広岡達朗「クライマックスシリーズはやめろ」リーグ3位の横浜DeNAが日本一でペナントレースの重みはどこへ…コミッショナーによる改革への期待も
集英社オンライン / 2024年11月27日 17時30分
〈「佐々木朗希は中4日のローテを守れるのか」広岡達朗の持論「体力のない投手はメジャーでは通用しない」NPBがメジャーのマイナーリーグ化することへの警鐘〉から続く
今季のプロ野球は横浜DenAベイスターズの日本一で幕を閉じた。しかし、横浜はセ・リーグ3位でシーズンを終えており、プロ野球ファンからはクライマックスシリーズ(CS)のあり方を問う声が噴出している。球界のご意見番、広岡達朗氏はCSに対して「無用」とバッサリ切り捨てるが…。『阿部巨人は本当に強いのか 日本球界への遺言』 (朝日新聞出版)より一部抜粋・再構成してお届けする。
【画像】日本一にふさわしいのはどの球団だったのか…
何度でも言う。クライマックスシリーズはやめろ
両リーグ計6地区30チームに肥大した大リーグには、地区優勝3チームと敗者復活のワイルドカードの3チーム、計6チームで各リーグの優勝を決めなければならない制度上の事情がある。
つまり各地区の1位チームが同じ条件で過酷なポストシーズンを戦ってワールドシリーズを目指すのだから、下剋上の単純な逆転優勝はない。
これに対し、日本のCSは2007年に始まった。リーグ2位と3位がまず3試合のファーストステージを行い、2勝先勝のチームがリーグ1位と4勝先勝のファイナルステージを戦う日本のCSは、大リーグのポストシーズンとは意味も中身も違う。
第一、2リーグ・各6チームしかない日本で、上位3チームが短期間の「敗者復活戦」を行ってどうするのか。私がいつも言うように、どんな制度にも理由はあるが、完全はない。日米どちらも、ペナントレースが終わったあとでポストシーズンがあればファンは楽しみが増えて喜ぶし、MLBやNPB、球団には入場料のほかにテレビなどの放送権料とグッズなどの事業収入が入る。
しかし、テレビの放送権料にしてもグッズや広告などの事業収入にしても、日本を中心に莫大な世界市場を持つ大リーグと、短期間の限られた放送権料と入場料収入しかない日本での経済効果は比較にならない。
ペナントレースの重みはどこへ
CSといえば、日本でもペナントレースで2位・3位のチームがポストシーズンを勝ち上がって日本一になった例が4回ある。なかでも2010年、西村徳文監督のロッテはパ・リーグ3位からCSのファーストステージで2位・西武に連勝し、ファイナルステージではソフトバンクを1勝3敗から3連勝で逆転してCSを突破。日本シリーズでも中日を4勝2敗1分で破って「史上最大の下剋上」を達成した。
一方のペナントレースでは、史上初の最終戦同率首位対決があった。
1994年10月8日、ナゴヤ球場で行われた中日-巨人の優勝決定戦は、長嶋監督が率いる巨人が3時間14分の激闘の末、6-3で高木守道監督の中日を撃破して「10.8決戦」として球史に残った。このあと長嶋巨人は日本シリーズで森祇晶監督の西武を4勝2敗で破り日本一を飾っている。
以上の試合はどちらも名勝負として野球ファンの記憶に残っているが、私が言いたいのは、どちらの勝利がリーグの代表で日本一にふさわしいのか、ということだ。
ロッテファンは当然「下剋上の大逆転」というだろうが、巨人は1勝の差でリーグ優勝を勝ち取り、日本シリーズに進出した。「1勝は1勝」という言葉があるが、巨人のペナントレース最終戦の1勝には長いシーズンを積み重ねた重みがある。
2024年も、4年ぶりにリーグ優勝した巨人がCSで3位のDeNAに敗れたが、私は日本シリーズの出場権があるのは、ペナントレースを勝ち抜いたチームだと思っている。短期決戦の敗者復活制度の勝者は、リーグ代表とは認めない。
だから勝負の真理を無視したCSはやめるべきだと思っているが、この問題は前述の契約問題とともに、コミッショナーが日本野球の将来のために、オーナー会議を説得して改革に取り組んでもらいたい
コミッショナーに改革の権限を与えよ
しかし最後に問題なのは、コミッショナーがプロ野球の将来のためにどんなに改革を目指しても、各球団の利益を優先するオーナー会議という大きな壁があることだ。
そもそもコミッショナーの任期は2年だが再任は無制限で、本人が辞めると言わない限り、任期中に正当な理由なく解任されることはない。
以前の「日本プロフェッショナル野球協約」では、その職権は「日本プロフェッショナル野球組織を代表し、これを管理統制する」ことで、「コミッショナーが下す指令、裁定、裁決ならびに制裁は、最終決定であって、この組織に属するすべての団体と個人を拘束する」とされていた。
「野球最高の利益を確保するために、この組織に属する団体あるいは個人に指令を発することができる」コミッショナーは、プロ野球界の最高裁長官であることを野球協約が保証していたのだ。
ところが1951(昭和26)年の制度施行以降、意欲的に球界改革に取り組んだのは1979(昭和54)年に就任した第7代・下田武三コミッショナーだけといっていい。外務事務次官や最高裁判事などを歴任した下田さんが先頭に立って実現した改革の一部は次の通りだ。
・「飛びすぎるボール」の飛距離を測定し、メーカーに反発力を落とすよう要望して1981(昭和56)年に従来のボールに戻させた
・1984(昭和59)年、日本の野球応援はうるさいとして「応援倫理三則」が定められた
・公式戦が行われる可能性のある球場を新設・改造する場合、野球規則に定められた広さに統一させた
・日本シリーズでセ・パ両リーグの条件を公平にするため、1985(昭和60)年からの指名打者制度の導入を決めた
・関東と関西に集中していたフランチャイズの全国分散化を提唱。退任後、福岡ダイエーホークス(現・ソフトバンク)や北海道日本ハムファイターズ、東北楽天ゴールデンイーグルスなどの発足や移転が実現した
ところが、下田さんの意欲的な球界改革は球団経営優先のオーナーたちに歓迎されず、1985年に退任。歴代のコミッショナーで最も仕事をした下田さんだが、野球界に貢献した人物を顕彰する野球殿堂入りは果たしていない。
長年、私が著書やコラムで書いてきた主張や提案についても、歴代のコミッショナーは「改革したくても我々には権限がないからね」と言葉を濁す。オーナー会議は、最高責任者であるコミッショナーに必要な権限を与え、下田さんのようにバリバリ仕事をしてもらうべきだ。
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