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「不快な思いをしたり、心を痛めた方がいるから記事になったのではないか」甘糟りり子が松本人志の謝罪を謝罪と思えない理由

集英社オンライン / 2024年11月14日 18時5分

今年1月、「週刊文春」で報じられたダウンタウン・松本人志の飲み会での複数女性に対する性加害疑惑。松本側は「事実無根」を主張、名誉毀損だとして、文藝春秋社に対して5億円を超える賠償を求める訴訟を起こしたが、11月8日、その訴えを急遽取り下げた。その顛末に、作家の甘糟りり子氏は疑念と危惧を持つ。

松本人志の謝罪の意味するものとは

これほど不誠実な謝罪もめずらしい

松本人志は週刊文春を相手に「筆舌に尽くし難い精神的損害を受けた」との理由で、5億五千万円の損害賠償を請求していた。それが11月8日に突然訴えを取り下げた。11日には女性たちが証人として出廷する予定だったという。週刊文春は女性たちへの公な謝罪を条件に取り下げに同意。


松本人志による記者会見はなく、コメントを発表した。もしかして「謝罪」と思われるのはこの部分である。

「参加された女性の中で不快な思いをされたり、心を痛められた方がいらっしゃるのであれば、率直にお詫び申し上げます」

あくまでも仮定のような物言いには驚く。不快な思いをしたり、心を痛めた方がいるから、週刊文春の記事になったのだ。これほど不誠実な謝罪もめずらしい。率直なお詫びなんかではないし、そもそも謝罪になっていない。自分は認めないと言い張るのなら、きちんと裁判で証明すればいい。

松本人志を擁護して、復活させたいメディアや関係者はやたらと「強制性の有無を示す物的証拠はないこと」を強調して発信するけれど、だからといってイコール強制的な性行為がなかった証明にはならない。それ以前に飲み会の間はスマホを没収しておいて証拠がないとは、あたかもこうした未来を予想してスマホを取り上げた気さえする。まるで闇バイトの世界ではないか。

松本人志側が自分の提訴を取り下げただけであって、彼の言い分が通ったわけでも、性加害がなかったと証明されたわけでもない。それをあたかも「裁判が終わって、潔白が証明された」ように報道し、芸能活動の復活への道筋を作ろうとすることに危険を感じる。

この件に関しての元テレビ朝日法務部長の西脇亮輔弁護士を取材した記事を読んだ。同氏は本件の裁判記録を回覧し続けてきたという。擁護する人たちにはぜひこれを読んで欲しい。告発した女性たちへの嫌がらせとも取れる要求は脅しというように私には見えた。それについて擁護する人たちがどう思うのか知りたい。

あまたの吉本興業関連の「芸人」と呼ばれるタレントたちや厚顔無恥の立川志らくみたいな「お仲間」たちが真実を知ろうともせず(中には知っている人もいるのかもしれないが)、強い者=吉本興業に撒かれるが如く彼を擁護するのは想像がついた。

三谷幸喜さんまでそう言うのか

しかし、三谷幸喜さんまであんなコメントをするとは意外だった。

「どういう風に復帰されるのかというのが気になる」だの「あんまり考えたくないが、(松本氏は)ちゃぶ台ひっくり返す人でもあるから、やめちゃうんじゃないか」だの、挙句は「どれだけ彼が現状に腹を立ててるか、ということになってくるのかなって気がしますよね」ときた。

真っ当な反応を期待してわざわざテレビを見ていた私は、思わず、はあ??? と声が出てしまった。

腹を立てるのだとしたら、飲み会に誘われて、いきなりスマホを没収されて、意にそぐわない性行為を強要された女性たちだ。松本人志に腹を立てる権利などない。脚本家であり演出家だから演者の立場を慮る方なのだと推測はしてみたけれど、あの発言には心底がっかりした。怒りを創作の源にできるのはその怒りが純粋なものだけだ。三谷幸喜さんは弱い立場の人への視線がある人だと思っていたのになあ。

媒体の中には、レギュラー番組への復帰だけではなく、なんと大阪万博のアンバサダーへの復帰も視野に入っているなどと書いているものもあった。多額の税金が投入され、海外からの関係者や来場者も多い万博である。そんな催しで、性加害の疑惑があり、自分から潔白を証明する機会を放棄した人物をアンバサターとして起用するなどということがあり得るのだろうか。なんでもかんでもグローバルスタンダードがいいとは思わないが、さすがにこれは恥ずかしい。こんな起用は先進国ではあり得ないはずだ。

「有名人との飲み会」と称して後輩たちに好みの女性たちを集めさせ(女性の好みをリストにまでして)、その中で気に入った女の子と自分が二人きりになるように仕向け、強引に性行為をする。性加害にあった女性が勇気を持って告発したら、「名誉毀損」と「損害賠償」で媒体を訴え、それでも勝ち目がないと踏んだら自分から訴えを取り下げ、被害女性がいないかのようなコメントをし、あたかも潔白が証明されたかのように報道してもらい、それをきっかけに芸能活動の復帰を画策する。不倫で干されたタレントもいるというのに、性加害の疑惑を晴らさないまま復帰をしようとしているのだ。

性加害を別の言葉でいうなら「レイプ」である。松本人志ではもう笑えない、一連の対応がダサ過ぎて落胆した、との声も多く読んだが、笑える笑えないダサいダサくない以前の問題である。

日本の芸能界、マスコミ業界、こんなやり方がまかり通ってしまって、本当にそれでいいの? ハーヴェイ・ワインスタインとジャニー喜多川の意見を聞いてみたいものだ。

文/甘糟りり子

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