「50歳をすぎて歌う『深夜高速』はヤバい。死ぬってことがよりリアリティを持って…」 フラワーカンパニーズの名曲はなぜここまで愛され続けているのか
集英社オンライン / 2024年11月23日 17時0分
〈〈名曲『深夜高速』誕生秘話〉「いちばん恥ずかしいことを歌にしろ」マネジメント契約終了に離婚…社会に必要とされない35歳が自らを赤裸々に歌うと…〉から続く
「深夜高速」の発表によって、バンド活動がいい方向に上向きはじめたフラワーカンパニーズ。大ヒットしたわけではないが、発表から20年、なぜここまで愛され続けているのか。来年には10年ぶり2度目の武道館公演を発表したバンドの現在地を、ボーカルの鈴木圭介に聞く。〈前後編の後編〉
【画像】2004年にリリースされた「深夜高速」1曲だけカバーの、常識破りなトリビュート・アルバム
バンドの快進撃…全曲「深夜高速」のトリビュートを発表
2004年にリリースされた「深夜高速」が、インディーズ活動の大きな原動力になったフラワーカンパニーズ(以下フラカン)は、順調にライブの動員を伸ばし、「アンダーグラウンドだが、すごいライブをやっているバンド」として、同業者やロックファンの間で評価されるようになる。
おもしろいB級バンド、というイメージから脱却できなかった、第一期メジャー時と大きく変わったのは、そこだった。
その後、ソニー・ミュージック内のアソシエイテッドレコーズから契約の話があり、2008年にメジャー復帰。
2009年には『深夜高速−生きててよかったの集い−』というアルバムが作られた。斉藤和義、金子マリ、怒髪天、泉谷しげるなど11組のアーティストが、「深夜高速」1曲だけをカバーしているという、常識破りなトリビュート・アルバムだ。フラカンもセルフ・カバーした「2009年バージョン」を収録している。
当時をフラカンのボーカル、鈴木圭介はこう振り返る。
「あの企画は、レコード会社のA&Rのスタッフのアイデアで。『え、そんな企画あり?』って思ったんですけど。当時は誰も……海外ではあったみたいなんだけど、日本ではなかったんじゃないかなと。こちらはそのアイデアに乗っかっただけですね」(鈴木圭介、以下同)
9年間続いた2度目のメジャー期の間に、フルアルバム4作、ミニアルバム1作、ベストアルバムやトリビュート・アルバム等を5作リリースし、2015年には初となる日本武道館ワンマンも成功させたフラカンは、2017年にインディーズへと戻り、自らのレーベル「チキン・スキン・レコード」から作品を発表するようになる。
「あの曲を超えようとは、もう思っていない」
その4年後、コロナ禍が続いていた2021年頃から、また「深夜高速」にスポットが当たるようになる。11月に、岡崎体育が主演するSMBCグループの企業コマーシャルに、彼がカバーして歌う形で「深夜高速」が起用されたのだ。
この「出演俳優が歌うSMBCグループのCM」はシリーズ化し、三浦透子、岸井ゆきのと続き、今年2024年には、ラグビー日本代表の選手たちが出演し、フラカンが新録した「深夜高速」が流れるバージョンと、岡崎体育と古川琴音が出演し、古川琴音が歌うバージョンが作られた。
また、2022年から年に1回のペースで、下北沢の小劇場B1で「それぞれの深夜高速」というイベントも行われている。この曲に強い思い入れを持つ、人気お笑い芸人が“生きててよかったと思える夜を探し出す話”を披露した後に、真剣に「深夜高速」をフルで熱唱するというもので、圭介は「特別審査員」として毎年招かれている。
そのほかにも、TEAM-ODACという劇団が、フラワーカンパニーズをモデルで「原案」とした『僕らの深夜高速』という演劇を、2014年に上演。2015年と2021年にも、再演・再々演を行っている。
というふうに、同業のミュージシャンたちにカバーされる以外にも、演劇やお笑いなど、他ジャンルのクリエイターにも影響を与えているのも、「深夜高速」の特徴と言える。圭介は「SMBCのCM以来、岡崎体育くんの歌だと思っている人もいるみたいです」と笑う。
「もちろんカバーしてもらえるのもうれしいし、CMなどで使ってもらえるのもうれしい。他ジャンルの……ヒップホップの人とか、2.5次元の人とか、VTuberの人とかからも、いっぱいカバーの申請とかもいただいてるみたいで。
