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〈年収激減〉フードデリバリー配達員が稼げる時代は終焉? 出前館とUber EATSに見る国内市場の限界

集英社オンライン / 2024年11月27日 7時0分

家電量販店の優等生・ノジマが営業利益率で勝るヤマダ、ビックカメラに劣る数字…VAIO買収の先に潜む死角とは〉から続く

今期の出前館の決算は衝撃を持って迎えられた。オーダー数、流通取引総額、アクティブユーザー数ともに減少し、2024年8月期は2%の減収だったのだ。そこに見え隠れするのはフードデリバリー市場の縮小という悪夢だ。最盛期は年間1000万円稼げると話題になった配達員だが、注文数の減少、配達エリアの縮小、報酬の減額で懐が寂しくなる未来も見えてくる。

【図表】出前館の流通取引総額と注文数

修正した想定よりも早いスピードで出前館の利用者は減少している?

アメリカのUber Technologiesのフードデリバリー事業は好調をキープしている。

2024年7-9月のデリバリー事業における取扱高は186億6300万ドル。前年同期間比で16%増加した。

この事業の取扱高は2023年度も2割近く増えていた。特にコロナ禍以降は右肩上がりの事業なのだ。

一方、出前館の2024年8月期の売上高は前期比2.0%減の504億円。もともとは8.9%の増収を計画していたが、会社予想を下回るどころか、減収という結果に終わっている。

出前館は2024年5月22日、傘下にあった法人向けフードデリバリープラットフォーム運営会社の株式会社くるめしを譲渡することを発表。

それと同時に業績の下方修正を行い、売上高を期初予想の560億円から510億円に引き下げている。

リリースのタイトルは「持分法適用関連会社の異動(株式譲渡等)、特別利益の計上(関係会社株式売却益)及び業績予想の修正に関するお知らせ」となっており、一見するとこの会社を売却したことが売上予想の引き下げに影響しているかのような印象を受ける。

しかし、くるめしは子会社ではなく持分法適用関連会社だ。

売上高は連結業績に影響せず、持分比率に応じた利益を財務諸表に反映させるだけである。

リリースの最終ページに書かれていた「GMV が期初想定より下回る見込みのため」という言葉こそが、この会社の行く末を占う最重要のものだった。

GMVとは流通取引総額のことで、出前館というプラットフォームにおいて取引された合計金額を表す。

出前館の2024年8月期の流通取引総額は1904億円。前期よりも7.4%減少している。注文数に至っては7031万件で、9%の減少だ。

出前館は2024年5月22日に2024年8月期通期の売上高を510億円に引き下げる下方修正を行った。この期の着地は504億円だ。

想定を更に上回るスピードで流通取引総額が削られているのではないか。

日常生活に溶け込み切れない日本のフードデリバリー

Uber Technologiesと出前館の業績の違いは、アメリカと日本でのフードデリバリーの利用状況の差によるものが大きい。

アメリカでは2018年の段階で、フードデリバリーは340億ドル(当時のレートで3.6兆円)もの市場を形成していた。

シェアトップのDoorDashがソフトバンク・ビジョン・ファンドなどから5.3億ドルもの資金を調達したのが2018年3月だ。アメリカのマクドナルドがUberEatsと提携して配達を強化したのが2017年である。

アメリカでは仕事や家事に追われて時短を目的としたフードデリバリー需要が強く、市場の大幅な伸長が見込まれていた。消費者の止むに止まれぬ利用動向があったわけだ。

一方、日本では事情がやや異なる。

食に関連する情報提供を行う「食の窓口」のフードデリバリーに関する消費者調査(「食の窓口が「出前・デリバリーサービスに関するアンケート調査」を実施」)によると、利用する理由のトップは「料理をするのが面倒な時」で38.6%。「特定の料理が食べたい時」が32.0%と続く。「忙しくて料理をする時間がない時」は24.9%と低い。

マーケティング・リサーチ会社のクロス・マーケティングが実施した調査(「宅配に関する調査(2022年)フードデリバリー編」)では、デリバリーで注文した料理のトップはピザで57%を獲得している。2位のお弁当は29%。3位の寿司が27%だ。

