「転売ヤー失せろ!」は世界共通の標語なのか? 「持てる者」が「持たざる者」の購入チャンスを奪う「転売」の各国事情
集英社オンライン / 2024年11月27日 17時0分
日本国内では目の敵にされている転売。欲しい人に欲しい商品が届かない悪弊を生んでいる。その構造を丹念に取材して解きほぐしたのが、『転売ヤー 闇の経済学』(新潮新書)だ。著者の奥窪優木さんに、各国で異なる「転売のカラクリ」を聞いた。
【画像】かつては1500円程度ながら、現在は中国で3万円で取引されることもある「モノ」
欲しい人に欲しいものが届かない
――「転売ヤー」を取材したきっかけはなんだったんですか?
奥窪優木さん(以下同) もともと中国を取材していたので、中国人が手掛けるビジネスの1つとして注目したのが最初です。
コロナ禍に品薄となったマスクやオムツの転売が流行った頃、ちょうど裏社会系の取材を多く手掛けていたのもあって、日本国内でも「転売」と騒がれているのをよく聞くようになりました。
転売は結局、消費者にもメーカーにも大迷惑です。欲しい人に欲しいものが届かないという悪弊がありますから。そこで関心を持って、くわしく調べてみようと思いました。
――日本ではSNSでの「転売ヤー死ね」の言葉通り、敵視された存在ですが、諸外国ではどうですか?
残念ながら、その感覚は全くありません。中国人転売ヤーは自分たちのことを「バイヤー」と名乗って堂々としています。アメリカなんかでも「リセラー」と呼ばれる、ごく当たり前の商売となっています。
自分の体験としても、アメリカ人の友人に「今度、転売ヤーの本を出すんだ」と言ったら「そんな当たり前のことが本になるのか? 絶対に売れないだろう!」と驚かれました。
――そんな事情があったんですね。日本人のような「転売ヤー=悪」だと思う感覚は、むしろめずらしいということですか?
そうですね。日本で転売ヤーが嫌悪感を与えるのは、同じ商品でも人によって買う価格が変わったり、金がある人のところにモノが行ったりすることが公平ではないという考え方が浸透しているからだと思います。
転売ヤーにとって、日本は商材の宝庫?
――中国の取材をしていたのがきっかけということで、この本には中国の事例が多く取り上げられてますね。
それもありますが、中国人転売ヤーにとって、日本には大きなビジネスチャンスがあると考えているようです。
――ビジネスチャンスといいますと……。
中国でお金を持っていても日本のようには購買意欲をそそられるような商品が少なく、意外とお金の使い道がないんです。入手経路がなく、手に入れたくても手に入れられないものも多い。
だから、めずらしい・品質がいい・ラインナップ豊富な日本の商品を、何倍の値段でも買い集めたいという人が多いわけです。
さらに、人口が多いから市場が大きいですよね。日本では商売が成立しないニッチな趣味であっても母数の人口が桁違いなので、趣味人口が日本よりずっと多くなります。
例えば、最近は中国でもレトロ趣味が流行っていて、カセットテープなんかは値段が上がっています。かつて1500円程度で売られていたマクセルの最高級モデルなんか、1本が3万円以上で取引されることもあります。
つまり、中国人から見たら、日本は転売商材の宝庫なわけです。しかも、日本の小売店は実勢価格をつけずに定価で売るのが普通なので買い付けも容易です。それが日本に中国人の転売ヤーが多い理由です。
「持てる者」が「持たざる者」の購入チャンスを奪い取る
――裏を返せば、日本人の転売ヤーは、普段から仕入れが容易ということでしょうか。
そうです。日本では人気商品はいつだって定価が当り前ですから。国内での転売では、購入制限がかかった品薄の最新ゲーム機を普通に家電量販店で買い、フリマアプリに出品して数万円を儲けた例をよく聞きます。
ちなみに取材した転売ヤーには、クリスマスに売り切れるであろう玩具を、商戦前に定価で購入し、合計20点の商品を売って、20万円以上を売り上げた者もいました。
また、百貨店の外商顧客になって、高騰の約束されたジャパニーズウイスキーやロレックスを定価で入手し、買取店で転売する方法もあるようです。
これでは一般消費者は高額な料金を支払わなければなりません。メーカー、消費者、社会が連携して対策を講じる必要があります。
――中には、犯罪がベースの転売もあると聞きますが……。
転売が犯罪の温床になるのは、購入経路に問題がある場合です。電子マネーアカウントの乗っ取りやクレジットカードのスキミングで、電子タバコや新幹線チケットを購入し、転売します。どちらも継続的に購入する固定客を確保できるので、犯罪者にとっては都合のいい商材です。
――取材が1冊の書籍になったわけですが、社会になにを伝えたいですか?
今の転売市場は、簡単にいうと「持てる者」が「持たざる者」の購入チャンスを奪い取るような状況に陥っています。「商品への愛」よりも「いくら払えるか」で購入の可否が決まる状態は、市場の摂理といえばそれまでです。
しかし、個人間で商品と代金を取引するデジタルサービスを背景に“現代のヤミ市”が興隆するなか、これまで当たり前に手に入れることができたモノが手に入らなくなり、悲しい思いをする人がいることは確かです。そんな転売問題にどう対処していくのか。果たして悪いのは転売ヤーだけなのか。社会全体で考えていく必要があります。
取材・文/宿無の翁 写真/わけとく
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