〈兵庫県知事選〉斎藤前知事、猛追の背景に「当選を目指さない」NHK党・立花氏との“二人三脚”…異例の選挙戦は「割れる自民票」がカギに
集英社オンライン / 2024年11月15日 7時0分
〈〈兵庫・出直し知事選〉「斎藤か斎藤以外か…」SNSでは前知事への支持が広がるも「人が死んでるんやで!」の声…対抗馬は異例の自民・立憲が推す前尼崎市長〉から続く
斎藤元彦前知事(47)の失職に伴い、11月17日に投開票が行なわれる兵庫県知事選挙は、自民党県議の多数派と立憲民主党などが推す前尼崎市長・稲村和美氏(52)を、再出馬した斎藤氏が猛烈に追い上げている。「当選を目指さない」と言いながら立候補し、斎藤氏を応援する演説を繰り返すNHK党党首・立花孝志氏がネットで持つ影響力が、斎藤氏を後押しする異例の選挙戦となっている。
NHK党・立花氏登場に「来た、来た」
「いろんな人から『辞めてくれ』と言われました。でも僕が今までやってきた政策、方向性は決して間違っていなかった。『絶対にやめるわけにはいかない』、そんな思いでこの半年間、歯を食いしばってがんばってきました」
11月12日夜、JR加古川駅前で斎藤氏がそう訴えた場にも300人超とみられる聴衆が集まり、拍手と「負けるなー」との激励が飛んだ。
だが斎藤氏の演説で目を引くのは聴衆の多さだけではない。斎藤氏が現場を離れても、半数以上の聴衆はその場を動かない。約5分後、「来た、来た」の声と拍手が上がる。
到着したのは黄色い選挙カーに乗ったNHK党党首の立花孝志氏だ。マイクを握ると「NHKをぶっ壊ーす」とのキメ台詞を言った後、「斎藤氏は陥れられた」と訴える演説を始めた。
「(斎藤氏は)名誉棄損のビラまかれたのだから、犯人をとっとと捕まえるのは当たり前。あれ、(告発者の元県民局長を)殺したのは県議会の奴らですからね」(立花氏)
立花氏の言葉は何を指すのか。
3月に当時の兵庫県庁・西播磨県民局長Aさん(60)が、「斎藤知事はパワハラやタカリを繰り返しており、不審な公金支出もある」との告発文書をメディアなどに送った。送付者を特定した斎藤知事らはAさんに懲戒処分をかけたが、告発に信ぴょう性があるとみた県議会は調査特別委員会(百条委)を設置し、調査に乗り出した。
ところがAさんは7月に急死。「一死をもって抗議する」との言葉を遺しており、自死とみられている。
その直前には、当時の県幹部がAさんの公用パソコンの中にあった個人情報を持ち歩き、県議の一部が百条委での公開を要求していた。Aさんはこの個人情報が出回るのを恐れ、百条委側に公開しないよう求めていた。
公益通報者保護法が内部告発者探しを禁じていることもあり、Aさんの死やその前後の県の動きを問題視した県議会は、斎藤氏が告発文書に不適切、不十分な対応をして県政を混乱させたとして9月に不信任決議を採択、知事失職と今回の再選挙につながっている。
斎藤、立花両氏の“二人三脚”で稲村氏に数ポイント差まで肉薄
兵庫県の関係者はこう語る。
「Aさんのパソコンにあった個人情報は違法行為を示すものではありませんが、他人に知られたくない内容だったようです。当時の県幹部は告発内容とは無関係のこの情報を県議らに知らせてAさんを貶め、『こんな人間の言うことは信用できない』と印象づけようとしたとみられます。そのため情報の中身は、百条委もメディアも触れてきませんでした。
しかし立花氏は候補者としての街頭演説で、“個人情報の内容”とするものを公言しながら告発文書を「名誉棄損のビラ」と呼び、ネットで発信しています。これにより、『Aさんはこれが公になりそうなら自分は闘えない、と県議らに訴えたのに、斎藤知事を引きずり降ろすチャンスだとみた反斎藤派が相手にしなかったので自死を選んだ』という見方と、斎藤知事は悪くない、という受け止めがネットで一気に広がったのです」(兵庫県関係者)
立花氏は斎藤氏の演説の直後に同じ場所で演説を行なうことを繰り返している。演説会に来た50代の女性は「斎藤さんが立場もあって言えないことを立花さんが代わりに言ってくれるから両方を聴きに来たの」と話した。
