バカリズムの“狂気”で成り立つ、コスパ度外視な『私のバカせまい史』。その全過程を公開「スタッフさんは、どんな番組よりもつらい仕事だと思うけど…」
集英社オンライン / 2024年12月1日 17時0分
何度かの特番時代を経て、2023年よりレギュラー放送中の『私のバカせまい史』。誰も調べたことがないような“せま~い歴史”=「バカせまい史」を紹介する内容で、『カノッサの屈辱』『トリビアの泉』『お厚いのがお好き?』といったフジテレビ深夜番組の系譜を感じさせる。同番組の魅力は、なんと言ってもMCで研究長のバカリズムの“狂気”とも言えるほどの情熱だ。企画から放送まで、一体どのように作られているのか。バカリズム本人に話を聞いた。〈前後編の前編〉
「ギャンブル性が高いし、コスパも悪い」
――『私のバカせまい史』では、企画会議から参加されていると聞きました。
バカリズム(以下同) 番組が立ち上がってからしばらくは、僕もスタッフさんと一緒に会議や打ち合わせに参加してましたね。
2022年の特番の頃からしばらくは、1チームで企画を練って、そこから各研究員に振り分けていくやり方だったんですけど、レギュラー番組になってからは、扱うネタもかなり増えたので、最初から複数チームで担当するようになり、そこからは他の人のネタは基本お任せしています。僕としては参加したい気持ちはあるのですが、なかなか時間もなくて。
――会議ではどんなことを話し合うのでしょうか。
作家さんもディレクターさんも僕も、まずはひたすらネタの案を出して、その中でどれが広がりそうか、誰が発表するのがいいか、っていう感じですね。最初の特番の頃はとくに、ギリギリまで詰めて、「これは僕やります」とか「これはあの人がいいね」とか。
難しいのは、タイトルの響きもよくて、広がりそうだなと思っても、実際に深くリサーチしてみたらそこまで情報が出てこなかったり、情報はあってもおもしろい結果にはならなかったりがけっこうあって。
逆に、最初はそこまで期待してなかったのに、リサーチの結果、ものすごいおもしろい歴史があったりとかもあるので、蓋を開けてみないと本当にわからない。ギャンブル性が高いし、そういう意味でコスパは悪いと思います。
――毎週のレギュラー番組でそれを続けていくのは、かなり根気がいりますね。
スタッフさんはみんなそれぞれに、タイトルだけのストックをたくさん持っているんですよ。それを定期的に会議で発表したり、ちょっとだけリサーチも進めてみたり、同時進行でいくつも抱えています。
あとは、思いついた時はピンときてなかったけど、時間が経つとやっぱりいいかもと思えてくるネタもあるので。
ちょっと前(11月7日)に放送された「野呂佳代の女優風いじり警戒史」なんかは、前々からストックとしてはあったけど、しばらく寝かせていたネタです。そうやって、継ぎ足し継ぎ足しで続けていますね。
――リサーチで情報が集まったあと、台本にはどのように落とし込んでいくのですか。
発表する人によって、進め方はそれぞれ違います。僕の場合だと、リサーチ資料をもとに、まずは作家さんにざっくりとしたプロットというか箱書きを作ってもらって、全体のイメージを膨らませます。
そこから追加で調べてもらったり、情報をもとにグラフを作ってもらったり、大幅に手を入れるというか、ガッツリ自分で台本を書きます。
一般的な情報としてはほとんど意味がないことでも、この番組的におもしろくなることはたくさんあります。それが番組を続けていく中で、だんだんとスタッフさんとも共有できるようになり、コツもわかってきているので、最近は「このグラフも作ってみました」「そうそう、こういうのほしかったんですよ」みたいなこともけっこうあります。
収録が近づいてきて、これ以上は広がらないって悩んでいるときに、本筋とは全然関係ない情報が、意外とおもしろく使えるかも、って思うこともあって、それを掘り下げてネタとして発表しちゃう、っていう。
実務レベルでの「研究長」として責任
――ひとつの番組にそこまでの労力をかけるのは、やはりMCとしての責任感から?
