家電量販店の優等生・ノジマが営業利益率で勝るヤマダ、ビックカメラに劣る数字…VAIO買収の先に潜む死角とは
集英社オンライン / 2024年11月22日 7時0分
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家電量販店のノジマがパソコンメーカー「VAIO」を合計112億円で買収する。ノジマは「デジタル一番星」という旗印のもと、家電周辺にある事業を次々と買収して成長してきたが、今回のM&Aもその一環だろう。売上の拡大ペースには勢いがあり、利益率は業界の中でも優等生と呼べる水準なのだが、株価がついてこないという最大の課題がある。
わずか10年で売上高を3.5倍に成長させた、ノジマの多角化経営戦略
ノジマは2014年に事業の多角化が決定的となる転換点を迎えた。
この年の3月にケンウッド・ジオビットの買収。この会社はJVCケンウッドが展開していた携帯電話の販売事業で、ソフトバンクとウィルコムのキャリアショップを67店舗も持っていた。
そして11月には携帯電話販売代理店のアイ・ティー・エックスを取得すると発表。これによってノジマは関東甲信越エリアの携帯電話販売店が業界3位となり、先行するティーガイアに迫る勢いとなった。
ノジマの業績は2012年3月期から2期連続の減収で停滞しており、、オーガニックでの成長に限界が見え始めていたのだが、ケンウッド・ジオビットを子会社化した2014年3月期は9.2%の増収に。
アイ・ティー・エックスが業績に反映された後、2016年3月期は売上高が4548億円となり、前期のおよそ1.9倍に跳ね上がった。
2017年にはニフティを取得し、プロバイダ事業へと参入。さらに2021年には衛星放送事業者であるAXNエンタテインメント、ミステリチャンネルなどを買収して放送事業にも進出した。
2019年にはスルガ銀行と業務提携をして金融事業への参入を試みたものの、経営の方向性が合致せずに頓挫。
2社の提携関係は解消されたが、ノジマは2023年にFX投資などを行うマネースクエアHDを取得して金融事業への参入自体は果たした。
この年には携帯電話販売のコネクシオを買収し、携帯電話販売におけるシェアをさらに高めている。
こうしたコングロマリット化によって、2014年3月期は2000億円台だった売上高は7000億円を超える規模まで成長。そして今回のVAIOの買収は、さらなる多角化に拍車をかけることになる。
稼ぐ力で他社を圧倒するノジマの強さの源泉は?
ノジマは2025年3月期上半期の売上高が前年同期間比9.8%増の3931億円、営業利益が同47.8%増の199億円だった。
今期は上半期だけで首都圏の駅前好立地を中心に7店舗新規出店し、デジタル家電専門店運営事業が11.3%の増収となる1453億円と好調だった。
ノジマは売上規模においては、ヤマダホールディングスやビックカメラに遅れをとっているが、本業での稼ぐ力を示す営業利益率は5.1%と業界でもトップ水準だ。
ちなみに、ヤマダは2.9%、ビックカメラが2.6%である(ビックカメラは2024年8月期通期の数字。それ以外は2025年3月期上半期のもの)。
ノジマのデジタル家電専門店運営事業に限定すると、利益率は6.0%に及んでいる。
この会社はメーカー販売員を置かない家電専門店として知られており、顧客の要望や悩みを専門店のスタッフが吸い上げ、商品を提案するというコンサルティングセールスに強みがあるのだ。
これが稼ぐ力の源泉になっているのだろう。
好立地に店を構えるビックカメラはインバウンド需要の受け皿となって好調だが、会社単体でも営業利益率は1.4%ほど。ヤマダのデンキセグメントに限定しても利益率は3.4%だ。
ケーズホールディングスが3.2%、エディオンが3.8%であることをみると、やはりノジマの利益率は他社を圧倒している。
しかし、株価がついてこない。
ノジマの2024年3月期のROEは12.1%。ROEは株主が出資したお金を使い、どれだけ利益を出したのかを見るもので、近年の投資家が最重要視する指標の一つだ。
ヤマダが3.0%、ビックカメラが9.6%であることを考えると、12.1%は家電量販店の中では極めて高いものだ。
しかし、ノジマの時価総額は2440億円で、ヤマダの4519億円、ビックカメラの3230億円と比べると見劣りする。売上規模で勝るケーズホールディングスですら2678億円なのだ。
さらにノジマのPER(株価収益率)は10.8倍で、ヤマダ、ビックカメラ、ケーズホールディングス、エディオンの中で最低。
PER(株価収益率)とは、株価を1株当たりの利益で除して求めることができる。株価が割高か割安か判断するものだ。
すなわち、高収益体質のノジマは競合他社と比較して割安であるにも関わらず、放置されているということなのである。
ノジマのVAIO買収にどれだけのシナジー効果があるのか?
過度な事業の多角化を進めた先で、市場評価が下がる現象を「コングロマリットディスカウント」と呼ぶ。
かつての東芝や日立製作所が典型的な例で、2社ともに事業を整理してコングロマリットの解消を進めた。
通常、M&Aなどで事業の多角化を進める場合、シナジー効果が生じて価値は高まりやすい。
例えば、ビックカメラは2012年にコジマを連結子会社化したが、これは都市型のビックカメラと郊外型のコジマで出店エリアの相互補完ができるというシナジー効果に期待してのものだった。
ヤマダは2011年に住宅メーカーのエス・バイ・エルを連結子会社化した。
家電量販店が住宅事業に参入することで世間を驚かせたが、ヤマダは顧客に対して太陽光発電やオール電化の提案をしやすくなった。住宅展示場と家電量販店を同じ敷地内に入れられるなど、シナジー効果は高い。
ヤマダもコングロマリット化を進めているが、顧客の暮らしを支えるというテーマが通底している。
一方、ノジマは「デジタル一番星」という方針は掲げているものの、一時はスルガ銀行との資本提携を進めるなど、一貫性に欠けている印象を受ける。
携帯電話販売事業や衛星放送チャンネルなど、やや斜陽化している産業を強化している点も気がかりだ。
そこにパソコンの製造や販売を行うVAIOの買収である。VAIOは2024年5月期の純利益率が2.3%と決して高い水準ではない。純資産50億円ほどの会社に111億円(概算額)の価値をつけた。
家電量販店の市場規模は長らく高止まりが続いており、決して将来性のある産業とはいえない。
その中で、ノジマはコングロマリット化を進める戦略をとった。それを株価に反映することができるのか、経営手腕が問われる局面だ。
取材・文/不破聡 サムネイル/Shutterstock
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