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“勃起できない”ことを忘れた75歳の認知症夫が毎晩迫り、70歳妻が不眠症に…タブー視される高齢者「性的逸脱行動」の実態

集英社オンライン / 2024年11月27日 17時0分

精神科病院の入退院の相談、カウンセリングもかねて、患者やその家族の話を聞くソーシャルワーカーという仕事がある。その相談の中には、認知症の高齢者の家族でパートナーや患者本人の性の問題に悩んでいる人も多い。今回は、精神科病院のソーシャルワーカーとして働いて4年目の中村さん(仮名・44歳・女性)に、その実態を聞いた。

【画像】「おむつ一丁でベッドに潜り込む人も…」実態を語る中村さん

「夫が毎晩、迫ってくるが、頻度が異常」で認知症外来を受診

高齢者介護の道一筋で、社会福祉士と精神保健福祉士(PSW)の資格の保有者である中村さんは、40歳の時に転機があり、高齢者介護の世界から、精神医療の世界へと転身した。

ソーシャルワーカーの元には、誰にも相談できない、身内の精神疾患に悩む家族が日々、連絡してくる。

「特に、高齢者の性の問題は、昭和世代は “秘め事” という意識が強いです。それなので、“(家族が)恥ずかしいことをしている” と前置きして、しどろもどろに相談する人も多いです」(中村さん、以下同)

その中で、中村さんの印象に残った高齢者の話を聞いた。

「認知症の症状に、いわゆる “色ボケ” と言われる、性的逸脱行動があります。旦那さんが、日常生活では普通なのに、夜になると、奥さんに性行為を求める。

それだけなら、性欲は高齢者になろうとあるので、問題ではないです。だけど、そこに認知症があると、自分が勃起しない・射精しないのに、夜に何度も奥さんに求め、奥さんが眠れなくなったケースがありました」

夫は75歳で、妻は70歳前半の夫婦だったという。

夫は、勃起しない・射精しないことを忘れて、何度でも迫ってくる。妻は薄々、認知症を疑っていたが、受け入れ続け、不眠になった。その末の夫婦での認知症外来の受診だった。

「旦那さんは、自分がもう “できない” ことは悟ったようで、受診のときに、何とも言えない悲しい顔をしていました。

だけど、やはり認知症の症状で、悟ったことも忘れてしまいます。それでも、奥さんは、自尊心を傷つけないために、拒否しなかったそうです。夫婦愛ですよね」

こういったケースは決して少なくはないという。

最悪、身体拘束も……

性的逸脱行動が、家庭内だけで収まっている場合はまだいい。

「ある男性高齢者は、どうしても周囲の女性の尻や胸を触るなどのセクハラをしてしまうので、受診しました。そういった人は、入院しても、他の患者さんに迷惑をかけてしまう。最悪、薬での鎮静や身体拘束する場合もあります」

昨今では、人権的な問題から、身体拘束の基準は厳しくなっている。とはいえ、他の患者がセクハラ被害に遭っていいわけではない。

性的逸脱行動をするのは、もちろん、男性高齢者だけではない。

中村さんが特別養護老人ホームに勤務していた頃、ショートステイに来ていた高齢女性は、紙おむつ一丁で、男性高齢者のベッドに潜り込むため、出禁になった。

他にも、寂しさを埋めるためか、女性高齢者同士が、一緒に眠っているところを発見したこともあるという。

性欲は三大欲求の一つ

なぜこのようなことが起こるのか。

「性欲は人間の三大欲求の一つです。高齢者になっても、個人差はあれど性欲はなくなりません。また、日本には性的なことを表立って語りにくい雰囲気があります。

ですので、何か “事が起きてから” 受診する人がほとんどで、それまでは誰にも相談できないことが多いです。

高齢者介護施設では、そういった高齢者のために、AVの鑑賞時間を作って工夫しているところもあります」

認知症の高齢者が、食べたことを忘れて、何度も食事を求めるケースなどは、よく耳にする。だけど、高齢者の性の問題は、タブー視されがちで、なかなか語られない。

三大欲求の一つでもあるのに、なぜ身体拘束されるような事態にまでなるのか。その背景には、介護・医療施設における人手不足の問題もある。

地域包括ケアシステムの穴

厚生労働省は現在、高齢者や精神障害者を地域で受け入れる、地域包括ケアシステムに舵を切っている。そして、精神科病院の領域では、2024年4月に精神保健福祉法が改正された。

精神保健福祉法が改正されたことで、今までは、医療保護入院(精神保健指定医1人による診察が必要。さらに、家族のうち、いずれかの者が同意している必要がある形態の入院)は、最初の入院期間が、3か月以上でも可能だったのが、最長3か月となった。

その後の入院期間の延長には、定期的な会議と、膨大な資料を提出することが義務付けられた。

「精神保健福祉法が改正されたことで、提出しなければいけない資料が膨大になり、それを見越した精神科医たちは、入院施設がある精神科病院を辞めています。

自分でクリニックを開業したり、入院施設のないクリニックに移ったりしています。介護施設の人手不足が問題となっていますが、精神科医療の世界も人手不足になっているんです」

人権的な側面では、精神科病院に入院し続ける患者が減っている現在は、いい方向に向かっていると言える。

だが、そういった高齢者や障害者を地域で受け入れられるかどうかは、別問題だと中村さんは語る。

「特に高齢者に限らず、性の問題は、日本ではあまり議論されていません。だけど、三大欲求の一つですし、高齢者向けのデリヘルの利用を介護保険サービスの枠内で受けられるなど、制度を見直す必要があると感じます。

サービスの枠内に取り込むことで、やっと真正面から性の問題に向き合えるようになるのではないでしょうか」

高齢者や障害者向けの性サービスを介護保険や障害福祉サービスの枠内で、提供するかには、現役世代の理解が必要となる。

「なぜ高齢者や障害者だけ、性サービスが割引(または無料に)されるのか」といった声も当然出てくる。

高齢者の性の問題を、“秘め事” ではなく、議論できる場や空気が必要なのではないか。

取材・文/田口ゆう サムネイル/Shutterstock

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