがあります。入浴介助中に、男性器の皮の中まで洗ってほしいと言われたり、トイレ介助中にかがんでいると、股間に顔を抑え付けられ、口淫性交を迫られたりすることもありました。
“出来心で……”などと言い訳をする男性がいますが、これは犯罪です」
そういった悪意のあるケースばかりではない。
「感情失禁(些細な刺激で大喜びしたり、激怒したり泣いたりするなど、感情が刺激とは不釣り合いに過度に出てしまう状態)があったり、パーキンソン病のような症状がある認知症の高齢者には、幻聴・幻覚・幻視があることがあります。
私を奥さんと間違えてベッドに押し倒す、就寝介助のときに、ベッドに引き込まれるといったこともありました」
ハラスメントを行う男性は、独身者や妻を亡くした男性や地位の高い人に多いという。
「そういった時には、まずは口頭で『何をするんですか! ふざけないでください』『これは犯罪です! ここにはもう来られなくなります』ときつく言います。
だけど、相手は高齢者や障害者であっても、男性なので、力ではかないません。自分の身を守るために、相手がケガをしないように気をつけながら、突き離したり側を離れたりすることもあります」
藤原さん自身はこうしたトラブルに対する知識があったため、トラウマにはならなかった。
だが、友人には20代の頃に受けたセクハラのトラウマで、40代の現在も結婚が怖いと独身を貫いているヘルパーもいる。
力で対抗できる男性と違い、女性介護従事者の受ける精神的なダメージは大きい。うつなどの精神疾患を発症する女性もいる。
どこの事業所からも断られ「ヘルパー難民」になる人たち
一方でセクハラを繰り返し、どこの事業所からも、サービス拒否をされ「ヘルパー難民」になる高齢者もいるという。
「プライバシーの問題もあり、ブラックリスト化されているわけではありません。ですので、現状では引っ越してしまえば分かりません。
サービスを拒否できるようになったことや、時代とともに男尊女卑の考えが薄まったことで、深刻なケースは減ってきています。
ですが、高齢者の性欲は、90歳を過ぎてもあります。根本的な解決には、国が予算を割くしかないでしょう」
だが、2024年度の介護報酬改定により、訪問介護事業所の報酬は改悪された。
2024年上半期の「介護事業所」の倒産件数は95件で、そのうち「訪問介護事業所」の倒産は46件と記録的に増加している。
同性介助が理想…だけど、圧倒的に足りないヘルパーの人数
藤原さんは、セクハラやそれに伴う「ヘルパー難民」問題の背景には、ヘルパー不足があるという。
2024年のヘルパーの有効求人倍率は、15.5倍で、成り手がいない状況が続いている。
「ホームヘルパーの7割はパートタイムの登録ヘルパーで、時給はよくて1400円から1500円です。しかも、移動時間やキャンセルになったとしても、利用者宅から別の利用者宅への移動時間は、無給です」
介護・福祉の世界では、同性が同性をケアするのが望ましいとする「同性介助の原則」があるが、それは介護現場の実態とは異なる。
「特にホームヘルパーの世界は女性が圧倒的に多いです。それは、暮らしを支える生活支援(家事のサポート)が6割方の仕事だからです。
増えてきているとはいえ、男性は少ないです。同性の前でならば裸でも問題ないでしょうが、どうしても数的に異性が介助をすることになります」
また、世界各国のホームヘルパーサービスを視察してきた藤原さんは、日本の政策の遅れや人権意識の低さを指摘する。
「日本では、1つの訪問介護事業所を作るのに、2.5人で作れるというのが厚生労働省の基準としてあります。ですが、現実には、その人数では、根本的なハラスメント対策はできません。
韓国では、その基準が15人に変更されました。最低、それくらいの人数がいないと、取り組めない難しい課題です。
また、日本では高齢者の性の問題は語りにくい空気があります。介護職の資格の教科書でも、高齢者の性に関する部分は数ページです。韓国では、介護士向けの教科書で、1章を割いて、高齢者と性を勉強します。
高齢者と性の問題は、本能的な問題です。特に若い人が業界に入ってきて驚かないように、教育システムの充実も大切だと思います」
EUでは、同一の仕事内容ならば同一の賃金を支払うべきという、「同一労働同一賃金の原則」を重視し、看護師と介護士は世界基準で同一の待遇を受けている。日本では、介護職の賃金は低い。
これでは、進む高齢化に対応できるだけのヘルパーの確保は難しい。
「日本は文化的に、性的なことは秘められるべきという考えが強いです。だから、ヘルパーたちが被害にあっても、相談しにくいです」
だが、本来サービスが必要な高齢者・それを介護するヘルパーのどちらの人権にも配慮しなければ、双方が不利益を被る状況は変わらない。
セクハラとヘルパー難民の根本的な解決には、介護職への待遇やヘルパー側の教育システムの見直し、メンタルケアの充実が急務だ。
取材・文/田口ゆう
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