「立花氏が言う個人情報の“内容”は当然県当局が確認したものではありません。個人情報だからです。しかし、『マスコミや県議会の側に問題があるのに報道に騙された』と考え始めた人は、当局が確認しないことも不審の目で見るようになっています。
斎藤、立花両氏の“二人三脚”の効果は絶大で、報道各社の世論調査では、斎藤氏は稲村氏に数ポイント差まで肉薄しています。斎藤陣営は上げ潮で、逆転する可能性はあるでしょう」(県政界筋)
“斎藤氏はそもそも選挙に出る資格がない”と抗議する人が演説会に
地元記者は選挙戦についてこう話す。
「13日に神戸市で行われた斎藤氏の演説には500人超が集まったとみられます。ただ、斎藤氏の演説に通行人が足を止めて加わることは少なく、聴衆の規模は不自然なほど最初から最後まであまり変わりません。演説日程をSNSで知り、足を運ぶ人が多いようです。多くの場合、その後に現れる立花氏の演説を聞いた聴衆は立花氏に記念撮影やサインを求め、長い列ができます。
一方、県議を2期、尼崎市長を3期務めた稲村氏は演説が巧みで、聴衆の規模は斎藤氏よりかなり少ないですが、演説を聞く人がだんだん増えてくるのが特徴です。通りがかりで話を聞いてみようと思う人が多いようです」
他方、SNSやYouTubeでは斎藤氏の支持者や立花氏の発信が圧倒的に多い。「私たちはネットはよく分かりません」と候補者本人も言う稲村陣営も巻き返しを図るが、11月12日にはXの応援アカウントが立ち上げた直後に凍結された。陣営関係者は「アカウントに問題があるという大規模な通報が行なわれたとみられます」と話す。
ただ、ネットを強力な武器にしていた斎藤陣営にも逆風が。
「“斎藤氏はそもそも選挙に出る資格がない”と抗議する人が、斎藤氏を非難するプラカードを持ち演説会へ行く光景も現れています。その場でこうした人に集会の聴衆の一部が暴行を加え、現行犯逮捕された場面、とする動画が拡散しています」(地元記者)
“分裂状態”の自民党
もっとも、街頭演説やネットで見える光景と選挙情勢は別だという見方もある。「自分は自民党員だが斎藤さんを応援したい」という建設会社社長は話す。
「建設業界で何回も選挙をやってきた経験で言えば、動員なんていくらでもできるし、ネットに至っては海外からも手を突っ込めるので、あんなものでは選挙情勢は読めません。
重要なことは、兵庫県は“自民党の県”だということです。業界ごとにある組織票がきちんと動くかどうかが選挙を左右するんです。今回も、自民党がどれだけ組織票を実際の投票に結び付けるか、が結果を決めるでしょう」
その自民党は県議団が稲村氏を推しているものの、斎藤氏の支持グループもあり「分裂状態」と報じられてきた。
「自民党でも県議や国会議員、自治体の首長ら、知事と接点の多い人ほど斎藤氏を嫌っています。斎藤氏が知事として意思疎通をしなかったことが原因でしょう。こうした人たちは追い上げに危機感を持ち、最近本腰を入れ始めました」(自民党関係者)
12日には県内で当選回数11回を誇る重鎮の衆議院議員・渡海紀三朗氏が、斎藤氏は知事時代に「我々に何の説明もなく」重要政策を決めるなど資質が疑われると批判し、稲村氏への支援を呼びかけた。14日には県内29市のうち22の市長が名を連ね、同様の趣旨で稲村氏を支持すると表明、市長7人がそろって記者会見を開いた。
「異例の会見に動いた関係者は、『稲村候補は外国人参政権実現を図っている』などのデマがネットでまき散らかされ、保守層の切り崩しが図られている。市長らの支持者に安心して稲村候補に投票してもらうためにも、会見を開く必要があった」と話した。
自民党が組織を固め直して逃げ切るのか、斎藤氏が再び県庁に戻ってくるのか。大混乱が続く兵庫県の先行きを決めるときが近づいている。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
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