カバーに関しては基本的にはお断りすることはほぼなく、どうぞよろしくお願いしますっていう感じです。
そういうお話をもらうことで、メンバーはそれほど一喜一憂はしてないですね。ただ、今もそうやってカバーしてくれたり取り上げてくれるってことは、この曲になにかがあったんだろうなあと。作ったときはよくわからなかったけど、すごくリアリティがあったってことなのかな、と。
あの曲は当時のバンドのこと、自分のことを、そのまま歌ってるだけで……僕らの他の曲もみんなそうなんだけど、この曲は特にわかりやすかった。響いた、ってことなのかなあと思います」
バンドにとって、このような圧倒的な曲の存在は、「ライブで必ずあの曲をやらなければいけない」という制約になったり、「あれを超える曲ができない」というプレッシャーになったりすることもある。フラカンにもそういう時期はあったそうだが、それはもう乗り越えた、と圭介は言う。
「新曲を作るときに、あの曲を超えようとかは、もう思っていないし。あと、不思議なもので、正直歌いたくないなと思ってた時期もあったけど、最近は、まったくないですね。
その当時のことを思い出しながら歌う、とかじゃなくて、今の自分のリアリティとして歌っているので、改めて今届くのかな、というか。
年をとったからなのか、50歳をすぎてからの方が、死ぬということに、すごくリアリティも出てきている。
40代は『この曲はもういいでしょう』って思う時期もあったんだけど、今は『いや、歌ったほうがいいでしょう!』みたいな感じ。今の『深夜高速』は、自分で言うのもなんだけど、ヤバいんじゃないかなと思います。気持ちがすごくのっかっているから」
10年ぶり、2度目の武道館という挑戦
今年9月14日、京都でのイベントに出演したフラカンは、2025年9月20日に、10年ぶり2度目の日本武道館ワンマンを行うことを発表した。
10年前頃、ライブハウスで活動を続けるベテランロックバンドが初の日本武道館に挑む、というトライアルが続いたときの仲間たち、怒髪天とピーズとの共演だったので、その場での発表を選んだそうだ。
「ちょっと前から、『武道館、もう1回やるのはどうだ?』っていう話は出ていて。でも『まあまあ』とか言ってお茶を濁してたんですけど、1年ぐらい前、グレート中心にメンバーでちゃんとその話し合いをする場を設けました。
そこで……僕と竹安(竹安堅一。ギタリスト)は、最初は『いやあ、無理じゃない?』とか言ってたんですけど。でも、年齢も年齢だし、年をとったらもっとできなくなるし、やるなら今なんじゃないの? っていう意見に、そうだなとも思って。
バンド自身もライブも、今いい状況だなという実感はあったし、ここでやらないと……この先バンドがいつまで続けられるかはわからない。
もちろん続けるつもりだけれど、もし誰かが体調を崩したら、とか何が起こるかわからないのもあって。やれるうちにやっておいた方がいいんじゃないの? っていう」
その挑戦に不安はないのか。
「10年前の最初の武道館のときみたいには、もちろんうまくいかないとは思ってます。それでも、やれるのは今じゃないか……っていう。
僕も竹安も『まあ、考えてみれば、そうだな』と。お客さんが全然入らなくてコケたとしても、まだなんとかなる体力も状況もある。やらないという選択はないかも、と。
そこから、ライブのスタッフとかにも相談して……そうは言っても、武道館って簡単に押さえられる会場じゃないので、取れるかどうか待ちましょう、ってなって、それからしばらく時間が経って、発表したほんとうにちょっと前に『2025年の9月20日が取れます、どうする?』っていうことになって。
もう1回メンバーで意思確認して、『よし、やろう』と。
1回目の時は、ソニーに所属していてレーベルスタッフの後押しもあったし、なにより先に武道館をやってくれた怒髪天とか、まわりのバンドやそのスタッフ、各地のイベンターさん、とにかくみんなの『やってほしい』という思いを感じていたから、やろうと決めたんですけど。今回は完全に4人で決めたから。そこが10年前とは違います。
まあ、楽しみというより、もう決めちゃったから、やるしかないですね(笑)」
取材・文/兵庫慎司 撮影/マスダレンゾ
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