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〈兵庫県知事選〉斎藤氏、大逆転のなぜ「あんたらマスコミが一番わかってるでしょう」カギはYouTubeとあの政策に? 最後の演説会ではあわや大事故の場面も

集英社オンライン / 2024年11月18日 11時0分

〈大激戦・兵庫県知事選〉猛追・斎藤前知事「パワハラではなく指導だった」逃げる稲村氏「対話したら人の命は失われなかった」〉から続く

兵庫県の斎藤元彦前知事(47)の失職に伴う出直し知事選が11月17日に行われ、再出馬した斎藤氏が当初の劣勢を跳ね返し大逆転で当選した。パワハラ、公金不正支出疑惑などが告発されたことを発端に、県議会議員86人の全会一致による不信任決議案が可決された斎藤氏。再選を実現させた有権者は何を考えたのか―。

〈画像〉斎藤氏の演説に人が集まりすぎて、あわや崩落の危機となった空中廊下

「倫理的に問題がある内容なので、元県民局長Aさんは信用できない」

17日、地元紙が開票開始と同時の午後8時に斎藤氏が当選確実だと報じると、神戸の繁華街、元町の一角にある斎藤氏の選挙事務所前はお祭り騒ぎになった。

「大型選挙では同種の事例を探すのが難しい大逆転です。3月に当時の斎藤知事らの疑惑を告発した元県民局長・Aさん(60)が公益通報者保護法違反の疑いが指摘される懲戒処分を受けた後自死したことに絡み、県議会は9月に斎藤知事の告発への対応は不適切で県政を混乱させたとして議員全員による完全な不信任を突きつけ、斎藤氏は再出馬するため失職を選びました。

そこで自民党県議の多数派と立憲民主党系の県民会議の県議らが推したのが稲村和美・前尼崎市長(52)です。連合の支援も取り付け、四面楚歌に見える斎藤氏とは比較にならない組織力をまといました。疑惑が連日ワイドショーで報じられ知名度が抜群だったことを除いては悪材料しかなった斎藤氏が、稲村氏に勝てると考えた人は当初、ほとんどいなかったでしょう」(県関係者)

実際、県政界筋によれば、世論調査で稲村氏は最大で15ポイント以上、選挙公示後の11月上旬にも10ポイントの差を斎藤氏につけていた。

「楽勝、のはずでした。ところが11月9日ごろには差は3ポイント前後に縮まり、情勢の大変動が起きました。そして実は13日ごろには逆転されていました」(稲村氏を支援する自民党筋)

結果、ふたを開けると斎藤氏は約111万4000票で、約97万6000票の稲村氏に快勝。投票率は55.65%と、斎藤氏が前回当選した2021年より14.55ポイントも増えた。何が起きたのか。

「ネット空間で完全に出遅れました。まず、斎藤氏を告発したAさんの県公用パソコンに入っていた個人情報の“内容”とするものが流布されました。これが倫理的に問題がある内容なのでAさんは信用できない、との空気がつくられ、『疑惑は嘘で、斎藤知事は陥れられた』と考える人が爆発的に増えました。

斎藤氏を応援すると言って出馬したNHK党党首、立花孝志氏がAさんに絡むことを街頭演説で話し、この動画がYouTubeで拡散したことも効きました」(稲村陣営関係者)

「責め方が異常、裏に何かあると思ってた」「YouTuberが話してた」

この見方は本当なのか、斎藤氏の支持者に聞いてみた。

街頭演説会に来た50代の女性Bさんは「私はこれまで大阪の親戚の話を聞いて維新に投票してきましたが、今回初めて演説会に来ました」と言う。斎藤氏の疑惑や、反対の応援の動きをどう見ているかたずねると、言葉を選びながら答えてくれた。

「斎藤さんは100%悪いって思ってたんです。それが揺らいだのは親戚の話からで、YouTubeを見始めました。ネットの話も鵜呑みにはしませんよ。でも何が正しいのか分からなくなって実際に聞いてみようと思ったんです。
聞いてみると斎藤さんは実直という印象です。政策もいろいろされていることが初めて分かり、続けてもらった方がいいかなと思います。疑惑? 実際どうかは判断できないですね」(Aさん)

