〈『サザエさん』55周年〉マニアが選んだ珠玉の神回「波平が痴漢に間違われ…」「ノリスケがまさかの失言で出禁に…」
集英社オンライン / 2024年11月26日 19時0分
1969年10月5日の放送開始から今年で55周年を迎え、「最も長く放映されているテレビアニメ番組」のギネス記録を保持している国民的アニメ『サザエさん』。
それを記念して11月25日から29日までの5日間は『秋の傑作選」が、11月26日には『国民的アニメの祭典 サザエさん55周年SP』が放送される。本稿では、2人の熱きサザエさんファンに話題の神回やお気に入り回について語ってもらった。
波平が買ってきたポンコツな機械
まずは、評論・情報系同人誌サークル『サザエさんじゃんけん研究所』の所長。運営しているサイトでは、アニメのエンディング内で行われるじゃんけんを毎週リアルタイムで記録するのはもちろん、「3週連続以上同じ手が出た回」の収集や、独自の予想方法に基づいて次の手を予想する取り組みを行っている。
そんな所長が“神回”と呼ぶのは、2007年5月27日に放送された第1913回、作品No.5875「父さん発明の母」。このエピソードは、今やネットミームにもなっている「全自動タマゴ割機」が登場した回だ。
使い方はかんたん、タマゴ割機の電気コードをコンセントに繋げ、卵を5個ほどセットし、レバーを引くだけ。排出された卵をアームがキャッチし、杭が打たれて殻がむけて、下に落ちるという“全自動タマゴ割機”。
なんともオーバーテクノロジーな機械だが、購入した波平は「どうだ、母さん。これがあれば楽になるだろう」「我ながらいい買い物をしたもんだ」とドヤ顔。
一方、カツオは「手で割ったほうが早いんじゃないかな」と冷静にツッコミを入れ、ノリスケに至っては「馬鹿馬鹿しい」「どうせ買うのは卵なんか割ったことのない関白亭主ですよ」とボロクソに言ってしまい、波平から出禁を食らってしまう。
この回の見どころについて、所長は「各キャラクターの暴走ぶりです。調子に乗る波平、終始ドン引きのサザエとフネ、便乗する子どもたち、失言して出入り禁止になるノリスケといったところです。“全自動卵割り機”など多数のネットミームの元ネタにもなっています」と解説する。
国民的アニメの保守的なイメージを覆す、ぶっとんだシュールな内容。のちに二次創作も盛んになり、サザエさんファンの間では知らない人はいない伝説回となった。
続いて神回を紹介してくれるのは、45年近く『サザエさん」を愛好し研究してきた男性・秋葉さん。
波平の薄毛をイジりまくるフネ
45年の歳月をかけて2022年までに放送された約8000本すべてのサブタイトルを収集し、“サザエさんに人生を捧げた男”と呼ばれている。また、フジテレビのクイズ番組『99人の壁』にも出演した経歴を持ち、SNSのX「磯野家のお茶の間」で毎日サザエさんのサブタイトルをつぶやき続けている。
そんな秋葉さんにベストオブ神回を尋ねると、三日三晩悩んだ上で、“昭和のサザエさんらしい秀逸な一本”と称するエピソードを紹介してくれた。
1971年1月10日に放送された第67回のCパート「お舟百まで波平九十九まで」。波平とフネが夫婦の愛を再確認する物語だ。
ある日、ご飯の中に髪の毛が入っていたことに波平が文句を言う。フネは洗い物をしながら「髪の毛っていうとすぐに頭にくるのよね。ひがんでるのよ、自分の髪の毛が一本しかないものだから」と小言を言うのだが、その後ろにはなんと波平が……。
当然、波平は激怒。2人は口をきかなくなるが、その数日後、波平が痴漢に間違われるというハプニングが起きる。
波平はフネに対して「信じてくれ。わしが愛してるのは永遠にお前1人なんだ」と力説するが、フネは懐疑的。しかし、波平の必死な思いを聞いて「あたしだってあなた以外に信ずる人はいませんもの」と笑顔になると、最後は雨の日に2人で相合傘で帰るシーンで幕引きとなる。
「夫婦の静かな愛の姿が描かれつつ、今のサザエさんではあり得ない演出とテンポのよさ。都々逸からきているサブタイトルも素晴らしいです。長らく波平さんを演じた声優の永井一郎さんも好きな一本とおっしゃっていました」と秋葉さんは語る。
今でこそ良妻賢母キャラのフネが、波平の頭髪をイジる皮肉屋な一面があったとは意外。しかし、ケンカして口をきかない期間でも波平を玄関先まで見送ったり、折り畳み傘を持っていてもわざわざ波平の傘に入ったりと、現代でいう“ツンデレ”のような可愛さがある。
秋葉さんはほかにも、1984年6月17日「イクラ YとN」、1981年6月14日「カツオ 木かげの夢」、2006年4月9日「初恋橋をわたろう」、1979年7月15日「カツオがブラジャー」なども神回だったとあげる。
カツオとブラジャーの奇跡の出会い
特に「カツオがブラジャー」は、日焼けをするためにベランダで寝ていたカツオに洗濯物のブラジャーが降ってくるという、放送初期の昭和のサザエさんらしい奇天烈なお話だ。
この回について秋葉さんは、「自分にとっても、Xで“記念すべき第一回つぶやき”をした思い入れのあるエピソードなのですが、最近は特番でも取り上げられ メジャーになってきてちょっと残念。私としてはこれからも、マニアックな神回を発信していきたいです」と語る。
55年前に放送がスタートし、年上のお兄ちゃんだったカツオが年下の弟になり、やがてサザエと同い年になり、ついには波平の年齢すらも超えてしまったという人も多くいるだろう。
長年、日本人と人生をともに伴走してきたアニメ『サザエさん』。時代の変化にともなって演出は変われど、家族を愛する気持ちは変わらない、その温かさを実直に描き続けていることが国民的アニメたるゆえんなのかもしれない。
取材・文/集英社オンライン編集部
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