MCでもあり、研究長としての責任ですね。自分が発表する場合は収録本番の3日くらい前から本格的に取り組むのですが、ギリギリまでリサーチをお願いしたりもするし、それが雲を掴むようなお願いだったりもする。それでも、考えに考えた結果、その情報は使わなかったりもします。
一方で、研究員という役割の出演者の皆さんは、ほかの番組と比べても圧倒的に労力がかかることを承知で、忙しい中参加していただいている。だからこそ、自分が一番大変な思いをしていないと申し訳が立たない。
それはスタッフさんに対してもそうで、スタッフさんも寝ないでリサーチしていると思うので、僕も負けないくらい寝ないで作業します。つらい仕事だとは理解していますが、『バカリズムも寝てないんだ』って思えば、多少の励みにはなるのかなって。
とにかく自分が一番、時間と労力をかけて、この番組に取り組まなきゃと思っています。
――バカリズムさんの肩書き「研究長」というのは、番組上の設定ではなく、実務レベルでの研究長だと。
完全に実務です。バラエティ番組だと、名前だけの所長とか局長とかありますが、この番組においては、ちゃんと先頭に立って、実際に研究に取り組んでいるからこそ呼んでもらえる研究長です。
そのうえで、あくまで番組ですから、なにより本番でウケることによって、それまでの苦労も報われると思うので、ちゃんとおもしろい研究発表になることは常に意識して、大事にしていますね。
あとは、これも研究長の責任として、スタッフさんのモチベーションを維持することも心がけています。極力飛ばないように、慰労会と称してみんなで焼肉に行ったりもしています。
――テーマ選びにおける、わかりやすさと、あえてのニッチさのバランスについては?
誰が発表するかによっても違ってきますが、僕の場合でいうと、テーマを発表したときにキョトンとされるくらいのほうがゾクゾクはしますね。
これまで誰も興味なかったようなものを掘り下げるというのが、もともと番組の趣旨としてあるので、やっぱり誰もが食いつくようなテーマよりは、最初に「なんだそれ?」って思われるくらいの無意味さはほしいかなと思います 。
――バカリズムさんの中で、番組の理想形というか、うまくいったなと思う回は?
情報とおもしろさのバランスがよかったのは、最近だと「言ってない名言史」ですかね。
――石田純一さんが、実は「不倫は文化」とは言ってなかったとか。
それです。ほかにもよくよく調べると、実は言ってない名言がたくさんあって資料を読むだけでも楽しかったです。それをまとめて、お笑いの方向に持っていくために、しょうもない展開も考えつつ、自分のネタっぽい感じにできて、うまくバランスがとれたなと思います。
「一通りやり尽くしたあとに出てくるものこそがおもしろかったりする」
――こういうテーマだと発表がうまくいく、というような傾向はありますか?
僕はあんまり興味がないというか、フラットに向き合うという意味で、なんとも思ってない、むしろ愛がないときのほうがおもしろくなる感覚がありますね。愛情を持っていると、かえっておもしろくできない。
逆に、霜降り明星のせいやさんは、ものまねだったりとか、対象への愛にあふれているときが特におもしろくなるタイプ。
さらば青春の光の森田さんは、やっぱりちょっとバカにしているときが僕は一番好きですね。
ヒコロヒーさんは、割とどんなテーマでも自分っぽいネタに仕上げてくるタイプだと思います。
――ネタのストックについては、まだまだ続けていける感じですか?
これは番組制作に限らず、芸人にとってのネタも同じで、ネタ切れという意味では、とっくに切れてはいるんですよ。デビューして2年か3年もすれば、誰だってストックはなくなってくる。
ただ、ネタがないとか言いながらも、なんだかんだ常に新しいものは生まれてくるじゃないですか。むしろ、ストックがなくなってからが勝負というか、一通りやり尽くしたあとに出てくるものこそがおもしろかったりするので、そこはもう絞り出していきます。
――常にネタ出しとリサーチを続けていくしかない。
スタッフさんにしてみれば、どんな番組よりもつらい仕事だと思いますよ。普通の人間ならいつ飛んでもおかしくない。僕は異常者なので、全然そういう心配はないですね。その代わり、研究長であり異常者として、さっきも言いましたが、僕が率先して誰よりも時間と労力はかけるようにしています。
――労力とは別に、せっかく見つけた過去の映像や資料などを使用するには、権利関係のハードルもあります。
そうなんですよ。プロデューサーさんも「テレビの財産として後世に残したい」と言っているくらい、フジテレビの良心みたいな番組にもかかわらず、なかなか使わせてくれないことが多い。
許可だけでなく、二次使用のお金もかかるので、深夜番組の予算ではどうにもできなくて、映像を諦めることもよくあります。
でもそれで言うと、ご本人の許可がとれなくて映像が流せないのはまだしも、そもそも名前を出すこと自体がNGだったり、NGであることすらも世の中に知られてはいけない場合もあったりして、なかなかしびれますよ。
〈後編〉バカリズムが語るテレビ愛「テレビを悪く言う人は、テレビに関わらないでほしい」「必死に流行を取り入れようとすることの方がセンスない」 に続く
取材・文/おぐらりゅうじ 撮影/野﨑慧嗣
〈番組詳細〉
『私のバカせまい史』
毎週木曜日 24時25分~24時55分に絶賛放送中!
バカリズムがMCを務める、誰も調べたことがないような“せま~い歴史”=「バカせまい史」を紹介する、バカバカしくも知的好奇心をそそる新趣向のバラエティー番組。
〈バカリズムが語るテレビ愛「テレビを悪く言う人は、テレビに関わらないでほしい」「必死に流行を取り入れようとすることの方がセンスない」〉へ続く
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