50代の女性Cさんは声をかけると「なんで斎藤さんを推すのかって? あんたらマスコミが一番わかっているでしょう」と声を荒らげた。ご自身の気持ちを教えてもらえませんか、と頼み込むと機嫌が直り、関西のおばちゃんらしく親切に心のうちを話してくれた。

「立花さんが出てくるよりもずっと前、ワイドショーで毎日斎藤さんが取り上げられていたころから、私はそれを見て胸が痛かったの。なんであんなに責め立てるんやろって。私も人の親、お母ちゃんやから。家族にも『もうテレビ見るのやめよ』って言ったくらい。毎日毎日、これでもかこれでもかって。辛かったのよ。この責め立て方は異常や、裏に何かあるで、って思ってたら、案の定そうやった」(Cさん)

メディアは問題がないと知りつつ県議とともに斎藤氏を糾弾したのだから、斎藤氏が素晴らしい知事なのは記者なら知っているはずだ、というのがCさんが最初に怒った理由のようだった。

60代後半の女性、Dさんは「年寄やからって甘く見たらあかんよ。私なんかずっとネットで調べ続けているの」と話した。今回の問題は斎藤氏の前に20年間続いた井戸敏三元知事の時代につくられた利権に斎藤氏が挑戦したので起きた、というのがDさんの分析だ。

「一般の県民では分からない裏の人事のこととかがYouTubeでワラワラ出てきているじゃない。その利権をなくそうとした斎藤さんの足を引っ張ったのが県民局長(Aさん)。パソコンからおかしな証拠が出てきたけどね」とも言う。情報にはいちいち「〇〇さんが言うには」と出所もつけてくれる。立花氏や有名YouTuberの名前を挙げた。

3人を含む、支持者の多くは斎藤氏の行財政改革に賛同している特徴もあった。斎藤氏は演説で、県庁舎の建て替え凍結や県の海外事務所削減で財源をつくり、若者や女性、障がい者支援に回すと強調した。支持者はこれらの政策をよく知っていた。

あわや大事故に…

17日の朝日放送の出口調査では、3年間の斎藤県政を肯定的に見る人は7割に上った。投票で一番重視するものを問う質問に告発文書問題を挙げたのは1割で、「政策や公約」が最も多い4割だったという。告発問題を問おうとする人がそもそも少なく、ネットで触発され聞きに行った演説で公約に触れ、賛同した人が増えた可能性がある。

支持者が増え続けた結果、選挙戦最終日の16日にはあわやというハプニングもあった。斎藤氏が最後の演説会場に選んだ神戸の中心、三宮センター街東口には数千人の聴衆が集結。そばにある長さ20メートル程度、幅4メートルほどの空中廊下にも多数が集まった。

そこで「人の重みで廊下の床がたわんでいるのが下からはっきり分かり、底が抜けるか廊下全体が群衆の上に落ちてくるんじゃないかとビビった」(目撃者)事態が起きたのだ。

110番通報が警察に入り、真下にいた人は大慌てで避難。群衆は廊下の上にいる人に「逃げろー」と叫んだ。

実はこの時、集英社オンラインの記者も現場付近におり、下の聴衆が上を見上げて「落ちるぞー」と叫んでいることに気づき声をあげた。ほとんど同時に空中廊下の上に駆け付けた建物管理の関係者がハンドマイクで避難を呼びかけ、上にいた数十人が一斉にそばの建物に逃げて事なきを得た。

「斎藤氏の演説が遅れ、開始前だったから異常に気付けたのではないか。演説が予定通り始まっていれば、たわみに誰も気づかないまま廊下の上の聴衆がどんどん増え、さらにヤバくなっていたはずだ」と在阪記者は話す。

Aさんが告発した一連の疑惑は県議会の調査特別委員会(百条委)が扱っており、真偽の見極めや責任追及の判断は、知事選の結果やネット上の言説に圧力を受けることはあってはならない。

だが、神戸随一の繁華街に空前の規模の支持者を集め、3年前の選挙で得た86万票をはるかに上回る票数で再選された斎藤氏の権力基盤は確実に強化された。そんな中で疑惑はきちんと調査されるのか。斎藤県政のシーズン2が幕を開ける。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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