ピザは子供を持つ家庭から友人同士のパーティー、一人暮らしの学生や社会人まで、利用シーンの幅広さが特徴だ。「料理をするのが面倒」という消費者のニーズを満たすのにぴったりの料理だと言える。

しかも日本にはピザを手作りするという習慣がないため、「特定の料理が食べたい」という利用動向にも当てはまりやすい。

ただし、宅配ピザの平均単価はMサイズで2500円ほど。高額なために利用頻度は決して高くはない。高額なのは3位の寿司も同じである。

つまり、日常的にフードデリバリーを利用するという意識が低いのだ。 

アメリカもピザの宅配は人気があるが、ハンバーガーやタコスなど日常食での利用が中心だ。

Uber Eatsで最も注文が多い商品は、フライドポテト、ガーリックナン、パッタイ(タイ風焼きそば)など、軽食が多い(「The 2023 Uber Eats Cravings Report」)。

つまり、アメリカはフードデリバリーが日常に溶け込んでいるために市場拡大が望めるが、日本はコロナ禍という外出制限がなされた異常事態で市場が一時的に伸びただけであり、経済活動の再開とともに市場は縮小へと向かうのではないかと予想できるのだ。

その様子は、インターネット上での検索需要を調査するGoogleトレンドにも見てとれる。

巨額の資金調達を行って自社株買いを実施

過去5年における「Uber Eats(ウーバーイーツ)」の検索数は、2020年4月から5月にかけてピークを迎えたが、その後は右肩下がり。最盛期を100とすると、現在は20を下回る水準だ。「出前館」もほぼ同じである。

アメリカでシェアの高い「DoorDash」を調査すると、2024年2月に一時的に検索数が膨らんで100を形成しているが、60~70で安定的に推移している。この傾向は「Uber Eats」にも当てはまる。

2022年にDoorDashとfoodpanda、DiDi Foodが相次いで日本から撤退したが、コロナ禍ですら海外勢にとって日本は魅力的な市場ではなかったということだ。

出前館は2021年9月にZホールディングス(現:LINEヤフー)などから834億円もの資金を調達した。出前館は2024年8月期に37億円もの純損失を出しているが、これは資金調達による潤沢なキャッシュがあってのものだ。

しかし、出前館は2024年7月に最大50億円の自社株買いを行うと発表した。すでに9億円近い自社株を買い取っている。

巨額の資金調達は成長に必要な投資を行うことが目的だったはず。配達員の獲得やマーケティングに投じる計画だったのだろうが、今やその一部が、株価対策の自社株買いに使われているのだ。

白旗をあげているようにさえ見える。

度重なる価格改定と発注数の減少で稼げない職種に?

市場縮小の影響を真正面から受けるのが配達員だろう。

フリーランス協会は配達員の実態調査(「フードデリバリー配達員実態調査」)を行っているが、それによると、1週間の平均報酬で10万以上15万円未満との回答は2024年が4.2%で、2021年の6.5%から2.3ポイント低下している。

15万円以上20万円も1.1%から0.7%に下がった。その一方で、1万円以上10万円未満のゾーンがそれぞれ増加している。

つまり、かつてのように稼げる仕事ではなくなっているのだ。

出前館は2023年8月に配達員の基本報酬を引き下げた。同年は3月にも値下げ基調の改定を行っていた。

配達員への報酬を引き下げているのはUber Eatsも同じである。

フリーランス協会の調査では、個人年収に占める配達員としての収入割合が100%と回答した人は、26.9%で最も多い。調査した2万6550人中、7153人だ。次に多いのが2~3割で19.0%。1割が17.3%と続く。

つまり、専業配達員と1~3割程度の軽い副業配達員で二極化している。

フードデリバリーの市場が本格的に縮小するのであれば、この傾向は更に進むだろう。そして、稼ぎたい一方で仕事が少ない専門配達員は別の職種を選択するケースも増えるのではないか。

そうなるのであれば、出前館やUber Eatsなどのサービス提供者は、配達の質を高めるためのモチベーション維持に注力する必要があるだろう。

市場の停滞と利益を出しづらいというビジネス構造の中、難しいかじ取りを迫られる可能性もある。

取材・文/不破 聡 

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